映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ヴィヴィアン・マイヤーを探して

2016年05月16日 | 映画(あ行)
貧しく孤独な名もなき人が成し遂げたこと



* * * * * * * * * *

ドキュメンタリー作品なのですが、まさにアンビリーバブルな話。
2007年、シカゴの青年ジョン・マルーフが
オークションで大量の古い写真ネガを入手します。
すべてヴィヴィアン・マイヤーという一人の女性が撮影したものなのですが、いい写真に思える。
そこで一部を自身のブログで紹介したところ、世界中から絶賛の声が届きます。
そこで彼はこのヴィヴィアン・マイヤーという女性に興味を抱くのです。
これまでに写真を公表した形跡が全くない。
しかし、驚くべき枚数の写真で、しかもレベルが相当高い・・・。
一体彼女はどんな女性だったのか?


調べてわかったのは、彼女はニューヨークでナニー(乳母)をして生活していたということ。
そして、ほんの少し前に他界していること。
本作はそんなヴィヴィアンと関わった人たちにインタビューをし、
彼女の人間像を探っていきます。





浮かび上がるのは、一人の貧しく孤独な女性です。
身寄りがなく、大抵は住み込みの乳母として子供たちの世話をし、
いろいろな家を転々としていた。
でもどの家でも自室に決して他人を踏み込ませようとしなかった。
ある時、家の人がこっそり覗いてみると、
部屋中に新聞紙やら何かの入った箱がびっしりと積み上げられていたという・・・。
彼女がいつもカメラを持って歩いていたことは知っていても、
その写真を見たことはなかったようなのです。
彼女自身もため込むばかりで、それを人に見せたりどこかに発表しようとは思っていなかったらしい。
写真ばかりでなく、新聞記事やレシート、何かの小物など、
あらゆるものを彼女はため込んでいたのです。
自身の記録として、そばに置いておくだけで満足だったのかもしれませんが、
それにしてもそれは殆ど「執着」というべきものだったことが伺われます。
孤独を埋めようとする心が、そちらに行き場を求めたのかもしれません。





それにしても、彼女の写真の良さは素人の私にも十分伝わります。
ニューヨークの街角の人々の様子。
モノクロでちょっぴりノスタルジックな味わいもありますが、
何より人物一人ひとりの人生を切り取ったかのような、表情が素晴らしい。
それぞれの人が身構えることもなく、
悲哀に満ちていたり、幸せそうであったり・・・。
どうしてそんな表情を写し取ることが出来たかというと、
その古い二眼レフのカメラにも秘密はあるようなのですが・・・。



彼女の顔写真は、残っていた写真の中にあったものですが、
この強い眼差しは魅力的ですね。
ヴィヴィアンの亡き後に、こんなふうに評価が高まったというのは皮肉ですが、
彼女が亡くなったからこそ、ネガがオークションに出品されたというわけなので、
当然の成り行きでもあるのですね。
そしてまた、ブログで不特定多数の人たちの評価を得た、というのがいかにも現代的。
おまけに身寄りが全くなさそうなヴィヴィアンの母親の故郷を、
ジョン・マルーフが彼女の残した写真から、ネットで特定した、
という話がまた、今だからこそできることなので、恐れ入ってしまいます。
何にしても興味深い話でした。
人間って凄いな・・・。





ところでヴィヴィアン・マイヤーを見出したジョン・マルーフ本人が監督を務めたこの作品。
いやはや、この人もすごい。
(ナニモノ?!)

ヴィヴィアン・マイヤーを探して [DVD]
ヴィヴィアン・マイヤー,ジョン・マルーフ,ティム・ロス,ジョエル・マイロウィッツ,メアリー・エレン・マーク
バップ


「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」
2013年/アメリカ/83分
監督:ジョン・マルーフ
出演:ヴィヴィアン・マイヤー、ジョン・マルーフ

人物発掘度★★★★★
満足度★★★★★


布のバッグ

2016年05月15日 | 工房『たんぽぽ』
キット付きの手芸雑誌で




「キットと雑誌で楽しむ大人の手作り時間」
・・・という触れ込みの
「favori」(芸文社)
という雑誌の購読を始めました。

本作は、4月からの申し込みの“おまけ”でついてきたもので、
もちろんこれも材料のみなので
とりあえず作ってみました。
まあ、これは簡単。

4月号の本体キットはまもなく完成するところなので
近く、ご紹介します。

→favori

「御松茸騒動」朝井まかて 

2016年05月14日 | 本(その他)
松茸の生える場所

御松茸騒動
朝井 まかて
徳間書店


* * * * * * * * * *

江戸中期、松茸は幕府への貴重な献上品であり、
松茸狩は尾張藩主が好む一大行事であった。
算術が得意な江戸育ちの尾張藩士・小四郎は
それを生かして藩財政の立て直しを夢見ていたが、なぜか「御松茸同心」を拝命。
尾張の山守に助けられながらも松茸不作の原因を探る日々が始まった。
やがて小四郎は、山に魅せられ、自分の生きる道を切り開いていく――。
数式でははかれない世界がそこにはあった! 
直木賞作家が描く、傑作時代小説!


* * * * * * * * * *

本作の主人公は、若き尾張藩士、小四郎。
頭がよく算術が得意。
けれどそれを鼻にかけるところがあって、
周りの年長者や上役が馬鹿に見え、つい見下してしまう。
だから自分では将来出世するのが当然と思っているのですが、
実は周りからは厄介者のように思われているという・・・。
ちょっとイタいですね。
そんな彼がある時「御松茸同心」という役を受けてしまい、田舎暮らしを余儀なくされます。
「まるで左遷ではないか、どういうわけだ?」
と、彼は思うのですが、実はその通りだったりする・・・。


松茸は尾張の重要な財源であったのですが、
近年、どんどん松茸が採れなくなってきているのです。
江戸屋敷からは
「贈り物にするので松茸を何千本よこせ」
とか気軽に言ってくるのですが、そもそも採れないのでどうすることもできない。
そこで仕方なく商人から用立ててもらってそれを送ります。
そんなことをするので、借金が膨らむばかり。
算術が得意な彼なので、そのへんはすごく気になってしまうのです。
以前はあんなにも採れていた松茸が、なぜ採れないのか? 
小四郎は、その原因を探り、対処する方法も考えつきますが・・・。


松茸はただ生えているのではない。
赤松と菌の共生。
そしてそれを手助けする人の力がなくてはならないという、科学的根拠にまで迫る素敵な作品です。
前述のとおり、小四郎はちょっと嫌なタイプなのですが、
彼を取り囲むキャラクターが良いのです。
「三べえ」と呼ばれるいかにもお気楽なおじさまトリオ。
彼らのことを小四郎は嫌っていたのですが、
実は彼らは、人から爪弾きにされている頭でっかちの小四郎を気遣っているようにも見受けられるのですね。
実際、この山暮らしの小四郎のもとを彼らが訪ねて来なかったら、
あまりにもわびしくて、さすがに辛かったのでは?と思えます。
また、ここの山守の娘・千草の、侍を侍とも思わないゾンザイな口の聞きようがまた痛快。
そしてまた、将軍家の跡取り候補でもあったはずの尾張藩主宗春の
二十数年にわたる蟄居のことにも絡み、非常に興味深い歴史物語でもあります。
そしていつしか、小四郎も変わっていきます。
あんなにも功を焦り目立ちたがり出世したがっていた彼が・・・・。
読後感も最高の一冊。
朝井まかてさんの、ますますファンになってしまいました。

「御松茸騒動」朝井まかて 徳間書店 図書館蔵書にて
満足度★★★★☆

最高の花婿

2016年05月13日 | 映画(さ行)
グローバル家族、バンザイ!



* * * * * * * * * *

フランスの地方都市シノン。
ヴェルヌイユ夫妻には4人の娘がいますが、
上の3人がそれぞれアラブ人、ユダヤ人、中国人の男性と結婚。
特別に差別するつもりはないけれど、
宗教も文化も違う相手にどう接して良いものやら、戸惑いを隠せません。
せめて、末の娘は自分たちと同じカトリック教徒と結婚して欲しいと願います。
ところが末娘と付き合っているのは確かにカトリック教徒ではありますが、
コートジボワール出身の黒人青年。
二人は婚約するのですが、そのことがまた、
夫妻や他の家族たちにも大きな波紋を呼び起こします。



今やフランスは多種多様な人種や宗教が混在するグローバル社会。
これがパリならば、そして若い人たちなら、もっと簡単に馴染めるのかもしれません。
けれども、本作はパリを離れた地方都市。
そして夫妻はそれなりの年齢。
差別はよくないとわかってはいても、つい身構えてしまう、
そういう気持ちはよくわかります。



いきなり紹介された娘の恋人が黒人だったら・・・、
それはやはり動揺しますよね。
けれど、妻マリーのほうが、ある時気づくのです。
「差別」というよりも、「よく知らないから怖い」のではないかと。
こういうのはやはり男性よりも女性のほうが柔軟性があるような気がします。
ここでも、夫クロードがいつまでもこの黒人青年を受け入れられません。


ところが、コートジボワールの青年の父親もまた、この結婚には断固反対。
コートジボワールはかつてのフランスの植民地。
独立後もまた、フランスには虐げられてきた苦い思いが彼にはあるようです。
だから、フランス人と結婚だなどととんでもない、
テヤンデエ、ベラボウメ・・・って、
江戸っ子じゃないですが、そういう頑固オヤジ風。



しかしこの相容れない同士の父親が、若い二人の結婚式の前日、二人で出かけていきます。
それは決裂のための話し合いのようでしたが・・・。
お互いに本音で話し合うこと。
「理解」こそが「共感」の糸口なのだろうなあ。
宗教や文化、肌の色、そういうものが違っても、
同じ人間で、人を愛することや家族が大事なことは変わらないのだと、
身を持って理解できれば、それでいい。



4人の娘がみな外国人と結婚。
いかにもドラマで、現実にはあり得ないことかもしれないけれど、
人々の心のありようは凄くリアルで、納得できてしまう作品でした。
始めのうちは婿同士も険悪だったのですが、
一つの目的のために一致団結していくところはすごく楽しい。
ユーモラスな語り口の中にも、大切なメッセージが込められていました。
それぞれの子供達も可愛くて、グローバル家族、いいじゃないですか~。
こんなことが進めば、戦争もなくなるかも・・・。

「最高の花婿」
2013年/フランス/97分
監督:フィリップ・ドゥ・ショーブロン
出演:クリスチャン・クラビエ、シャンタル・ロビー、アリ・アビタン、メディ・サドゥン、フレデリック・チョウ
2013年/フランス/97分

グローバル度★★★★☆
満足度★★★★☆

グラスホッパー

2016年05月12日 | 映画(か行)
悪くはないけど



* * * * * * * * * *

先に、原作本を見た限りではなかなか面白く、
満足度も高いものだったのですが、さて?


何者かに仕組まれた事故により恋人・百合子(波瑠)を亡くした鈴木(生田斗真)。
彼は、教員の職を捨て、裏社会の組織に潜入し、亡き恋人の復讐を図ろうとします。
そこに絡んでくるのが、それぞれ心に闇を抱えた殺し屋たち。
通称、鯨(浅野忠信)、

蝉(山田涼介)、
押し屋(吉岡秀隆)。

彼らにの間には本来何の繋がりもなかったのですが、次第に絡み合ってくる。
そんな中で、善良でトホホの存在、鈴木が光ります。



そうだよね、
確かにこんなストーリーだった、というのが第一の印象。
でも一番違うのはその肌触りというか・・・。
伊坂幸太郎作品は、何か淡々としてサラリと乾いた感じがするのです。
こんなこと思うのは私だけかもしれませんが。
だから本の上では、確かに血なまぐさいシーンはあったのですがそれほど印象は深くない。
でも映像になると、ほんとに血生臭く臭ってしまうのですよね。
…まあ、そこが見どころで、欠かせないのかもしれませんが。
だから一番違うのはそういう肌触り。



でも、亡き恋人の百合子が言った「タイムカプセル」
ということのエピソードがよく出来ていて、泣かされました。
まあ、悪くはない。
だけれども、やっぱり本のほうが楽しめたと思います。

→「グラスホッパー」伊坂幸太郎


グラスホッパー スタンダード・エディション [DVD]
生田斗真,浅野忠信,山田涼介,麻生久美子,波瑠
Happinet(SB)(D)


「グラスホッパー」
2015年/日本/119分
監督:瀧本智行
原作:伊坂幸太郎
出演:生田斗真、浅野忠信、山田涼介、麻生久美子、波瑠、村上淳

Maruちゃん

2016年05月11日 | 工房『たんぽぽ』
未発表作?



私、ブログ「Maru in Michigan」のファンで、
この犬、Maruちゃんは以前に座り姿のものを作ってご紹介したことがあったかと思います。
これは、もっとあとに作ったものですが
ご紹介していなかったのではないかと・・・。
実は、私はこっちのほうが気に入っております。




「アクアマリンの神殿」海堂尊 

2016年05月10日 | 本(その他)
海堂作品の学園モノ

アクアマリンの神殿 (単行本)
海堂 尊
KADOKAWA/角川書店


* * * * * * * * * *

未来医学探究センターで暮らす佐々木アツシは、
真実を隠して中学生活を送っていた。
彼の業務は、センターで眠る、ある女性を見守ること。
だが彼女の目覚めが近づくにつれ、少年は重大な決断を迫られる――。


* * * * * * * * * *

「モルフェウスの領域」の続編であり、表裏の関係にもある作品です。
「モルフェウス…」の時にも書いたのですが、
本作は新聞に連載されていて、はじめの方は読んでいたのですが、
途中で学園ドラマ調になってきたのがなんだか馴染めず、
途中で読むのをやめてしまっていました。


コールドスリープから覚めた佐々木アツシくんが主人公。
彼は「ナイチンゲールの沈黙」に登場していて、その時は5歳。
何やら感慨深いものがありますねえ・・・。
まるで親戚のおばさんになったような気分です。


さて、前作ではアツシ少年が眠り続けている間、日比野涼子が彼を見守っていたのですが、
本作は日比野涼子がコールドスリープ中で、
それをアツシ少年が見守っているのです。
コールドスリープ中にあらゆる知識を吸収した頭脳は
今さら学校へ行って学ぶ必要はないのですが、
集団の中で生活するすべを学ぶことも必要、
ということで中学校に通っています。
なるべく目立たないように、試験もわざと間違えて
平凡な点数を取るというふうに過ごしていた彼ですが、
それでも親しい仲間ができてくる。
「ドロン同盟」などと怪しい名称の仲間たち。
結局本作はアツシくんの青春物語というわけなのですが、
そのように覚悟を決めれば結構楽しめました。
海堂作品としては、珍しいですしね!
溢れすぎるくらいに豊かな個性の面々は、それだけでも楽しいし、
ラストのほうで、田口医師が登場したのもウレシイところです。
5歳のアツシくんを診ていた時から、
田口センセにも、あまりにも色々なことがありましたよねえ・・・
(って、また親戚のおばさんになっちゃってる。)
いつかまた、今度は医師となったアツシくんの悪戦苦闘が見られるのかもしれません。

「アクアマリンの神殿」海堂尊 角川書店 (図書館蔵書)
満足度★★★.5

アイアムアヒーロー

2016年05月09日 | 映画(あ行)
一味違うゾンビもの



* * * * * * * * * *

ゾンビものは守備範囲外ではありますが、
やはり大泉洋は見逃せない、というわけで・・・。



主人公はサエない漫画家アシスタントの英雄。
名前は「ヒーロー」だけれども、全然実態が伴っていない。
人からもそう思われているし、自分自身もそう思っています。
ある日、謎のウイルスによりZQN(ゾキュン)と呼ばれるゾンビ化した者たちが現れ、町は大パニック。
その逃亡途中に出会った女子高生の比呂美(有村架純)や
元看護師の藪(長澤まさみ)とともに、
全くおぼつかない戦いぶりながらも必死でサバイバルしていくさまを描きます。



サエない漫画家志望がなぜ?と思うのですが、英雄は銃を持っているのです。
クレー射撃用のライフルで、一応それが彼の趣味。
きちんと銃刀法による所持免許も持っています。
そこがハリウッド映画とは違いますよね。
当然英雄はこれまでに人を撃ったことなんかありません。
だから、相手がゾキュンであっても躊躇してしまって、なかなか撃てないのです。
しかし、自分が守ると約束した比呂美に危機が及んだ時、彼は立ち上がる!!



根っからのヒーローではなくて、並以上のヘタレの男・・・
というのが本作のミソとなっているわけです。
一方ゾキュンの方も、これまで色々と描かれているゾンビとはまた一味違っていて、
生前のその人(?)のこだわりや習癖が行動となる。
元漫画家のゾキュンは締め切りばかりが気になるし、
元サラリーマンは、電車のつり革に捕まるポーズをとってしまう。
中でも怖いのは元陸上選手のゾキュンで、常に走り高跳びに挑戦している。
その彼が、ビル屋上に立てこもっている人々のもとに侵入してくる、というのが怖い!!



そしてまた、なんとヒロインの比呂美は、
赤ん坊のZQNにかじられ、半ZQN状態となってしまうのです!! 
人を襲ったりはしないものの、どーするのよ、これ!!
本作では、とりあえず第一の危機を乗り越えるまでで終わっているので、
この比呂美ちゃんの今後がとても気になるところ・・・。
原作コミックも見てみたくなりますね。 
続編はないのでしょうか?
(でもあればあったで、やはり私は、見るのが面倒になってしまいそうです) 
それにしてもやたら血みどろ、R15+というのも納得・・・。



「アイアムアヒーロー」
2016年/日本/127分
監督:佐藤信介
原作:花沢健吾
出演:大泉洋、有村架純、長澤まさみ、吉沢悠
血みどろ度★★★★★
ヒーロー度★★★★☆
満足度★★★☆☆

リトルプリンス 星の王子さまと私

2016年05月08日 | 映画(ら行)
誰の心の中にもある、赤いバラ



* * * * * * * * * *

おそらく、誰もがその題名だけは知っている「星の王子さま」。
本作は現代を生きる少女を主人公に据え、
原作の物語を語りながら、原作のその後を描くという、
素晴らしいバランスを保った作品になっています。



主役の9歳の少女に名前は出てきません。
それは「星の王子さま」に名前がなかったことに習ったのでしょう。
どこかにいるかもしれない、また、それは私かもしれない一人の少女。



少女が新しく越してきた家の隣に、風変わりな老人が住んでいます。
若いころは飛行士だった彼は、昼間はおんぼろの飛行機を修理し、
夜は望遠鏡で空を眺めて暮らしている。
少女は老人から、若いころに砂漠で出会った「星の王子さま」の話を聞きます。



少女の母親は過度の教育ママで、
少女の生活を一生分のスケジュールでがんじがらめにする。
何から何まで管理された生活。
どこに夢が入り込む隙があるでしょう・・・。
そんな少女が老人の話に惹かれたのも無理はないことではありますが・・・。



星の王子さまが愛した「赤いバラの花」が指すもの。
それは多分、愛とか、夢とか希望・・、
そう言ってしまうと急に陳腐になってしまう気がしますが、
誰の心のなかにもそんな「赤いバラの花」があるのかもしれません。
今は忘れ果てていても、遠くはなれていても、すっかり枯れ果てたように見えても・・・。
心の目で見ようとすればきっとそれはそこにまだひっそりと、ある。



この物語は子供向けのように見えて、実は大人のための物語。
バラの花を持っている子どもにはその貴重さはわからないけれど、
おとなになってからこそ価値が分かる。
そういう物語だから、ずっと読み継がれているのでしょうね。
どのシーンも美しく、
自分の底に眠っていたみずみずしい感性が呼び起こされるような気がする作品でした。


ちなみに、私は中学生の頃にはじめてこの本を読んだのだったと思うのですが、
その時に作ったフェルトの人形がこれ。

なんと50年近くも前のものなんですよ・・・。
よくぞ今まで取っておいたものです。
と、我ながら感心したりして・・・。
そして本の方は、昭和28年初刷で昭和45年第32刷 240円(!!)とあります。
物置の奥ではなくて、寝室の枕元の本棚にちゃんとある、というのがまた・・・(^_^;)
(でも全然読み返したことなかった・・・)

リトルプリンス 星の王子さまと私 [DVD]
鈴木梨央,津川雅彦,瀬戸朝香
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント


「リトルプリンス 星の王子さまと私」
2014年/フランス/107分
監督:マーク・オズボーン
原作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
出演(英語版声):ジェフ・ブリッジス、マッケンジー・フォイ、レイチェル・マクアダムス、ライリー・オズボーン、ジェームズ・フランコ

懐かしさ★★★★☆
ピュア度★★★★★
満足度★★★★☆

ことり

2016年05月07日 | 工房『たんぽぽ』
久しぶりに



たんぽぽ工房再開です。
犬・猫を離れて小鳥というのも初挑戦。

時間に余裕ができたので、これからは羊毛フェルト手芸にかぎらず
製作品をご紹介することにします。
でも当面は“製作キット”による作品になりそうです。
なにしろ、「いつか」作ろうと思い、
ずいぶん以前に買い込んだモノがどっさりあるのです。
まずはこれを一つづつ完成させてしまおう・・・と。





でも、本作は一番最近購入したものです。
足を作るのが一番めんどくさかった・・・。



実は、退職の記念にと、夫がカメラをプレゼントしてくれまして・・・
これまでの古いデジカメでは至近距離にピントを合わせることができず
大変だったのですが、今度からとても楽になったのです!!
スマホのカメラのほうがマシじゃん、と思っていたところですが・・・。



外で、お花を写すのも楽しみになってきました!!


ハマナカフェルトウールマスコット 「ほんわかルリビタキ・メジロ」キット
ハマナカ フェルト羊毛キット ほんわか ルリビタキ・メジロ H441-444
ハマナカ
ハマナカ


「羊をめぐる冒険」村上春樹

2016年05月06日 | 本(その他)
少しの恐怖と膨大な寂寥

羊をめぐる冒険
村上 春樹
講談社


* * * * * * * * * *

野間文芸新人賞受賞作
1通の手紙から羊をめぐる冒険が始まった
消印は1978年5月――北海道発
あなたのことは今でも好きよ、という言葉を残して妻が出て行った。
その後広告コピーの仕事を通して、
耳専門のモデルをしている21歳の女性が新しいガール・フレンドとなった。
北海道に渡ったらしい<鼠>の手紙から、ある日羊をめぐる冒険行が始まる。


* * * * * * * * * *

先日読んだ本で、内田樹氏が「羊をめぐる冒険」から
村上春樹は今のスタイルに変わったというようにおっしゃっていたので、
気になって読んでみました。
1982年初版。
でも、79年の「風の歌を聴け」が長編デビュー作ですから、
かなり早いうちに独自のスタイルを確立した、ということになります。
私は不勉強で、世間一般的に村上春樹さんがどのように言われているのかもよくわかっていなかったのですが、
ウィキペディアによると、「平易な文章と難解な物語」
そして「現実世界と非現実の異界がシームレス」とあります。
なるほど~、確かにそれです!
「羊をめぐる冒険」は確かにそういうスタイル。


冒頭は、別れた妻のこと、そして「耳」のきれいな新しい彼女のことから始まるのですが、
この辺はちょっと入りにくかった。
けれど、いよいよ「羊」が登場することによって、
物語はどんどん緊張感をまして、私たちをその世界に引きずり込みます。


<僕>のところに、友人の<鼠>から1枚の写真が届きます。
それは牧場に羊がのどかに群れているという何の変哲もない写真。
しかしその中の羊の一頭がよく見ると他の羊とは変わっていて、
背中に星状の模様が入っている。
<僕>は、謎の超有力人物から依頼され、というよりも殆ど脅迫されて、
その羊を探しに旅に出ることになります。
そこで向かうのが北海道、ということで、
にわかに親しみを感じてしまう私。


しかし、この牧場のある十二滝町の歴史には、胸を突かれてしまいました。
これは架空の町ではありますが、
北海道の多くの町はこんな風に苦難の末開拓されて、
ほんのいっとき栄えながらも今また衰退の道をたどっている
・・・そういう代表みたいな町なのですね。
<羊博士>のエピソードにもまた胸が痛みます。


さて、この牧場に向かう山道の途中に、<不吉なカーブ>があるのです。
先ほど、著者のストーリーは「現実世界と非現実の異界がシームレス」と書きましたが、
本作に限っていえば、シームレスではなくて
ここがちょうどつなぎ目だということがわかります。
まだ完全にシームレスという域まで達していない、
そういうところが興味深いですね。


秋も終わって、羊たちはもう麓の村に帰り、
広い牧場に他には誰もいない、その中の一軒家。
ここはすでに「非現実の異界」。
<僕>はそこで、あり得ないものを見ることになる。
ほんの少しの恐怖と広大な寂寥。
これが真夏の牧場ならこういう雰囲気にはなり難いのですが、
今まさに雪にうまろうとする寸前のこの時期、というのがまた妙に物語とマッチしているのです。

まさに村上春樹を堪能した、と言うにふさわしい一品。

「羊をめぐる冒険」村上春樹 講談社  (図書館蔵書にて)
満足度★★★★★

追憶の森

2016年05月05日 | 映画(た行)
彼が樹海で出会ったのは・・・



* * * * * * * * * *

自殺のため、富士山の麓、青木ヶ原へやってきたアメリカ人男性、アーサー(マシュー・マコノヒー)。
樹海の奥へ踏み込んでいくと、
よろよろとさまよい歩いている日本人ナカムラ(渡辺謙)と出会います。

彼も死ぬつもりでこの森に入ってきたのですが、失敗し、
戻ろうとしているのですが、道に迷い、出ることができないでいたのです。
怪我をし、衰弱して帰りたがっているナカムラを
アーサーは見捨てることができません。
自分が死ぬことよりもまず、この男を助けなければ、という気持ちになったのです。
しかし、磁石も狂いケータイも通じない青木ヶ原。
二人でさまよううちにアーサーもひどい怪我をしてしまいます。


森を歩くシーンの合間に、
アーサーが自殺を決意することになった原因の、妻(ナオミ・ワッツ)との事情が語られていきます。



アーサーは妻とは全くうまく行っていませんでした。
そういうことが原因なのかと思えば、
これもまた思いがけない展開があり驚かされます。
でも本作で本当に驚くべきなのは、ラストです。
・・・と言いながら、実は私、
予告編を見た時からうっすらと想像がついていました。
ごめんなさい、この手のストーリーの本や映画、結構見ていますからねえ・・・。
だからナカムラの語る言葉には一つ一つ、
あとから「ああ」と思わせられる仕掛けがあるのです。



ナカムラの妻の名前が「キイロ」で、娘の名前が「フユ」?? 
なにそれ?と日本人なら思ってしまいますよね。
しかもその意味と言うのは、
実は日本人なら最後の最後まで見なくてもネタバレしてしまうのが、ちょっと残念。



そうではあるのですが、マシュー・マコノヒーと渡辺謙という前代未聞のコラボ。
いいですねえ。
さすがにこれは一見の価値があります。

「追憶の森」
2015年/アメリカ/110分
監督:ガス・バン・サント
出演:マシュー・マコノヒー、渡辺謙、ナオミ・ワッツ
どんでん返し度★★★☆☆
満足度★★★★☆

ハンガー・ゲームFINAL レボリューション

2016年05月04日 | 映画(は行)
最後だというから、一応見ますか・・・



* * * * * * * * * *

どうも私は、シリーズ物が苦手のようです。
一作目、2作目まではなんとか見るのですが、
その後はもうめんどくさくなるというか、
すでに前の方を忘れてしまうというか・・・。
そのため、本作も公開時には見る気にならず、
でもまあ、一応結末は見ておきましょう、と思い本作を見て驚いた!! 
ハンガー・ゲームFINALは2部構成だったのか!! 
じゃ私、この前編を見そこねていきなり最後を見てしまったのでした・・・。
道理で、ピータが洗脳されてカットニスを憎むようになっているという状況が
「???」だったはずですワ・・・。

でもね、不都合を感じたのはそこだけで、他はノープロブラムでした。
今さら前に戻ってみる気も全くな~し。



といういかにも投げやりな視聴もいかがなものかと思いつつ・・・。
実際ダラダラ続編を作る必要がほんとうにあるのかどうか、
映画の作り手はよく考えてもらいたいものです。
まあ、儲かりそうならやっぱり作るんでしょうねえ・・・。
007シリーズのように、とりあえず一話完結ならいいのですが、
こういうのはやっぱり私は苦手です。



とは言えせっかくなので一応のストーリーは・・・
カットニスは反乱軍と行動をともにし、
スノー大統領が支配する独裁国家パネムとの最終戦争へと挑む。
彼女は数人の仲間と共に、直接スノー大統領を暗殺すべく行動を起こすのですが・・・。



って、これだけじゃん。
しかし反乱軍もまた、権力を我が物にしようとするアルマ・コインの道具にすぎないのではないか。
スノー大統領の首がすげ替えられるだけで、
結局はまた同じ独裁政治が繰り返されるのでは? 
カットニスは彼女に利用されただけ???
と、このような疑問がミソといえばミソです。
でも、最後の結末はあまりにも見え見えでした・・・。



結局、続編ができるたびにどんどんつまらなくなる見本みたいな作品だったなあ・・・。

ハンガー・ゲーム FINAL:レボリューション [DVD]
ジェニファー・ローレンス,ジョシュ・ハッチャーソン,リアム・ヘムズワース,ウディ・ハレルソン,ジュリアン・ムーア
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「ハンガー・ゲームFINAL レボリューション」
2015年/アメリカ/137分
監督:フランシス・ローレンス
出演:ジェニファー・ローレンス、ジョシュ・ハッチャーソン、リアム・ヘムズワース、ウッディ・ハレルソン、ジュリアン・ムーア、フィリップ・シーモア・ホフマン

満足度★★☆☆☆

「紙魚家崩壊 九つの謎」北村薫

2016年05月02日 | 本(ミステリ)
ちょっぴりビターな短編集

紙魚家崩壊 九つの謎 (講談社文庫)
北村 薫
講談社


* * * * * * * * * *

日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、
秘められた想いのたどり着く場所、
ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、
生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、
オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の"おばあさん殺害事件"の真相とは?
優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。


* * * * * * * * * *

北村薫氏のミステリ短編集。
これらの短編は、特につながりはなく(連作となっているものもありますが)
それぞれの味わいがありますが、ちょっぴり苦味のきいた作品も多いのです。


冒頭の「溶けていく」はちょっと怖い。
就職し、一人暮らしを始めた女性が主人公。
仕事は順調そうに見えたのですが・・・、ふとしたことから次第に心が壊れていく・・・。
誰の近くにも、もしかしたらこんなふうに、
心の落とし穴がぽっかりと口を開けているのかもしれない・・・。


こんな中で、少しほっとするのが「サイコロ、コロコロ」と「おにぎり、ぎりぎり」。
こちらも出版社に就職した女性のストーリーで、
一瞬嫌な予感が走ったのですが、でも大丈夫。
こちらは、ほんのささやかな日常の謎を解く、
ちょっぴり陽だまりで休憩するような雰囲気の作品。
10面のサイコロの使いみちは? 
3人で作ったおにぎり、どれを誰が作ったのか、当てられるかな?


そしてラスト「新釈おとぎばなし」は、
カチカチ山を題材にした、まさしく、ミステリ。
おばあさんを殺したのは、本当に「たぬき」なのか? 
ちょっぴり色っぽいウサギの探偵が、仕組まれた謎を解き明かします。
面白いなあ・・・、
こういうの、もっと読んでみたいと思いました。

「紙魚家崩壊 九つの謎」北村薫 講談社
(図書館蔵書)

満足度★★★.5


グランドフィナーレ

2016年05月01日 | 映画(か行)
この晩年自体がグランドフィナーレと思えてしまいますが・・・



* * * * * * * * * *

スイス、アルプスの高級リゾートホテルが舞台です。
美しい山々の風景とスパ。
夜ごと催されるディナーショー。
こんなに満ち足りた空間に長期滞在しているのが、
人生も最終ステージを迎えたフレッド(マイケル・ケイン)。
彼は表舞台からは引退した作曲家でありまた指揮者です。
ある日、そんな彼の元を英国女王の使者が訪ねてきて、
フレッドの代表作を女王のために披露してほしいという依頼をします。
「個人的な理由」から、フレッドはそれを頑なに断るのですが・・・。
同じホテルに滞在する様々な人との交流をとおして、彼の気持ちが変化していきます。



ここに登場する人々の共通項は、過去の栄光により世間に記憶されているということ。
フレッドをその筆頭に、
かつての「ロボット役」で絶大な人気を得たハリウッド俳優の青年ジミー(ポール・ダノ)、
かつてのサッカー界のカリスマ氏など。
彼らは、人から過去を褒め称えられるたびに、
今現在の自分を否定されているような気がするのかもしれません。
特にフレッドのような年齢にもなれば、
もう自分は用なしだという思いがよぎる・・・。



でもね、と私は思うのです。
本作ではとても好きなシーンでしたが、
フレッドが牧場の牛達を前に指揮をするというシーンがあります。
牛の鳴き声やカウベルの音、鳥のさえずり。
これらが彼の指揮のもと、美しいハーモニーを奏でる。
もちろんフレッドの心のなかの光景ですが、
このような心の域に達するまでに、彼は極めているのですよ、自分の道を。
しかもこんなリッチなホテルに長期滞在できるなんて・・・。
そして気心の知れた友人もいる。
幸福の極み。
これで人生を終わることができるのなら、なにが不満??? 
とついいいたくなってしまいます。
貧乏人の僻みですけど。



ただ、人が充足を覚えるのは、人から必要とされる時なんですね。
フレッドはそこが満たされないから、どこか空虚。
わかります。
わかるけれどもなんとも贅沢な悩みだ・・・。



まあそれはともかく、プールの架け橋を渡ろうとして、突然沈み始めたり、
僧侶が浮遊したり、サウナで身じろぎ一つしない人々の光景や、何故か口を利かない夫婦。
こんな風に幻想や不思議なシーンが織り交ぜられて、
若干風変わりな作品でもありますが、これは楽しめます。
アルプスの風景やホテルの佇まい、どれも美しい。
ミス・ユニバースのナイスバディには、おじさまたちでなくとも圧倒されますね!


「グランドフィナーレ」
2015年/イタリア・フランス・スイス・イギリス/124分
監督:パオロ・ソレンティーノ、
出演:マイケル・ケイン、ハーベイ・カイテル、レイチェル・ワイズ、ポール・ダノ、ジェーン・フォンダ

映像の美しさ★★★★☆
満足度★★★.5