どこか不思議なお仕事小説
この世にたやすい仕事はない (新潮文庫) | |
津村 記久子 | |
新潮社 |
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「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」
ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、
職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。
隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして…。
社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、
共感と感動のお仕事小説。
芸術選奨新人賞受賞。
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津村記久子さんは「ポトスライムの舟」を読んで以来でした。
ずいぶんご無沙汰してしまった。
私は普段から「お仕事小説」が好きなので、本作を手にとったのですが、
考えてみると「ポトスライムの舟」も、仕事と向き合う内容でしたっけ。
本作は"燃え尽き症候群"のようになって長く続けていた前職を辞め、
しばらく休んだ後、新たな職探しを始めた<私>の物語です。
「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」と半ば冗談のように言った<私>に、
職安の相談員はメガネをキラリと光らせて「あなたにぴったりな仕事がありますよ。」という。
それが、隠しカメラを使って小説家を監視するという仕事。
と聴けば簡単そうですが、毎日毎日録画映像とにらめっこ、
ほとんど変化のない映像ながら、ちょっとの間にも何が起こるかわからない、
となればいいかげんにもできないし、案外大変そうです。
で、本作はこんなふうに変わった仕事を紹介して、
その大変さを描くもの・・・かと思ったらそういうわけでもないのです。
<私>はもともと真面目で、どんなこともやり始めるとのめり込んでしまうようなのです。
本作中でも5つの仕事を転々としますが、
どうも「そこまでやらなくても・・・」と思ってしまうくらいに、彼女は一生懸命になってしまう。
けれど様々な仕事を体験するうちに、仕事と<私>との距離感を掴んでいく。
それと同時に、同じ職場の人々とのつながりがまた、彼女の力にもなっていく。
自分が自分らしくいて、それが仕事になっているというのは稀なことかもしれないけれど、
それも気の持ちようなのかな、という気がしてきました。
それにしても、現実的な物語のようでいて、どこか不思議な雰囲気をも漂わせる、
謎めいたストーリーでもあるのが面白い。
彼女がついた仕事の中で、私なら「大きな森の小屋での簡単なしごと」がいいなあ。
森の散歩は大好きだし、単純作業も好きです・・・!
そんな仕事があったら、紹介して!
「この世にたやすい仕事はない」津村記久子 新潮文庫
満足度★★★.5
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