映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

否定と肯定

2018年01月17日 | 映画(は行)
ホロコーストはなかった?



* * * * * * * * * *

1994年、イギリスの歴史家デビッド・アービング(ティモシー・スポール)が、
「ホロコースト否定論」という本を出します。
その内容を看過することができないユダヤ人女性歴史学者の
デボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)は、
自著の中でアービングの説を真っ向から否定。
アービングは名誉毀損でリップシュタットを提訴。
リップシュタットはイギリスの弁護団とともにアービングと対決することに。



イギリスの司法制度では、訴えられた側に立証責任があります。
リップシュタットは本国アメリカを離れ、
イギリスの弁護団とチームを組むことになるのですが、
始めのうち彼らの方針が納得できません。
彼女はアウシュビッツの生き残りの人を証人に立てたいと思うのですが、
弁護団はそれを拒否。
更には彼女にも法廷での発言を禁じてしまうのです。
こんな手足をもぎ取られたような状態で、裁判に勝つことができるのか、
弁護団を信じきれないリップシュタット。



私もこんな裁判ならきっと実際の収容所体験者談などが必要だろうと思ったのですが、
そうではなかった。
むしろそのような体験談は相手側の格好の餌食になってしまうというのです。
言葉端をつつかれ、辱めるようなことを言われ・・・。
そんな失敗の経験も彼らは持っているわけでした。
そこで彼らの立てた作戦は、
あくまでもアービングの「ホロコースト否定論」の穴を探し出し、
崩し去ろうとすることでした。



リップシュタットには始め彼らがあまりにも理性的で、人の心を持たないように見えた。
けれどもそうではないのですね。
アービングの説のミスを探すためには、膨大な資料の読み込みと点検が必要なのです。
気の遠くなるような量のアービングの日記を読んでいくことさえします。
ひたすら忍耐と根気。
それを支えたのは、単なる職業意識ではなくて、
「ホロコーストはなかった」などというバカな主張がまかり通るのを防ぎたかった、
その意地だったのではないかと思う次第。
そうでもなければ、つづくことではありません。
また一旦決めた方針を、ひたすら突き詰めていく(リップシュタットの情にも流されず)
というチームとしての行動力も凄いなあ・・・と思いました。
自明の理と思うことでも証明するのは案外大変なことなんですね・・・。



それにしても、ホロコーストなどなかった、
犠牲になったユダヤ人は大した数ではない、
ヒトラーは偉大な指導者だ・・・
そんなことを声高に訴えて、それを支持する人もいるというのが、
信じられないし、恐ろしくも思います。
貴重な映画作品でした。


<シアターキノにて>
「否定と肯定」
2016年/イギリス・アメリカ/110分
監督:ミック・ジャクソン
出演:レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール、アンドリュー・スコット、ジャック・ロウデン
証明の難しさ★★★★★
満足度★★★★.5