映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

星守る犬

2009年09月10日 | コミックス
星守る犬
村上 たかし
双葉社

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記事のためにこの作品を思い出すだけでも、
なんだかこみ上げてくるものがあります。

表紙の絵がいいですね。
どこまでも続くひまわり畑の中に、一匹の犬。

この話は、まあ、冒頭からネタ晴らしなので、お話してしまいますが、
原野の放置車両内に、1人の男性の遺体が発見されます。
死後一年から一年半近くも経っていると思われる。
ところが不思議なことにそこに犬の死骸もあって、
そちらはもっと新しくて死後三ヶ月くらい。
どうしてそのような状況が生まれたのか・・・、
物語は、七年ほど前にさかのぼります。


捨て犬だったハッピーは、ある女の子に拾われました。
お父さんとお母さんがいて、ごく普通の家庭です。
時々遊んでくれるのが女の子。
ご飯をくれるのがお母さん。
そしていつも散歩に連れて行ってくれるのがお父さん。

でも少しずつ時が流れて、もう女の子は遊んでくれなくなり・・・。
ご飯はお父さんがくれることが多くなり・・・。
お父さんは会社にリストラされ、その上お母さんからは離婚宣告され、
途方にくれました。
マンションを売ってローンを払ったわずかな残りを分けて・・・。
ただ一つの財産となった車でハッピーと共に旅に出ます。


なんというか、お父さんは「犬好き」というのではないんですね。
家族に捨てられ、もうお父さんに残された温もりはこの犬しかいない。
唯一残された、「友」なんです。
犬にとっても同じなんですね。
いつも散歩に連れて行ってくれたお父さんは、
たとえお金がなくても、
家族に捨てられたさえないおじさんであろうとも、
信頼は揺るいだりしません。
ここが犬のいいところですよね。

つい先日見た「HACHI」を思い出しますが、
このストーリーはもっと壮絶ですよ。

ひなびた1人と1匹の気ままな旅・・・、のはずでした。
でも、いろいろあって、長くは続きません。
しかし、意外とお父さんはこれで幸せな最後だったように思えるのです。
むしろ哀しみを誘うのは、
いつかお父さんが目覚めるのを待って、
ずっと遺体に付き添っていたハッピーの方なんですね。
やっぱり、犬って「待つ」動物なんだと思います。


ここまでは、本当はこの1人と1匹しか知らないはずのストーリー。
けれど2話目、続編の「日輪草」で、
この不思議な二つの遺体のことが気になり、
この男の足跡をたどろうとする人が現れるんですよ。
結局男の身元はわからないのですが、
こうなってしまったいきさつがわかってきます。
二人の旅を理解した人がいた。
このことは、
ひそかな二人へのお弔い、
そして鎮魂歌の役割を果たしているように思います。
これもまた、心に残るストーリーです。


それで、表紙をあらためて見る。
ああ、そうか。
お父さんとハッピーが踏み込んだ原野は、
ひまわり畑ではなかったんです。
ごく普通の雑草の野原。
遺体があったその場所に、その男性がひまわりの種をまいたのですね。
そしてあたり一面がひまわりの花に覆われる。
・・・とすれば、このひまわり畑の中のハッピーというのは、
現実にはなかった風景なんです。
ひまわり畑の中でお父さんを待っている、
こんな幸せな光景をはなむけに描いているんですね。
・・・うん。
また泣きそうになっちゃいます。

良い本です。ぜひご覧ください。
ティッシュのご用意もお忘れなく。

満足度★★★★★

サンダーボルト

2009年09月09日 | クリント・イーストウッド
サンダーボルト [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

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隠された大金はどこ・・・?

          * * * * * * * *

さて、この作品を観て、まずあれ?と思うのは、
なんとクリント・イーストウッドが、牧師さんなんですよ。
教会で説教をしている。
あれ、この題名からして、アクションだと思ったんだけど、
違ったっけ?と思ったら・・・
いきなり、教会に乱入した男が牧師に向かって銃を乱射。
必死で逃げ出す牧師。
あーあ、やっぱりアクションでした。
実は、この牧師姿の男は朝鮮戦争米軍崩れの銀行ギャング、ジョン。
別名サンダーボルト。
以前銀行強盗でせしめた50万ドルのいざこざで、
当時の仲間に追われていたための、仮の姿でした。
この50万ドルの行方というのが、この物語の底にあるテーマです。
そこへ盗んだ車でたまたま通りかかったのが、
風来坊で威勢の良い若者ライトフット(ジェフ・ブリッジス)。
その車に乗り込んで、二人は逃走。
まったく見ず知らず同士だったのですが、
なぜか気が合って、この先コンビを組むことになるのです。
サンダーボルト&ライトフット!

これって、コン・ストーリーなわけですね?
そうです。
結局追っ手の二人とも手を組んで、以前と同じ手口で、同じ銀行を襲うことになるんですね。
綿密に計画を練って、すばやく、確実に・・・。
結構スリルがありますね。
この計画準備期間中、彼らは生活のためにまじめに働くんですよ。
アイスクリームを売ったり、デパートの清掃をしたり・・・・。
なんだか、このあたりが面白いんですよね。
そのまま、まじめに働けばとりあえず生活できるじゃん、
って思いますけどね。
いやいや、一攫千金こそ男のロマン、とでも申しましょうか~~~。

ライトフットは頭が良くてカッコイイジョンにひかれ、
ジョンは、明るくて無鉄砲なライトフットをちょっとまぶしく思うわけです。
この雰囲気もなんだかいいなあ・・・。
ライトフットの女装も、なかなかいけてる。
この、ジェフ・ブリッジスの今の姿を知ってる?
いや、しらない~。って、え、これですか?
ひゃー、見事に変わりましたね。
んー。でも、確かに、この人だ。
なんだ、観てる映画にも結構出てるんだ。失礼しちゃいました。



始めに出てくるちっちゃな教会とか、
古い小学校の建物とか、これもいい味ですよね。
ロードムービーの要素もあるこの作品。意外と楽しめました。

1974年/アメリカ/115分
監督:マイケル・チミノ
出演:クリント・イーストウッド、ジェフ・ブリッジス、ジョージ・ケネディ、ジョフリー・ルイス

マンマ・ミーア!

2009年09月08日 | 映画(ま行)
マンマ・ミーア! [DVD]

ジェネオン・ユニバーサル

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キラキラ・・・

* * * * * * * *

ABBAの曲をミュージカル・ナンバーとして用いた大人気ミュージカルの映画化。
この作品は、予告編を何度も見て、
あまりにもキラキラしているので逆に敬遠してしまって、
公開時には見ていなかったんです。
まあ、それでも一度見てみましょうか・・・と。
でも、実際中身を見たら、やっぱりキラキラ・・・。


舞台は素晴らしくいいです。
憧れの地、ギリシャ、エーゲ海に浮かぶ小島。
ドナ(メリル・ストリープ)は小さなホテルを営んでいる。
その娘、ソフィ(アマンダ・セイフライド)は
結婚式に三人の男性を招待しました。
ママの昔の日記をこっそり読んで、
自分の父親である可能性のあるこの三人を呼んだのです。
さて、一体ドナの本当の父親は誰・・・?

ABBAの曲は私でもおなじみなので、
もう始めから親しみを感じてしまいますね。
その曲に乗って、
中年のオバサマたち、オヂサマたちが歌って踊る、
まるでエーゲ海のさざ波のようにキラキラしい作品。
なかでも、ノリノリのメリル・ストリープはすごい。
・・・お元気で何よりです。

あまり語るべきことが見当たりません・・・。
結局、このようにあまりにもあけすけにキラキラ作は、
私は苦手みたいです・・・。
エーゲ海の小島といえば、「旅するジーンズと16歳の夏」の方が、
素敵にいい雰囲気が出ていたなあ・・・。

2008年/アメリカ/108分
監督:フィリダ・ロイド
出演:メリル・ストリープ、ピアーズ・ブロスナン、コリン・ファース、ステラン・スカルスガルド、アマンダ・セイフライド

マンマ・ミーア予告編



「1Q84 BOOK1・2」 村上春樹

2009年09月06日 | 本(その他)
1Q84 BOOK 1
村上 春樹
新潮社

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1Q84 BOOK 2
村上 春樹
新潮社

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一時品切れまで出た、ウルトラベストセラー。
読みました。
さすがです。
不思議で、切なく美しい物語でした。


物語は1984年の出来事なのですが、
主人公の二人はいつの間にか、
月が二つある別の1Q84年の世界に入り込んでしまうのです。


この二人というのが、青豆と天吾。
不思議な名前ですよね。青豆(アオマメ)。
私は何かでこの本の紹介文を見たときに、
なんとなく少年を思い浮かべてしまったのですが、
これはれっきとした30歳の女性なんですよ。
本人も、この珍しい名前には苦労させられている、
というくだりもちゃんとあります。

彼女はスポーツクラブのインストラクターなのですが、
実は人にはいえない裏の仕事を持っています。
クールでタフな青豆さん。
その彼女は、小学校の時に同級生の天吾に心惹かれるんですね。
それはほのかな初恋などと言うものではなくて、
もっと根源的に、
自分と同じものからできている魂の片割れと一つになりたい本能
・・・とでも言うような。
二人は、ろくに話をしたこともなく、
たった一度教室で手を握り合った、それだけ。
その後もずっと離れ離れで、連絡を取り合ったこともない。
けれども、この二人はそれぞれに、
お互いが運命の相手であることを確信するんですね。
小学校の4年生で・・・。
すごいです・・・。

物語は、この青豆と天吾の話が交互に語られていきます。

さて、天吾の方は、予備校で数学の講師をしていますが、
実は小説家を目指している。
そんな時、ふかえりという少女の「空気さなぎ」という小説に出会うのですね。
不思議なファンタジーめいた話なのですが、
このつたない文章を、天吾が書き直して世に出すことになる。

二人それぞれのストーリーに次第に接点が浮かび上がり、
二人は知らずのうちに、
このねじれた1Q84の世界の中で重要な位置を占め始める。

リトル・ピープルとは?
空気さなぎとは?
ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」の秘密とは?
二つの月は何を意味するのか?
パシヴァとレシヴァとは?

謎はたくさんあります。
解説本まであるくらいですから、
私などがあれこれ言えるものではありません・・・。
でも、この不可思議な世界には、
奇想天外とか荒唐無稽、などという形容は全く適さない。
もっと密やかな、本当の世界の根源の秘密のにおいがあります。
ファンタジーであり、SFでもあり、純愛の物語でもある・・・。
どのように受け取るかは、読む人の興味中心でいいのだろうと思います。
私は、やはり二人の魂の求めあいがメインと受け止めましたけれど。
それなので、私にとって最も切なく印象的だったのは、
青豆と天吾の最接近のシーンですね。

最後まで「出会う」ことのない二人なのですが、
二人の思いがすぐ近くで同時に交差する瞬間があります。
10歳の時に手を握り合っただけでありながら、
魂の片割れとして求めあうこの美しく純粋で哀しい思い。

結局のところ、人は1人であって、2人は一つになれない。
だからこそ求め合い、叶わぬ思いに傷ついてしまう。
そういうことなのかなあ・・・と思います。
・・・これぞ村上春樹なんですよねえ。
結構えぐいシーンもありながら、
このように胸が締め付けられるような純粋な愛を語ることができる、
というのには感服します。

青豆は、女性から見てもすごく魅力的です。
一見美人風、
でも、ひとたび顔をしかめると、強烈に印象が変る
・・・というか、ひどくなるという。
禿げた中年が好みの必殺仕事人。
・・・この人物造形、誰にも真似できませんね。
勇気。実行力。とにかく鮮烈です。
実際にはどこにもいなさそうな女性。
だから、こんなありそうにないネーミングなのかしら???とも思います。

また、天吾のほうも、いいんだなあ・・・。
全体に、村上春樹作中人物の男性は、優しいですよね。
料理なんかも苦にしないし、ちょっとぶっきらぼうで、感性が鋭い。
う~ん。タイプだなあ・・・。
(そんなことはどうでもいい???)

何にしても、こんな作品に出会えることって、
とっても幸せなことだなあ
・・・という思いを噛み締めております。

満足度★★★★★

・・・そういえば、今年は2009年ですよね。
皆様、あまり突拍子もない行動に出て、
200Q年に迷い込みませんように・・・。
民主党が政権をとったこの世界は200Q年・・・
ではないですよね・・・!?

闇の子供たち

2009年09月05日 | 映画(や行)
この闇から目をそらしてはいけない

* * * * * * * *

梁石日の同名小説映画化。
タイの裏社会で行われている、
幼児売春、人身売買、臓器密売等の実態と闇に迫ります。

タイに派遣されている新聞記者南部(江口洋介)。
彼は、タイの子供の臓器が、
日本の子供の手術のために密売されているという情報を探っていきます。

昨今、ニュースでも話題になりましたが、
日本では子供は臓器移殖手術が受けられなかったんですね。
しかし、南部の調査が進むうちに、
実はその臓器は、生きた子供から提供される、
というショッキングな事実が明るみに出てきます。
移殖手術はアメリカなどでもできますが、
あくまでも、何かの事故等で
移殖可能な臓器が出てくるのを待たなければなりません。
けれども、タイのこの方法なら、大金さえ積めばいつでも手術ができる・・・。
なんとかして自分の子供を救いたい。
その親心はわからなくはありませんが・・・。
経済的弱者を踏みつけにする、このような話には憤りを感じます。


貧困のため、子供を売らねばならない。
これは残念ですが、実際にあることなのだろうと思います。
その子供達が、
檻の中に閉じ込められ、性のおもちゃにされ、
エイズにかかればゴミ袋につめて捨てられる・・・。
目をそむけたくなる映像が続きます。
いわゆる自分探しのボランティア(宮崎あおい)、
何の目的意識もないフリーカメラマン(妻夫木聡)。
彼らも、このような事実を目の当たりにし、次第に変わってゆきます。

最後のシーンはショッキングですが、
つまり、これは
「私たちは正義面をしているけれど、実は加害者の1人である」、
と言っているように思いました。
なんだかんだ言っても、まだ日本は豊かですね。
日本が、経済的弱者である国々を食い物にしている。
こういうことは自覚すべきだと思います。

ずっしりと重く、救いようのない思いでいっぱいになるのですが、
目を背けてはいけない。
そういう作品であると思います。

2008年/日本/138分
監督:阪本順治
出演:江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、プライマー・ラッチャタ


「闇の子供たち」



俺たちに明日はない

2009年09月04日 | 映画(あ行)
俺たちに明日はない [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ

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元祖アベック強盗

       * * * * * * * *

1930年代、アメリカで実際にいたアベックの強盗ボニーとクライドの物語。
ウエイトレスをしていたボニーが、
強盗犯で服役し出獄したばかりのクライドと出会い、
行動を共にすることになります。
毎日の生活に倦み、将来も見えず
・・・そんなところから脱却したかったのですね。
さっそく強盗を披露してみせるクライドに魅せられてしまう。
車を盗み、銀行強盗をし・・・、
ついには人を撃ち殺しもしながら、彼らの逃走が始まります。
クライドの兄バックとその妻ブランシュ、
そしてC.Wが加わり5人組となって。


彼らは貧しい人からはお金を奪わないので、
大恐慌時代においてはロビンフッドのように
民衆のヒーロー的存在になっていきます。
ラスト、87発の銃弾を浴び絶命する二人のシーンが、かなり話題になりました。


・・・さてと、この作品はアメリカンニューシネマの先駆的作品として、
あまりにも有名なのですが、
今観ると意外に感動が薄い・・・。
当初この作品の暴力性とセックス描写は、
保守的評論家からかなり酷評を浴びたと言うのです。
しかしその斬新さゆえに絶大な人気をも集めた。
ところがですねえ・・・、
当時の斬新なシーンも、
今見ると、とんでもなく地味になってしまっているのです。
これは時の流れだから仕方ないですねえ・・・。
また、この二人の刹那的生き方は、当時は共感を得たかも知れないのですが、
私にはどうもしっくり来ない。
・・・まあ、この辺は受け取り手しだいでしょうけれど。

それとあの警官が、いきなり問答無用で射殺、というのはどうなんでしょう。
当時は実際にそんな風だったのかな・・・?
いきなり戦争みたいな銃撃の応酬には違和感があるし・・・、
逃亡する5人にあまり焦燥感が感じられないのもなんだか・・・。

映画の作り方、犯罪に対しての私たちの受け止め方、
微妙に時代の変遷を感じてしまう作品に思えてしまいました。
名作とされている作品に対して、ちょっと畏れ多いですけれど・・・。

ただ、古くても全く遜色なく感動する作品もありますよね。
こういうところを掘り下げて研究すると面白いかもしれません。

ところで先日見た「人生に乾杯!」も同じようなテーマだったのですが、
断然面白かった。
・・・とすればやはりその時代によって、
人々の求めるテーマは移り変わってゆくものなのかもしれません。
今は、どこの国も癒しを求めているようです・・・。

1967年/アメリカ/95分
監督:アーサー・ペン
出演:ウォーレン・ビーティ、フェイ・ダナウェイ、ジーン・ハックマン、エステル・パーソンズ


「鷺と雪」北村薫

2009年09月02日 | 本(ミステリ)
鷺と雪
北村 薫
文藝春秋

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直木賞受賞作です。
基本的には、いつもの北村薫氏の『日常の謎』を解くミステリなのですが、
この本は、昭和10年前後が舞台となっており、
その時代背景が大変リアルに描き出されているところが、特色となっています。

主人公となるのは、良家の令嬢。
彼女も十分に聡明なのですが、
彼女が持ち込む謎をするすると解いてしまうのが、
彼女の家のお抱え運転手、ベッキーさんこと別宮。
これが当時としては異色の女性運転手。
戦争へ向かいまっしぐらという時代ながら、
この時代色の中、彼女たちの自由な思いは、読んでいてなかなか気持ちがいい。
まさに、今だからこそ語ることができる、昭和初期の物語なのです。


この本は三篇の連作となっていますが、
表題の「鷺と雪」の中で、女性の選挙権について、こんな文章があります。

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《女にも選挙権を》―――というもの、おそらくは、ただその権利が欲しいというより、
それを与えない《考え方》への講義に思える。
極論するなら、《女》という言葉さえ、ただの性別というより、
《力なきもの、弱きもの》に置き換えられそうだ。
人の世の進歩とは、権利や自由が、微かな日に大きな氷が解けるように、
ゆっくりと、より多くの人の手に渡っていくことではないのか。
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「男に仕え、良妻賢母となること」が、女の務めとされ、
むろん参政権もなかった。そんな時代です。
今では考えられませんね・・・。
でも、良妻賢母を期待されているというのは、今も根強くあるかな?

「人の世の進歩とは、権利や自由がより多くの人の手にわたっていくこと。」
このことには全く同感です。
・・・この考えによれば、
やはり世界は少しずつではありますが「進歩」しているのだろうと思います。
ただ、今は、国と国との格差があまりにも大きい。
このあたりではまだまだですね。


さて、このようになかなか興味深い作品ではあるのですが、
私にとって、北村薫氏の『珠玉』は、
「円紫さんと私」シリーズであり、
「時と人」の三部作なんです。
で、なんで今になってこの作品が直木賞なのか・・・と、
やや納得いかない・・・というのが個人的な思い。
「円紫さんと私」シリーズでは、当初、
著者は覆面作家として正体を明かしていなかったのです。
そこで、作者はこのシリーズの語り手「私」のような、
女子大生であろうという憶測がされていた。
・・・そう思われてもおかしくないくらい、
「女子大生」そのものの感性が現されていたのですね。
私自身もすごく等身大に感じられ、共感をもちました。
今作も、似たような女性が語り手なのですが、
なにぶんにもこちらは良家のお嬢様・・・。
まあ、決して気取った女性ではありませんが、
あくまでもお上品で、「共感」というにはいまひとつ物足りない。

どうもこの本をうまく表現できなくて、
実は結構前に読了していたのですが、書けずにいました。
・・・正直なところを記すまでにしておきます。

満足度★★★☆☆


その土曜日、7時58分

2009年09月01日 | 映画(さ行)
その土曜日、7時58分 コレクターズ・エディション [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

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破滅に向かって転がりだす男たち

* * * * * * * *

この作品は、まず決定的事件のシーンから始まって、
時間が前後しながらその抜き差しならない状況を描写していきます。

中心となるのはまず会計士のアンディ。
彼は自らの不正の発覚におびえ、
何とかお金を工面して穴を埋めたいと思っている。
そこで弟ハンクに声を掛けるのです。
両親の宝石店に強盗に入るようにと。
店は保険金が入るから大丈夫。
奪った宝石を売りさばいて分けよう・・・と。

ハンクは自分だけで強盗をするのが怖くて、知人に実行を頼みます。
土曜日朝、7時58分の出来事。
ところが悪い偶然が重なって、結局彼らの母親が死んでしまう。
この事件を振り出しに、
次々に状況は悪化していき、
もがけばもがくほど抜き差しならない状況に陥ってゆく二人。
その焦燥感が、ひしひしと伝わってきます。

この事件で、彼ら家族の心の闇の部分が明るみに出てくるのですが、
それはこの事件が起きたからではない。
もともと巣くっていた病巣が、
これをきっかけに吹き出してきただけにすぎないのです。

アンディはずっと、家族の中で弟ばかりがかわいがられていると思っています。
だから父親を憎んでいる。
両親の宝石店を標的にしたのも、結局はこういう心理が働いたのでしょう。
そして、弟を巻き込んだことも。
更にまた、彼の妻が弟とできていると知った時・・・、
周りの誰も彼もが自分ではなく弟を選ぶ、
そういう絶望に打ちのめされるのです。

ハンクは逆に、甘やかされすぎたかのようです。
弱気で甲斐性がない。
別れた妻からは絶えず娘の養育費を催促され、ののしられる。

家族間のボタンの掛け違えが、
もうそれぞれ独立し立派な大人になったはずの今になって
一気に結果となって吹き出してくる。
でも、こういう家族の関係って、
実はどこにでもありそうな話ではないですか・・・。
いつどこで吹き出してもおかしくはない
・・・そういう怖さ、虚しさがずっしりと胸に応えます。
緊迫感、閉塞感・・・、重厚な作品です。

2007年/アメリカ・イギリス/117分

監督:シドニー・ルメット
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、アルバート・フィニー



Before the Devil Knows You're Dead - Japanese trailer