映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

たかが世界の終わり

2018年01月03日 | 映画(た行)
兄の、弟へ対するコンプレックスが元凶



* * * * * * * * * *

自分の死期が近いことを伝えるため、
12年ぶりに帰郷した若手作家ルイ(ギャスパー・ウリエル)。
12年間寄り付かなかったルイの突然の帰宅に、
母(ナタリー・バイ)や兄(バンサン・カッセル)・妹は(レア・セドゥー)は、
一応歓迎するものの、戸惑いを隠せません。
そして、ルイは、自身のことを打ち明けようと思いながら
なかなか切り出すことができない・・・。



う~ん、とにかくこの家族の有り様が凄いといいますか、
多分ふだんは、ここまでではないのだろう。
けれどルイの登場で、家族は混乱を深めてしまいます。



問題はこの兄・アントワーヌですね。
ルイは多分家にいてもあまり喋る方ではない。
何を考えているのかよく分からない子と思われていたかもしれません。
そして思春期になって、彼はゲイだと判明する。
おそらくそのことが家を出るきっかけだったのでしょうね。
兄は、このようなすべてを含めて、
ルイに良い感情を持っていない。

ルイは寡黙が故に思慮深いと皆に思われていて、
ゲイであることも理解はできないけれども「特別」で、
家を出ていってしまったのは身勝手だけれど自由だ。
そして何よりも作家として成功した才能の持ち主。

アントワーヌは、自分になくて実は欲しいと思っているものをすべて持っているルイが
妬ましくて仕方がないのです。


が、弟が離れていればそんな思いは忘れていられた。
でも、突然目の前に現れた弟を見て、
くすぶっていた彼の思いは勢い良く溢れ出てしまったのでしょう。
しかし、彼はそれを自覚はしていない。
兄として、弟を歓迎しなくては、という気持ちもありながら、
出て来る言葉は辛辣なものばかり。
そのことがまた、彼を傷つけているようなのですね。
こうなったらもう、どうにもならない・・・。



母親は息子をひたすら溺愛。
妹はルイが家を出た頃はまだ小さかったのであまり思い出がない。
だからこそ期待感は大きく、もっと彼を知りたい思いでいっぱい。
と、様々な感情が入り乱れて、
ルイはそれだけで苦しくなってしまう。
そんな中唯一、普通の感情を持っていたのが兄嫁のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)なのですが、
ルイとカトリーヌのごく普通の会話さえも、
アントワーヌにとっては目障りでしょうがない。



アントワーヌの闇が、この家族の惨状の元凶。
この兄の思いの圧倒的な強さに、
ルイはそんなことに比べたら自分の死など大した問題ではない、
むしろ、自分がいなくなればすべて解決するのでは・・・?
などと思ったのかどうか・・・。
この題名が、そんな想像をさせるわけですが。



たかが世界の終わり [DVD]
ギャスパー・ウリエル,レア・セドゥ,マリオン・コティヤール,ヴァンサン・カッセル,ナタリー・バイ
ポニーキャニオン


<J-COMオンデマンドにて>
「たかが世界の終わり」
2016年/カナダ・フランス/99分
監督:グザビエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥー、マリオン・コティヤール、バンサン・カッセル、ナタリー・バイ

家族の闇度★★★★★
満足度★★★★☆