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「ゲド戦記 外伝」 ル・グイン

2018年01月02日 | 本(SF・ファンタジー)
アースシーの世界観、構想力に改めて驚かされる

ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝 (ソフトカバー版)
清水 真砂子
岩波書店


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アースシーを鮮やかに照らしだす五つの物語
「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」「トンボ」と、
詳細な解説を収める番外編。
ル=グウィンの構想した世界の全貌が見えてくる一冊。

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ゲド戦記Ⅰ~Ⅴを読んだきり、
この番外編を、放ったらかしにしていました。
やっと読んだ本巻で、鮮やかにアースシーの世界観が胸に蘇りました。
「外伝」ですが、発表順としてはⅣとⅤの間に本巻が入ります。


「カワウソ」は、ローク島のローク学院ができるまでのストーリー。
ゲド戦記の始まる300年ほど前のこと。


「地の骨」は、最初にゲドを教えた魔法使いを教えた魔法使いの物語。
ゲド戦記中でも確か伝説的に語られていた、
大地震を鎮めたという魔法使いの物語ですね。


「ダークローズとダイヤモンド」は、ラブストーリー。
魔法が使えるから、必ずしも魔法使いにならなければならないわけではない。
やはり人はその魂が指し示す方向へ行けばよいのだと、言っているようです。


「湿原で」では、なんとゲド本人が登場するのがちょっと嬉しい。
ローク島で恐ろしいほどに才能がある男が、
その力で他の人をも支配したいという欲望にかられていたのを、
食い止めた"大賢人"であるゲド。
ゲドがその後の彼の行方をたずねて、
はるばると辺境の地までやってくるという話です。
私はこの話が本作中では一番気に入りました。
やっぱりゲドはステキだ。


「トンボ」は、ゲド戦記の「帰還」と「アースシーの風」をつなぐストーリー。
ここに登場するトンボは女性なのですが、
ローク島に行って魔法を学ぼうとします。
しかし、ローク島は女人禁制なのですよ・・・。
この時点ではゲドはすでに大賢人の地位を捨てて、故郷へ戻ってしまっています。
その後の大賢人も決まらぬままに、
長たちの結束も乱れていた、そんな時。
外伝というにはもったいない劇的な展開があるのですが、
実のところそのあたりの「意味」が私にはよくわかりませんでした・・・。
ただし、冒頭の「カワウソ」にあるように、
このローク島の魔法の学校の始まりの時には
女性も多く関わっていたわけですから、
男たちだけの独善的なこのローク島のあり方が見直されていく時、
あるいは終わるべき時、ということなのかもしれません。


けれどここまで綿密に組まれたアースシーの世界観、
著者の構想力に圧倒されます。

「ゲド戦記 外伝」 ル・グイン 岩波書店
満足度★★★.5