映画と本の『たんぽぽ館』

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「JR上野駅公園口」柳美里

2017年10月25日 | 本(その他)
魂すらも帰る場所をなくして・・・

JR上野駅公園口 (河出文庫)
柳 美里
河出書房新社


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1933年、私は「天皇」と同じ日に生まれた―
東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのために上野駅に降り立った。
そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。
高度経済成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、
福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、
そして日本の光と闇…。
「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」へ柳美里が贈る傑作小説。

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そういえば私、柳美里さんははじめてです。
本作は川本三郎さんの「物語の向こうに時代が見える」で紹介されていたので、読んでみました。


1933年、男は「天皇」と同じ日に生まれます。
生家は福島の貧しい農家で、
国民学校を出てすぐ、父母や多くの弟妹のために出稼ぎに出る。
その後ずっと、結婚し子供ができてからさえも、遠隔の地へ出稼ぎに出ている状態で、
家に帰るのはほとんど盆と正月、年2回のみ。
そんな男がはじめて出稼ぎで上野駅に降り立ったのは東京オリンピックの前年。
オリンピック関連施設の工事に携わります。
ドラマ「ひよっこ」を思い出してしまいました。
けれど男は記憶喪失になることも、蒸発することもなく、
地道に稼いでは仕送りを続けます。
長男が生まれたのは奇しくも「皇太子誕生の日」と同じ日。
しかしその長男は若くしてあっけなく命を落としてしまうのです。
男は自分の「不運」を嘆くことしかできません。


物語は、上野公園でホームレスとして彷徨う男のモノローグで語られます。
他のホームレスの生活の様子、
公園を訪れる人の何気ない会話、
そして上野の様々な歴史・・・
そのようなことが語られる合間に男の人生が語られていくのです。
だがしかし、終始地道に出稼ぎを続けていた男が、
なぜ上野に腰を下ろしてホームレスとなったのか。
終盤語られるその事情に胸を突かれます。
日本は高度経済成長を遂げた。
けれども、その流れから取り残されたままの人々もいる・・・ということ。


さらに終盤のあまりにも切ない展開には、絶句するのみ。
男は魂の帰るべき場所まで失ってしまった・・・。
強烈に力のある作品でした。


※「物語の向こうに時代が見える」掲載本
「JR上野駅公園口」柳美里 河出書房新社
図書館蔵書にて(単行本)
満足度★★★★★