映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

レポゼッション・メン

2010年07月12日 | 映画(ら行)
人工臓器は人類を救うか・・・?



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人工臓器の開発が進んだ未来。
人々は気軽に臓器移植を受けられるようになったのですが、
そのために高利のローンを組む。
それはこの臓器を販売しているユニオン社の戦略でもあるわけですが・・・。
さて、そうなるとこのローンの支払いが継続できずに滞ってくる人が出てくる。
このストーリーの主人公レミー(ジュード・ロウ)は、
滞納者の生きたままの体から、
有無を言わさず人工臓器を回収するというのを仕事にしている。
しかも腕利き。
つまりはヒトゴロシですよねえ・・・。

ところがある時、取り立てに失敗し重傷を負い、
自らが人工心臓を埋め込むこととなる。
そうなるともう怖くて、人の臓器が回収できなくなってしまうのです。
この映画のPR予告によると、人工心臓は8000万円ですって!
たちまち自分自身が滞納者となり追われる身となるのですが・・・。


取り出すのは、人工の臓器ではありますが、
生身の体を切り開くわけですから、かなりエグイです・・・。
が、ストーリー自体は特別どうと言うこともなく、やや拍子抜け。
なーんだ・・・と思いかけた最後の最後に、オドロキの真実が明かされます!
ははあ、なるほど、ここが味噌だったんですね。
このラストがなければ、
なんでわざわざジュード・ロウを起用したんだ・・・と言いたくなるところです。
このラストシーンでかろうじて及第点のSF作品となりました。



それにしてもねえ・・・、嫌な社会ですよねえ。
普通はローンはローン会社が組むのですよね。
だからどれだけ滞納があっても、販売会社自体の懐は痛まない・・・というのが普通。
だから、ローン会社は取りはぐれないように、事前の審査を厳しくする、と。
このユニオン社は直接自分のところでローンを組んじゃう。
だから現金払いより高利のローンを組むことを勧める。
滞納なら現物を回収して再利用か・・・。
これはもう医療が完璧お金儲けの手段ですねえ。
恐ろしい世界です。
結局金持ちばかりが高度の医療を受けられると言う
・・・現在の医療状況を突き詰めるとこういう話になるわけですね。
人工臓器にも是非保険を適用しましょう!!
(・・・そういう問題じゃないってば。)

2010年/アメリカ・カナダ/111分
監督:ミゲレ・サポクニック
原作:エリック・ガルシア
出演:ジュード・ロウ、フォレスト・ウィテカー、リーブ・シュレイバー、アリシー・ブラガ

ジェネラル・ルージュの伝説

2010年07月10日 | 本(その他)
一粒で二度も三度もおいしい・・・ジェネラル・ルージュ

ジェネラル・ルージュの伝説 (宝島社文庫) (宝島社文庫 C か 1-9)
海堂 尊
宝島社


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この本、しばらく本屋の店頭で眺めていて不思議だったのです。
ジェネラル・ルージュはもちろん既に読んでいて
・・・あれ?
何でまた今さらこんなに大々的に売り出しているのだろう・・・と、思っていたのですね。
しかし、先日よ~く見てみると、
「ジェネラル・ルージュの伝説」とある。
え?そういえば私が読んだのは「ジェネラル・ルージュの凱旋」だっ!!
つまり別の本ではありませんか。
あわてて購入しました。
色も同じだし・・・、なんて紛らわしい。
でも実際、この本は、
「凱旋」のオマケみたいなストーリー短編が3つ収められています。


「伝説」は、速見医師の研修医時代。
彼が「ジェネラル」と呼ばれることとなった、そもそもの事件のことが描かれています。
ここでは後に登場する水落冴子がストーリーに絡んでくるのもお楽しみ。


次の「疾風」は、まさに、「凱旋」と時を同じくするストーリーですが、
事務長の三船の視点から描かれているのがミソ。
事務長からすると、
予算のことなどまるで無視の速見医師はとんでもないヤツだったわけですが、
この事件で見方が変わってくる・・・と言う具合。
もっとも、こういうところはちゃんと本編にも描写されていましたね。


最後の「残照」は、
「凱旋」の後、速見医師が去った東城大学医学部付属病院、救急救命病棟の光景。
取り残されたものたちの、さみしくちょっと気の抜けた感じを残しつつ、
でも、やはり底の方には速見医師の熱い思いは受け継がれているよう。


そして、この本にはさらに、
「海堂尊物語」、「自作解説」、桜宮市年表、登場人物リスト、用語辞典・・・等々、
たくさんの特典もついていまして、ファンの方必見です。
まあ、結局「凱旋」人気にあやかって、ついでにもっと本を売ってしまおう、
という魂胆丸見えの一冊。
まあ、面白いですけどね・・・。

こうしてみると海堂氏は大変意欲的に執筆を続けているほかに、
例のAi(オートプシー・イメージング)の推進もライフワークとして続けているんですね。
小説家としてではなく、医師として講演の仕事などもあるようで。

私はエンタテイメントに徹した氏のストーリーは嫌いではありません。
特にミステリや医療に固執しなくても、「黄金地球儀」なんかもいいですよね。
・・・ということで、今後も期待しております!!

満足度★★★☆☆

恋のからさわぎ

2010年07月09日 | 映画(か行)
歌って踊るヒース・レジャー



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今発売中のこのDVDタイトルは「ヒース・レジャーの恋のからさわぎ」となっています。
1999年の作品。
単純なロマンチックコメディーではありますが・・・。


転校生キャメロン(ジョセフ・ゴードン=レビット)は学園のアイドル、ビアンカに一目惚れ。
何とかデートしたいと思います。
ところが彼女の父が娘の異性交遊に異常に警戒心を抱いている。
というのも彼は産婦人科医で、
遊びのつもりで妊娠してしまった若い女の子をイヤというほど見ているから・・・。
ビアンカの姉カトリーナは、
学園内でも男嫌いの変人として通っていまして、男には興味なし。
父は、姉が誰かとデートしたら、ビアンカもデートをしていいといいます。
この事情を知ったキャメロンは、何とかカトリーナを誰かとデートさせようとして、
前科があるという噂のパトリック(ヒース・レジャー)に
お金を渡してカトリーナを誘うように仕向けるのですが・・・。




わざと仕掛けられた恋が、真実の恋にかわっていくけれども、
そのからくりを知られてしまって破綻・・・。
と、ベタなロマコメなのですが、
ヒース・レジャーの映画初主演作のこの作品は、
その公開当時よりも、ヒース・レジャー亡き今になって、
大変意義の大きい作品となっているのです。
11年前ですから・・・若いですね。
そしてなんてチャーミング!!
しかもなんとこの作品では彼が歌って踊るという特典付き!!
ヒース・レジャーファンの方、必見です。
ちょっとした表情の変化、目配せ、笑い顔・・・。
見入ってしまいます。
今更ながら、若くして亡くなってしまったこと、残念に思います。



さて、それからこのキャメロンくんは、
(500)日のサマーの、ジョセフ・ゴードン=レビット。
なるほど、古い作品は、こういう意外な出会いがあったりするのも楽しいですね。


それにしてもこの二人の姉妹のお父さん、ほんとに警戒心が強い。
パーティーに出かける寸前のビアンカに
「これを着てみろ」と差し出したのはなんと、妊婦の疑似体験用のスーツ。
エプロン状のものですが、胸とおなかが思い切り重くせりだしているものです。
油断するとこうなるぞ・・・ということで。
はは。
これはいいですね。
遊びに行く高校生などには男女を問わず着せてみてはどうでしょう・・・。


エンドロールにNGシーン映像。
というかこれはわざとのNGと、他の登場人物のその後の裏話・・・というような感じで、
おしゃれで楽しいおまけでした。
本編ではキスをしたくてもしないで終わってしまうというシーンが、ここでは・・・!
必ず最後までごらんください。

ヒース・レジャーの恋のからさわぎ [DVD]
ヒース・レジャー,ジュリア・スタイルズ,ジョセフ・ゴードン=レヴィッド,ラリサ・オレイニク
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント



原題 10Things I Hate You

1999年/アメリカ/97分
監督:ジル・ジュンガー
出演:ヒース・レジャー、ジュリア・スタイルズ、ジョセフ・ゴードン=レビット、ラリサ・オレイニク

「川に死体のある風景」 歌野晶午ほか 

2010年07月08日 | 本(ミステリ)
この世には、不思議なことはやはりある?

川に死体のある風景 (創元推理文庫)
大倉 崇裕,有栖川 有栖,歌野 晶午,佳多山 大地,黒田 研二,綾辻 行人
東京創元社


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川に死体がある風景。
それを織り込んだミステリのアンソロジーです。

歌野晶午
黒田研二
大倉崇裕
佳多山大地
綾辻行人
有栖川有栖
という豪華競演。


まず始めの歌野晶午「玉川上死」で、驚かされました。
早朝、川を流れるうつぶせの死体が発見されるのです。
そのことが警察に通報される間も死体は流れていき、
それを追いかける巡査が、
自分でもばかげていると思いながらつい「おい、止まれ!」と叫んでしまう。
ところがなんとその死体がむくりと顔を上げて「僕のことですか?」。
なんとこれは、高校生の悪ふざけだったのですが、
実は事件はそこではなくて、
その様子をカメラで撮っていたはずの仲間が死んでいたというところ・・・。
なかなか意外性に満ちておりまして、
もちろん真犯人の正体もオドロキ。
その動機も現代性が出ていまして、
まさに、この本のオープニングを飾るにふさわしい作品となっています。



綾辻行人「悪霊憑き」。
これは始めのフレーズに見覚えがありました。

この世には不思議なことなど何もない---とは、
おそらく今この国で最も有名な古本屋の決め台詞だが、
本当にそうだろうか・・・・・・・


そう、あの「深沼丘奇談」に収められている一作でした。
悪霊・・・不可思議なもの・・・、
そういうものはやはりある、という方向に話が進みながらも、
結局は非常に生々しい現実に着地していくこのストーリーは、
さすがミステリ界の大御所ならでは。
こうして1話だけ切り離しても、際立ちますねえ。


ラストを飾るのは有栖川有栖「桜川のオフィーリア」
桜の花の舞い散る川辺に美しい女性の死体。
まるで「ハムレット」のオフィーリアのように。
うん、いいですね。
美しい死体。
この作品、アリスが登場しますが、
火村准教授ではなく、江神二郎シリーズの方です。
なんと、あの「女王国の城」の前の作品。
この作品が前日譚になっていて、「女王国」につながっていきます。
そういう意味で私には大変興味深い作品。

大満足の一冊です。

満足度★★★★★

ハングオーバー/消えた花ムコと史上最悪の二日酔い

2010年07月07日 | 映画(は行)
独身最後、どんちゃん騒ぎの果てに・・・



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コメディですが、これがとてもよくできています。
結婚式を間近に控えたダグ。
悪友2人と新婦の弟と共に、
独身最後の夜を満喫するために、ラスベガスに旅立ちました。
さて、どんちゃん騒ぎの翌朝、ホテルの部屋で目を覚ますと、部屋はメチャメチャ。
なんとあろうことか、虎がいて、赤ん坊までいる! 
そして何故か肝心のダグがいない!!
皆ひどい二日酔い(ハングオーバー)で、昨夜のことは何一つ覚えていないのです。
いったいどうしてこんな状態になってしまったのか。
そして、ダグの行方は・・・?

ということで、
わずかな手がかりを元に、残った3人でダグの行方を捜そうとするわけです。
一つ一つ昨夜の出来事が明らかになっていきますが、
尋常ではないはしゃぎっぷり。
一夜のうちに歯が抜けたり、
結婚式を挙げたり、
怪我をして病院へ行ったり、
虎を連れ出したり・・・・




結婚を間近に男性だけでお楽しみの旅にでる・・・というのは、
「サイドウェイ」を思い出します。
ここでは1人が、恋人にラスベガスに行くとは言えず、
ナパバレーでワインセラー巡りをすると偽っていますが、
これは明らかに「サイドウェイ」を意識していますね。

また、カジノで禁断の技をつかう、
レインマンを気取ったシーンも痛快で実に楽しい。
どうもタガが緩んでいるように思える新婦の弟が、
こんなところで思いがけない特技の披露、
というのもしゃれています。
この人物、実にユニークですね。
彼の存在がこの作品をただのコメディからワンランク引き上げることに成功しています。



さてさて、ダグはいったいどこへ行ってしまったのか・・・
次第に見えてくる全貌。
練り上げられた設定と巧妙な脚本。
メジャー俳優を起用せず、超低予算でできたと言うこの作品。
まさに、中身で勝負!
見事な一本勝ち。


それにしても、友人のためにみなでこんなにも一生懸命。
いいものです。おまけのロマンスもアリ。
言うことなし!!

2009年/アメリカ/100分
監督:トッド・フィリップス
出演:ブラッドリー・クーパー、エド・ヘルムズ、ザック・ガリフィアナキス、ジャスティン・バーザ

ナイト・オン・ザ・プラネット

2010年07月05日 | 映画(な行)
タクシーの中で見る人生の一コマ

ナイト・オン・ザ・プラネット [DVD]
ウィノナ・ライダー,ジーナ・ローランズ,ロベルト・ベニーニ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


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ロサンゼルス・ニューヨーク・パリ・ロンドン・ヘルシンキ、五つの都市の夜。
それぞれの夜にタクシーの中で起こる出来事を綴るオムニバスです。


一話目、ロサンゼルスでは若い女性が運転手。
威勢が良くてキレイで何だかユニーク。
たまたま乗ったのは大物エージェント。
映画に出演する女優を捜していたところ。
この運転手を見てピンとくるのですね。
「あなた映画に出てみない?」
「たいていの女の子は、そういうのにあこがれるかもしれない。でも、私の設計図じゃない。」
彼女は自動車の整備士になりたかったのです。
なんて潔くて気持ちがいいのでしょう。


このような鮮烈なオープニングで、次はニューヨーク。
これがとびきりおかしいんです。
タクシーの運転手は東ドイツから来たばかり。
言葉もあまりうまく伝わらないし、道が全然解らない。
その上運転も怪しい・・・。
業を煮やしたお客は、「料金は払うから俺に運転させてくれ。」
お客が運転して運転手が助手席に座っている。
何故かたまたまおそろいの帽子。
うん、楽しい。
このお客は陽気な黒人で、なるほど、ニューヨークって感じですね!


こんな調子で各地の夜が更け朝になっていきます。
が実はこれは同時のできごとでもあるわけですね。
つまり時差があるので。
同時に世界のいろいろなところで起きているささやかな出来事、
という視点がとてもユニークです。

タクシーというのは不思議な空間ですよね。
ほんのひとときですが、全く見知らぬ同士が空間と時間を共にする。
特に夜はいっそう外との遮断感が強くて、一種不思議な場が生じるわけです。
どこにでもあるほんの人生の一コマかもしれません。
でもこの作品は実に見事にそれぞれの生活を切り取って私たちに見せてくれます。
もし舞台が日本だったら、あなたはどんなシーンをこの映画に付け足しますか?


1991年/アメリカ/129分
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ジャンカルロ・エスポンド、アーミン・ニューラー=スタール

刑務所の中

2010年07月04日 | 映画(か行)
刑務所なのに癒される・・・

刑務所の中 特別版 [DVD]
山崎努,花輪和一,崔洋一,香川照之,田口トモロヲ
ジェネオン エンタテインメント


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この作品の原作は花輪和一コミック。
といっても見たことはないのですが、
この著者自身の受刑体験を元にしたものだとか・・・。
でも、そう物騒なことではありません。
女性にはよくわからない世界ですが、ガンマニアというのですか、
やたらに銃が好きで、モデルガンでは飽きたらず、
つい本物にも手を出して
銃刀不法所持ということで罪になってしまったようなのです。


そこで刑務所内の生活をひたすら綴るこの作品。
花輪氏がいるのは5人がいる雑居房。
しかし、ここでの生活は規則は厳しいものの意外とのんびりしています。
いろいろな映画作品や小説などに出てくるようなリンチとかいじめはありません。
(いえ、それでも、現実には一部にはあるのだろうとは思いますが・・・)

朝ご飯を食べて、作業をして、
昼食を食べて、また作業をして、
お風呂に入って(毎日ではない)
夕食を食べて寝る。
その繰り返しですが、土日や休日は作業はない。
単調なその繰り返しなので、イヤでも平和な毎日になってしまうのかも。
そして、食事のシーンが多いのですが、これがやけにおいしそうなんです。
よく、くさい飯なんて言いますが・・・。
プラスチックの容器で食べるそれは、学校の給食風でもありますが、
それよりももっと普通の食事風でバラエティーにも富んでいる。
こんな単調な毎日では食べることしか楽しみがないともいえます。
皆さん実においしそうに食べる。


作業場に行くのは整列してかけ声をかけながらだし、
作業中トイレに行くのも、落ちた消しゴムを拾うのにも許可をとらなければならないなど、
煩わしく、制約だらけで、ストレスがたまりそうです。
でも、きちんと食事があたるというのはある意味魅力で、
刑務所を出て、行き場のない人が舞い戻りたくなってしまうということもあるだろうな
・・・と思えます。


特に大きな出来事があるわけでもないのですが、
淡々と描かれるその刑務所の生活は、
笑い事ではないですがどことなくユーモラスでもあり、
何ともいえず鄙びた味が出ているんですね。
もちろん中には殺人罪などの人もいるわけですが、
窪塚洋介くんなど、その危ない青年役が、はまり役でした・・・。
刑務所内で見るといかにも普通の好青年なのですが、
語るその言葉はどこか危ない雰囲気がにじみ出ている・・・。
さてさて、こんな中で花輪氏が最も気に入った場所とは・・・。


何故か癒されてしまう、刑務所のお話でした。


2002年/日本/93分
監督・脚本:崔洋一
出演:山崎努、香川照之、田口トモロヲ、松重豊、窪塚陽介



ある愛の風景

2010年07月03日 | 映画(あ行)
兄が背負った罪。苦悩と狂気。

ある愛の風景 スペシャル・エディション [DVD]
アナス・トーマス・イェンセン
角川エンタテインメント


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先日見た「マイ・ブラザー」の元の作品。
2004年デンマーク作品です。
なんとなんと、この二つの作品は相当に近いですね。
場面の切り替えやセリフ、
アメリカのリメイク作品は、ほとんどこの「ある愛の風景」そのままでした。
ですから、ストーリーはあえて繰り返しません。
評論家によれば、「ある愛の風景」の方が兄個人の苦悩に、
「マイ・ブラザー」の方が、家族の有り様に
力を入れて描いている、と。
なるほど、「マイ・ブラザー」の方が、壊れ行く家族をじっくり描いていたように思います。
が、どちらにしても、兄が背負ったどうにもならない罪。
その苦悩と狂気。
甲乙つけがたく重く描かれていたと思います。




兄ミカエルは、妻・子供たちを愛するあまり罪を背負いました。
こんなところで死にたくない。
あの我が家に戻って必ず家族に再び会う。
そう自分に誓って長期間がんばっていた。
しかし、その自分の信念が、人間としての倫理を超えてしまった。
どうすればよかったのかなどという答えはないのでしょうね。

ところが、そうまでして戻ってきた我が家に自分の居場所がない。
・・・というよりは自らを居られなくしている。
家族の中で幸福でいることは、許されない。
彼の中にはそうした思いもあるのでしょう。
また、あんなに恋い焦がれていた家族が、
案外簡単に弟を受け入れてまとまっていた、という疎外感。
重いですね。これは壊れない方がおかしい。

こんなに極端な例ではなくとも、
戦争で人を殺してしまったという罪の意識を、平和な家庭の中でひた隠しにし、
そして自ら傷ついて行く・・・ということは案外多いのかもしれません。

いろいろ考えるべきことの多い作品ですので、
アメリカのリメイクで
もっと多くの人が見るのであれば
それなりに意義はあるのかも。


2004年/デンマーク/117分
監督:スサンネ・ビア
出演:コニー・ニールセン、ウルリッヒ・トムセン、ニコライ・リー・コス


「天地明察」 冲方丁

2010年07月02日 | 本(その他)
何かを成し遂げようとする強さ、美しさ

天地明察
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)


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2010年 本屋大賞第一位作品。
これは格調の高い時代小説です。
舞台は江戸時代。
しかしチャンバラはありません。
碁打ちであり数学者でもある、渋川春海。
彼に与えられたミッションは「日本独自の暦」を作ること。

うーむ。
暦ですか。
カレンダーなんてどのようにしてできたのかなんて考えたことありませんでしたが・・・。
1年が365日で4年に一度うるう年があって・・・。
確か微調整もありましたよね。
というのは今、私たちは当たり前のように思っているわけですが、
気の遠くなるような長期間にわたる太陽や月、そのほかの星の観測の結果なんですね。
そのときまで使われていた暦には、明らかに間違いがある。
どう考えてもずれてきているというのです。
だから正しい暦が必要になった。
これがまた、恐ろしいことに数学の知識がなければできないことなんですね。
私は完全な文系でして、数学以前に算数が苦手。
サイン・コサイン・タンジェント・・・
高校で習ったときでさえ解っていなかったので、
今となってはそれこそ宇宙の彼方の話・・・。
それがですね、鎖国の日本で、
和算としてきちんと系統化されていたというのには驚かされてしまいます。
コンピュータもなしに・・・。
私ではコンピュータがあっても、全然何をどうすればいいのか解りません!!
江戸時代を見くびりすぎですね。
一般庶民はどうだったか解りませんが、
彼らはちゃんと地球が球であること、地球が太陽の周りをまわっていること、
すっかりお見通しです。

しかし、私同様に算数の苦手な方も、尻込みする必要はありません。
この本は、そのような理論ではなく、
この男春海の生涯をかけた事業にかける熱意を語っているのです。


彼がそれを成し遂げようとしてから、ついに実現に至るまでには20年を費やしました。
途中には二度と立ち上がれないかのような挫折もあるのです。
しかし、自分の学問を信じ、成し遂げる。
もちろん根底にはそれが「好き」ということがあります。
そうでなければ、なかなか続きません。

さて、さらに、暦の問題は単に正しいとか正しくないだけでなく、
政治的な意味が大変大きい。
農作の日取り、行事の日取り。
天の運行を書き示す「暦」は最も神の領域に近い。
それを幕府から出すのか、朝廷から出すのかという大きな問題がある訳です。
おそらく今のお役所よりももっとアレこれ制約が多くて、
ひとつのことを決めるにも大変やっかいだったことは想像がつきます。
そのようなことを見極め手順を考えて根回しをして
・・・というマネジメント部分がまたこの方のすごいところなんです。
これはつまり、先を読んで回りから一つ一つ攻めていく、
囲碁の基本なのかもしれませんね。

そしてまた、仕事一筋の彼の生涯にほんのりと添えられるロマンス。
これもまた読み進む中での楽しみの一つ。
これもまたストレートには行かず、紆余曲折を経ながら。
時の流れは無常でもありますが、
実りを迎えるために不可欠なものでもあるのですねえ。


一つのことを成し遂げようとする人間の生き様。
強くて美しいですね。
壮大な宇宙の中でひときわ光る星のようです。
やはり本屋大賞は、こうでなくては・・・!

満足度★★★★★