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「無花果の実のなるころに」西條奈加

2018年01月25日 | 本(ミステリ)
おばあちゃんが解く日常の謎

無花果の実のなるころに (お蔦さんの神楽坂日記) (創元推理文庫)
西條 奈加
東京創元社


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お蔦さんは僕のおばあちゃんだ。
もと芸者でいまでも粋なお蔦さんは、面倒くさがりなのに何かと人に頼られる人気者だ。
そんな祖母と僕は神楽坂で暮らしているけれど
幼なじみが蹴とばし魔として捕まったり、
ご近所衆が振り込め詐欺に遭ったり、
ふたり暮らしの日々はいつも騒がしい。
神楽坂界隈で起こる事件をお蔦さんが痛快に解決する!
あたたかな人情と情緒あふれる作品集。


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西條奈加さんの、これは「日常の謎」連作短編。
いろいろなエピソードをつなぎながら、全体のストーリーが展開して行きます。
私には非常に馴染み深い形式。


語り手の僕・望(のぞむ)は、中学2年。
両親が仕事の都合で北海道に行っているので、
祖母のお蔦さんとともに暮らしています。
祖母の家は神楽坂にある履物屋さん。
近所の人が何かとやって来て上がり込み、おしゃべりしている昔ながらの場所。
望は、料理が苦手なお蔦さんに代わって料理全般を受け持っています。
そんな望の友人たちやご近所の人々が事件に巻き込まれた時に、
鋭い推理を働かせ解決に導くのは、望ではなくて、お蔦さん。
昔芸者をしていたというお蔦さんは、面倒見のいい女将さん肌。
・・・ということで、なんだか居心地の良い人情と情緒あふれる舞台背景が心地よい。
けれど、誰もが常にいい人であるわけではなく、
時にはほの暗い感情にかられたりもして、事件は起こる。


本作中では、振り込め詐欺に関わる話のところが好きでした。
望は、こんなに話題にも上がって注意を呼びかけられているのに、
どうして簡単に騙されてお金を振り込んでしまうのか、と、
騙された人に対しても歯がゆくてなりません。
けれどもお蔦さんは言うのです。
自分の大切な家族が困った立場に追い込まれていると聞かされたら、
人は冷静でなどいられないのだ、と。
実のところ私も望くんと同じように思ってはいたのですが、
確かに、お蔦さんの言うとおりなのでしょう・・・。
だからこそ、やはり家族同士そういうときのための合図を決めておくと良さそうです。


本作はシリーズ物になっているので、近いうちにまた、続きを読みたいと思います。

「無花果の実のなるころに」西條奈加 東京創元社
図書館蔵書にて(単行本)
満足度★★★.5