映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

だれかの木琴

2017年10月14日 | 映画(た行)
主婦の心の虚ろ



* * * * * * * * * *

夫・娘とともに新居へ越してきた主婦・小夜子(常盤貴子)。
新しく見つけた美容院で髪を切ります。
その日のうちに、担当の美容師・海斗(池松壮亮)から、
お礼の営業メールが届くのですが、小夜子はそれに返信。
その後も何度もメールを送り、美容院へ頻繁に顔を出し、
ついには海斗の家を突き止めて訪ねてきたりもする。
次第に、ストーカー行為がエスカレートしていく主婦の心の虚ろを描きます。



小夜子は以前見た空き家のことが忘れられません。
誰も居ないはずの家の二階の窓が開いていて、
そこからパラパラとした木琴の音が聞こえてくるのです。
幼女が叩いているような、曲にもならない木琴の音・・・。
それだけでなんだか怖い状況ではありますが・・・・。
小夜子はそれをしているのが自分自身であるような気がしています。
空っぽな部屋で、一人ぼっちで誰かに何かを訴えるように木琴を叩く。
けれどそれは曲にもなっていないので、誰にも届かない・・・。



小夜子は普通に良い生活をしています。
夫は仕事が忙しいけれど家に寄り付かないわけではない。
娘は反抗期の年齢だけれど、普通に学校に通っている。
家はこじんまりとした新築で、セキュリティに守られている。
ふと娘が
「外からの侵入には万全だけど、内側で起きることには対応できないね・・・」
と漏らすのが印象的。



通常はまずまず幸福と言っていい状況ではありながら、なお、小夜子の心は虚ろなのです・・・。
それは妻として、母としての役割ではなく、
自分をただ一人の女性として見てくれる人がいないから。
特に何をやりたいというような、人生の目的がないから・・・。
自分の中でうずく何かを、満たしてくれるものがないから・・・。
まあ、わかる気がします。
そんなところで、自分の髪に丁寧に触れる男性が現れる。
それは完全に仕事上のことなのだけれど、彼女にはそうとは思えない・・・。



池松壮亮くんみたいな美容師が担当してくれるなら、
私だってせっせと通ってしまうかも・・・?!
でもね、やっぱり執拗につきまとい始める小夜子には薄気味悪さが漂います。



さて、その付きまとわれる海斗の方なのですが、
一見ごく良識ある仕事熱心な青年。
よく泊まりに来る彼女もいます。
けれど時折彼がハサミやナイフを手にするシーンがあって、
何かぞくぞくさせられるのです。
本来持っている暴力性を無理に包み込んででもいるかのような・・・。
それは結局爆発することはないのですが、
ちょっと危険な匂いのする男というのもいいですよね。
「MOZU」に出演している池松壮亮さんを東監督が見込んで、
本作に起用したというのに、納得です。
原作を読んでみたくなりました。

<WOWOW視聴にて>

だれかの木琴 [DVD]
常盤貴子,池松壮亮,佐津川愛美,勝村政信
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


「だれかの木琴」
監督・脚本:東陽一
原作:井上荒野
出演:常盤貴子、池松壮亮、佐津川愛美、勝村政信、山田真歩
主婦の虚ろ度★★★★★
満足度★★★★☆