映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゴッホ 最期の手紙

2018年01月13日 | 映画(か行)
絢爛豪華、油絵アニメーション



* * * * * * * * * *

全編ゴッホタッチの油絵風アニメーションと言う異色作です。
所々に実際のゴッホの絵が挿入され、それがアニメーションとなるので、
なんとも絢爛豪華な場面が続きます。
ちょっと疲れるけど・・・。



フランス、オーヴェールの畑の中で自殺したと言われている
ゴッホの死の真相に迫ります。



郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンは、
父の友人で自殺したゴッホが弟テオに充てた手紙を託されます。
アルマンがテオに手紙を渡すためにパリを訪ねてみると、
なんとテオもゴッホの死の半年後に亡くなったという・・・。
アルマンはやむなく、ゴッホがオーヴェールで世話になったという医師を訪ねてみましたが・・・



アルマンが探偵役で、ゴッホの死の真相を探る・・・
中ではゴッホの銃槍の医師による所見まで出てきて、
ミステリ風味たっぷり。
ゴッホと関係のあった様々な人々の話を聞きながら、
ゴッホのその人間像が浮かび上がります。
さて彼は本当に自殺だったのか否や・・・?



ゴッホが800点あまり描いた絵画のうち、
ゴッホが生きているうちに売れたのは、たったの一枚。
そんな彼を自分の生活までもを犠牲にして支え続けたという弟テオ。
死後にこんなにも高い評価を受けるというのも皮肉というかなんというか・・・。
しかし、芸術は当人が亡くなっても残り続けるというのも凄いことですねえ・・・。



そのゴッホに敬意を表して、作られた本作。
俳優が演じた実写の映像をもとに6万5千枚の油絵が描かれ、
アニメーション化されたといいます。
その熱意と情熱にも拍手!!



<ディノスシネマズにて>
2017年/イギリス・ポーランド/96分
監督:ドロタ・コビエラ、ヒュー・ウエルチマン
出演:ダグラス・ブース、ジェローム・フリン、ヘレン・マックロリー、クリス・オダウド、シアーシャ・ローナン

芸術度★★★★★
満足度★★★.5



「7人の名探偵」綾辻行人他

2018年01月12日 | 本(ミステリ)
京都大学ミステリ研!!


7人の名探偵 新本格30周年記念アンソロジー (講談社ノベルス)
文芸第三出版部
講談社


* * * * * * * * * *

テーマは「名探偵」。
新本格ミステリブームを牽引したレジェンド作家による
書き下ろしミステリ競演。
ファン垂涎のアンソロジーが誕生!
綾辻行人「仮題・ぬえの密室」
歌野晶午「天才少年の見た夢は」
法月綸太郎「あべこべの遺書」
有栖川有栖「船長が死んだ夜」
我孫子武丸「プロジェクト:シャーロック」
山口雅也「毒饅頭怖い 推理の一問題」
麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い --大鏡家殺人事件--」


* * * * * * * * * *


新本格ミステリ30週年記念の一巻として出された本です。
綾辻行人、歌野晶午、法月綸太郎、有栖川有栖、我孫子武丸、山口雅也、麻耶雄嵩という、
超豪華メンバーによる短編集。
テーマは「名探偵」で、しかもすべて描き下ろし! 
こんな本にはめったにお目にかかれませんなあ・・・。
私この中では唯一、麻耶雄嵩さんが馴染みがないのですが、
あとは好きな方ばかり。
それぞれの「名探偵」キャラクターが登場するのもウレシイ。


ということで、楽しみながら読んでいきましたが、
ラストが綾辻行人さんの「仮題・ぬえの密室」。
そもそも綾辻行人さんにはおなじみの探偵がいません。
あ、失礼。
「館シリーズ」には鹿谷門実という探偵役が登場しますが、
それほど世間への露出度は高くないですね。
そこで、どうしようかと悩んでいる綾辻行人さん、本人が登場するのです。
それだけではなく、我孫子武丸さん、法月綸太郎さん、
おまけに綾辻行人さんの奥様、小野不由美さんまで登場するなんて、
感涙の涙、涙・・・ですね。
つまりこの方々は京都大学のミステリ研究会つながり。
学年差があるのですが、1年間だけこの4名が一緒にミステリ研にいた時期があるそうで・・・。
すごいですね~。
漫画で言えばトキワ荘みたいなものですね。
ということで、本作はエッセイなのか・・・?
とも思われるのですが、一応一つの「謎」を追っていきます。
そのミステリ研時代に、「ぬえ」が登場する幻のミステリがあったはずなのだけれど、
誰もその本当のところを覚えていない、という謎めいた話。
一体どこまでが本当で、どこからが創作なのやら、
惑わされてしまいますが、しかし、
この本はダントツのピカイチで、新本格ミステリ30周年記念にふさわしいものでした。
でも、読みながら私は思ってしまったのです。
・・・惜しい。
ここにあと、有栖川有栖さんさえ登場すれば・・・と。
ところが・・・!!
なんと・・・!!
まあ、ぜひお読みください。


「7人の名探偵」綾辻行人他 講談社ノベルス
満足度★★★★★

フェンス

2018年01月11日 | 映画(は行)
妻にとって、夫にとってそれぞれの“フェンス”



* * * * * * * * * *

デンゼル・ワシントンの映画監督3作目。
原作は、オーガスト・ウィルソン「フェンス」(戯曲)。
実際に、デンゼル・ワシントンが主演で舞台上演していたのを映画化したものです。
見ていてすぐに気づきましたが、
ほとんど一軒の家が舞台で、やたらセリフが多い。
確かに、舞台劇です。
日本では未公開。


1950年代のピッツバーグ。
トロイ(デンゼル・ワシントン)は、もとプロ野球選手。
けれど、人種差別のため、ほとんど活躍の場を与えられず、野球界を去りましたは。
今はごみ収集員で、妻ローズ(ビオラ・デイビス)と息子を養うのに、
毎日がやっとの生活です。
そんな時、次男コーリーがアメフトのスカウトマンに見い出されるのですが、
トロイの反対のためにコーリーはその道を断念しなければならなくなります。
また、ひたすらトロイを支えてきた妻ローズでしたが、
夫に別の女がいることを知って打ちのめされます・・・。



今は落ちぶれているとは言え、
この家の主としてのトロイの存在は強大なのです。
ローズの願いによってこの家のフェンスを造ることになるのですが、
そのことについて、トロイの友人ボノ(スティーブン・マッキンレー・ヘンダーソン)は
こんなふうにいいます。

「ローズはこの家から誰も出ていってほしくないんだよ。」

家族が共にいることが彼女の願い。
けれども、息子は父親に反発して家を出ていってしまうし、
夫はよそに女を作ってしまう。



一方、トロイにとってのこのフェンスは、紛れもなく自分の力の及ぶ範囲の誇示。
この中にいる者は自分に従わなければならない。
ここが彼にとっての王国なのです。
妻ローズは、自分らしくあることをあきらめても、夫に従う。
このことは日本人にとってはさほど不自然でないような気がします。
特に一昔前の日本ならば・・・。
(今なら離婚という手段は日本でも当たり前になってきていますけれど。)
けれど多分、欧米の人々の間でこのひたすら忍従する妻、
というのには違和感があるのでは?と推察します。
父親が強大な力を持つと同時に、
その家族一人ひとりもまた、「自己」がしっかりした形を持つものだから・・・
だからこそ、息子は耐えきれずに家を出てしまう。
でもローズの有り様はちょっと東洋的なのかもしれない。
日本と欧米の精神風土について、少し考えてしまった作品でした。

フェンス [DVD]
デンゼル・ワシントン,ヴィオラ・デイヴィス,スティーヴン・ヘンダーソン,ジョヴァン・アデポ,ラッセル・ホーンズビー
パラマウント


「フェンス」
2016年/アメリカ/139分
監督:デンゼル・ワシントン
出演:デンゼル・ワシントン、ビオラ・デイビス、スティーブン・マッキンレー・ヘンダーソン、ジョバン・アデポ、ラッセル・ホーンズビー
家族を考える度★★★★☆
満足度★★★☆☆

「藪医ふらここ堂」朝井まかて

2018年01月09日 | 本(その他)
三哲の医師としての腕前は? おゆんの恋心は?

藪医 ふらここ堂 (講談社文庫)
朝井 まかて
講談社


* * * * * * * * * *

江戸は神田三河町の小児医・天野三哲は、「面倒臭ぇ」が口癖。
朝寝坊はする、患者は待たせる、面倒になると逃げ出す、
付いた渾名が「藪のふらここ堂」だ。
ところがこの先生、見えないところで凄腕を発揮するらしい。
三哲に振り回されながらも診療を手伝う娘のおゆん、弟子たち、
ふらここ堂の面々の日常と騒動を描く!


* * * * * * * * * *

江戸の小児医を中心にした人々の人情噺。
この医者、三哲、決して「赤ひげ」みたいに立派な医者ではありません。
「面倒臭え」が口癖で、寝坊でなかなか診察が始まらない。
空いているのに患者は長~く待たされる。
近所でも藪医者として有名。
そんな父に呆れながら診療を手伝うのが、一人娘のおゆん。
本作は彼女の視点から描かれています。
小児科にやってくる母子についてはかなり現代の風潮が投影されていて、
過保護の母親とか、モンスターめいた母親が登場したりします。
三哲はそんな母親と話をしなければならないのが「面倒臭え」わけです。


さて、そこも興味深いのですが、
私の関心は次第におゆんの恋心の行方を追うようになっていました。
まずは幼馴染の二郎助。
おゆんは幼いうちに母親を亡くしているので、
二郎助の母・お安が母親代わりで、2人、兄弟のように育ったわけです。
だから本当に、おゆんにとって二郎助はただの気やすい幼馴染。
けれども二郎助の方はそうではないようで・・・。
そしてもう一人は、薬の商いをする佐吉。
目下男やもめで、まだ幼い勇太を育てている。
これがもう、物腰柔らかな大人のいいい男! 
おゆんは時折勇太を預かったりするのですが、
密かに佐吉のことを思うと顔が赤らんだり、ドキドキしたりするのです。
さてさて、このウブなおゆんの恋心の行方は・・・。


と、そうこうするうちに、おゆんも知らなかった父三哲の出自のこととか、
御殿医に推されることとか、
話は進展してゆくので、全く目が離せません。
最後の方は、やめられず、夜更かしして読みふけってしまいました。


そうそう、もう一人ユニークな登場人物、お亀婆さんも忘れてはいけません。
誰がどう見ても間違いなく「お婆さん」の年齢なのですが、
人から「婆さん」と呼ばれると必ず「婆さん言うな!」と、返します。
一見おちゃらけた産婆さんなのですが、
しかしさすがに長い人生経験はダテじゃない。
最後に迷い路にはまり込んだおゆんに素敵な言葉をかけてくれるのは、
やっぱりこの人。
読み応えたっぷり、そしてとにかく楽しい!!
これ、NHKあたりで、ドラマ化になりませんかねえ・・・?

図書館蔵書にて(単行本)
「藪医ふらここ堂」朝井まかて 講談社
満足度★★★★★

はじまりのボーイミーツガール

2018年01月08日 | 映画(は行)
オバサンは、こういうボーイミーツガールに弱い・・・



* * * * * * * * * *

クラスで落ちこぼれの少年ヴィクトールには、気になる女の子がいます。
同じクラスの優等生マリー。
ある時、何故かマリーがヴィクトールに勉強を教えてくれるというのです。
おかげでメキメキとヴィクトールの成績は上がり、
二人の距離も接近していきます。

さて、マリーはチェロ奏者を目指しているのですが、
徐々に視力が低下する病気を抱えていたのです。
けれどもそのことをヴィクトールに打ち明けることができません。
けれど、次第に見えなくなる目のことを隠し通すことはできません。
ヴィクトールはマリーの秘密を守るために自分が利用されていたと知り、
ショックを隠せません・・・。



とにかくこの少年少女二人の恋が可愛らしくて、微笑ましくて・・・。
マリーの目のことはもちろんほのぼのとした話ではありませんけれど。
でもマリーは父親の言うように「施設」に入って、
おそらく「安全な路」を歩もうとはしません。
あくまでも自分の夢を追ってチェロを弾きたいと思う。
完全に失明する前に、家の中や学校までの歩数を数えておいたりする、勇気ある女の子。
魅力的です。



ヴィクトールは母親を亡くしていて、
目下、自動車整備工の父親と二人暮らし。
その父親は思春期のヴィクトールを扱いかねてちょっとオロオロしてしまう。
いつまでも忘れられない妻のことを、ヴィクトールにたしなめられたりするのも、
なかなかステキな父子関係でした。
でもそういうヴィクトールも母親を懐かしむ場面があって、それもすごくいい。


そしてまた、ヴィクトールの友人たちがまたいいのです。
いつもヴィクトールのことをよく見ているちょっと大人っぽいアイカムと、
やんちゃな双子の男の子。
彼らの友情もまたステキだ。



こんなふうに一人ひとりの個性が際立っていて、
紡がれるストーリーのなんと心地よいこと。
ステキな物語でした。



そうそう、マリーが好きでヴィクトールに嫉妬する意地悪な少年役の子が、
キレイな子だったなあ・・・。
こんな役で、残念でした・・・。



<ディノスシネマズにて>
「はじまりのボーイミーツガール」
2016年/フランス/89分
監督:ミシェル・ブジュナー
出演:アリックス・バイロ、ジャン・スタン・デュ・パック、シャルル・ベルリング、パスカル・エルベ
初恋度★★★★★
満足度★★★★☆

大停電の夜に

2018年01月07日 | 映画(た行)
蝋燭の光の下でなら、素直になれる・・・



* * * * * * * * * *

クリスマスに見るべき作品ですが、ちょっとタイミングがずれてしまいました。


クリスマス・イブの夕方、突然の停電に見舞われた首都圏。
自殺しようとする女性と少年。
死期の迫った父と息子。
不倫をしている上司と部下。
別れた恋人を待つバーのマスター・・・
この大停電の夜の人々の群像劇です。


始めはそれぞれ独立してバラバラな人々が、
どこかつながりを見せてくるのも面白いところ。
この手の作品の代表としては「ラブ・アクチュアリー」が、ありますが、
邦画でここまで楽しめれば上出来という気がします。
変に甘すぎず、やや大人向けかな?



そういえば、それぞれの「恋の関係」は、
殆どがあるべきところに落ち着いていたような・・・。
壊れかけた夫婦は、元の鞘に戻り、
昔別れた人と再会した人は、心を交わすけれども結局やり直すことにはならない・・・。
結局は足元の生活を見直す、
今の生活もこれまで積み上げてきた大切なものであることを再認識する・・・
という意味で、これはクリスマスらしい物語なのかもしれません。


電気がない都会で、キャンドルショップのろうそくの炎が、
なんとも優しく輝き始めます。
通常の電気の光がまばゆい夜なら話せなかった心の真実を、
この蝋燭の光の下なら何故か話せてしまう。
そんな貴重な魔法の一夜。


私はやはりトヨエツの、バーのマスターのエピソードが一番好きでした。

大停電の夜に [DVD]
豊川悦司,田口トモロヲ,原田知世,吉川晃司,寺島しのぶ
角川エンタテインメント


<WOWOW視聴にて>

「大停電の夜に」
2005年/日本/132分
監督:源孝志
出演:豊川悦司、田口トモロヲ、原田知世、吉川晃司、寺島しのぶ、井川遥
魔法の夜度★★★★☆
満足度★★★★☆

「タイタニックの最後の晩餐」リック・アーチボルト&ダナ・マッコリー

2018年01月06日 | 本(解説)
海の藻屑と消えたディナー

タイタニックの最後の晩餐―豪華航路のディナーとレシピ
Rick Archbold,Dana McCauley,梶浦 さとり
国書刊行会


* * * * * * * * * *

1912年4月15日、処女航海の海に消えた豪華客船タイタニック号。
20世紀史上に残る伝説的客船の魅力は今もなお消えず、
時と悲劇の記憶を超えて、私たちに夢と憧れを与えつづけている。
海に浮かぶ宮殿と謳われた最高の客船で供された、
贅を尽くした最高の食事
―残されたメニューが伝える夢のような最後の晩餐とはどんなものだったのか?
一等から三等まで、オリジナルのメニューをもとに再現された、
幻のレシピがいま明かされる。
タイタニックの「食」の魅力を、多数の貴重な図版とともに封じ込めた究極の一冊。
今宵、あなたの食卓に華麗なタイタニック・ディナーが甦る。

* * * * * * * * * *

タイタニックは、やはりあの映画「タイタニック」の印象が強烈なので、
この本にもつい目を引かれました。
いつも行く「ちえりあ」の図書コーナーでディスプレイしてあったのです。
本自体は1999年に発行されたものなのですが。


この本は、タイタニック号で出された食事に注目し、
その残された記録や生き残った方の証言などをもとにして、
レシピが再現されています。
一等から三等とありますが、
更にその上、超セレブのためのスペシャル料理もあったのですね。


ちなみにそのスペシャルディナー

鶉卵のゼリー寄せ、キャビア添え(アスピークで固めた鶉卵とキャビア)

ポタージュ・サンジェルマン風(新鮮なグリーンピースのスープ)

オマール海老のテルミドール(オマール海老のテルミドール、マッシュポテト添え)

トゥールヌドの編笠茸添え(キャベツの蒸し煮にのせた牛フィレ肉のソテー編笠茸添え)

パンチ・ロゼ(バラ水とミントのシャーベット)

鶉の桜桃ソース(うずらのチェリーソース)

春アスパラガスのオランディーヌソース

フルーツサラダ マセドワヌ風(新鮮なフルーツサラダ)

オレンジのシュルプリーズ

そのレシピまでも丁寧に記載されているのですが、
とても真似する気にもなりません。
船上にありながら、並みのホテルよりも一層豪華な内容だったようです。
というのもこの豪華客船、この時が処女航海。
通常よりも一層注目を浴び、セレブの中のセレブこそが乗船していたのでしょうね・・・。
痛ましいことです。


でも私にとってウレシイのは、こんな豪華な食事だけではなくて、
2等、3等のメニューもちゃんと載っていたところです。
3等になるとさすがにその内容は質素。
映画「タイタニック」で、一等のディナーに招かれたジャックが、
どうしていいのやらわからなかった、というのも納得です。
メニューのいちいちに目を通しはしなかったのですが、
タイタニック号の食堂や当時の人々の様子などが図版で示されているので、
眺めているだけでも楽しい本です。

図書館蔵書にて
「タイタニックの最後の晩餐」リック・アーチボルト&ダナ・マッコリー 国書刊行会
満足度★★★.5

勝手にふるえてろ

2018年01月05日 | 映画(か行)
ヨシカの実像がリアルに迫る



* * * * * * * * * *

綿矢りささん原作の本作、恋愛コメディとはいっても、さすがに一味違う。



恋愛経験のないOL、ヨシカ(松岡茉優)
。同期の“ニ”(渡辺大知)にコクられてテンションが上がります。
けれども、彼女にはもう一人の恋人“イチ”(北村匠海)がいる。
“イチ”というのは、中学校のときの同級生なのですが、
実のところろくに話をしたこともなく、
ただ王子様のように憧れていただけなのです。
しかしイチカはこれまでずっと“イチ”を心の彼氏として思い続けてきた・・・。
二人の彼氏(?)の間で揺れる彼女は、
今の“イチ”に会って前のめりに死んでいこう(?)と、決意します。
別人の主催者になりすまして、同窓会を計画。
ついに、“イチ”との再会の日がきますが・・・。



いい年して、中学校の同級生を片思いのまま思い続けるだなんて・・・
少女漫画じゃあるまいし、あまりにも夢見がち・・・? 
と、私には思えるのですが、
しかしヨシカの実像が見えてくるに従って、
彼女にとってこのことは、
生きるためにすがるたったひとつの糸のようなものだとわかってきます。





金髪のカフェ店員や、いつも同じところで釣りをしているおじさん、
駅員さんに、コンビニの店員・・・
イチカには気安く話のできるおなじみの人がずいぶんいる、
という光景が映し出されるわけですが、
それはフェイクで・・・。



人付き合いが得意ではなく、ひたすら孤独の底に落ち込んでいく・・・、
おちゃらけて、めんどくさい女に見えていたヨシカの実像が、
痛いくらいに切実に迫ってくるのです。
王子様の実像もきつかったなあ・・・。



さて、そんな中で、“ニ”は実にいいヤツだ!!
こんな人を疎かにしたらバチが当たりますよ、ホント。



ヨシカの言葉遣いが、とても乱暴なのですが、
今時の女子ならそんなものでしょう。
リアルで実感があります。
なかなか見ごたえのあるコメディなのでした。


<ディノスシネマズにて>
「勝手にふるえてろ」
2017年/日本/117分
監督・脚本:大九朋子
原作:綿矢りさ
出演:松岡茉優、渡辺大知、石橋杏奈、北村匠海、趣里、古舘寛治、片桐はいり
イタい女度★★★★★
満足度★★★★☆

たかが世界の終わり

2018年01月03日 | 映画(た行)
兄の、弟へ対するコンプレックスが元凶



* * * * * * * * * *

自分の死期が近いことを伝えるため、
12年ぶりに帰郷した若手作家ルイ(ギャスパー・ウリエル)。
12年間寄り付かなかったルイの突然の帰宅に、
母(ナタリー・バイ)や兄(バンサン・カッセル)・妹は(レア・セドゥー)は、
一応歓迎するものの、戸惑いを隠せません。
そして、ルイは、自身のことを打ち明けようと思いながら
なかなか切り出すことができない・・・。



う~ん、とにかくこの家族の有り様が凄いといいますか、
多分ふだんは、ここまでではないのだろう。
けれどルイの登場で、家族は混乱を深めてしまいます。



問題はこの兄・アントワーヌですね。
ルイは多分家にいてもあまり喋る方ではない。
何を考えているのかよく分からない子と思われていたかもしれません。
そして思春期になって、彼はゲイだと判明する。
おそらくそのことが家を出るきっかけだったのでしょうね。
兄は、このようなすべてを含めて、
ルイに良い感情を持っていない。

ルイは寡黙が故に思慮深いと皆に思われていて、
ゲイであることも理解はできないけれども「特別」で、
家を出ていってしまったのは身勝手だけれど自由だ。
そして何よりも作家として成功した才能の持ち主。

アントワーヌは、自分になくて実は欲しいと思っているものをすべて持っているルイが
妬ましくて仕方がないのです。


が、弟が離れていればそんな思いは忘れていられた。
でも、突然目の前に現れた弟を見て、
くすぶっていた彼の思いは勢い良く溢れ出てしまったのでしょう。
しかし、彼はそれを自覚はしていない。
兄として、弟を歓迎しなくては、という気持ちもありながら、
出て来る言葉は辛辣なものばかり。
そのことがまた、彼を傷つけているようなのですね。
こうなったらもう、どうにもならない・・・。



母親は息子をひたすら溺愛。
妹はルイが家を出た頃はまだ小さかったのであまり思い出がない。
だからこそ期待感は大きく、もっと彼を知りたい思いでいっぱい。
と、様々な感情が入り乱れて、
ルイはそれだけで苦しくなってしまう。
そんな中唯一、普通の感情を持っていたのが兄嫁のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)なのですが、
ルイとカトリーヌのごく普通の会話さえも、
アントワーヌにとっては目障りでしょうがない。



アントワーヌの闇が、この家族の惨状の元凶。
この兄の思いの圧倒的な強さに、
ルイはそんなことに比べたら自分の死など大した問題ではない、
むしろ、自分がいなくなればすべて解決するのでは・・・?
などと思ったのかどうか・・・。
この題名が、そんな想像をさせるわけですが。



たかが世界の終わり [DVD]
ギャスパー・ウリエル,レア・セドゥ,マリオン・コティヤール,ヴァンサン・カッセル,ナタリー・バイ
ポニーキャニオン


<J-COMオンデマンドにて>
「たかが世界の終わり」
2016年/カナダ・フランス/99分
監督:グザビエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥー、マリオン・コティヤール、バンサン・カッセル、ナタリー・バイ

家族の闇度★★★★★
満足度★★★★☆

「ゲド戦記 外伝」 ル・グイン

2018年01月02日 | 本(SF・ファンタジー)
アースシーの世界観、構想力に改めて驚かされる

ゲド戦記別巻 ゲド戦記外伝 (ソフトカバー版)
清水 真砂子
岩波書店


* * * * * * * * * *

アースシーを鮮やかに照らしだす五つの物語
「カワウソ」「ダークローズとダイヤモンド」「地の骨」「湿原で」「トンボ」と、
詳細な解説を収める番外編。
ル=グウィンの構想した世界の全貌が見えてくる一冊。

* * * * * * * * * *

ゲド戦記Ⅰ~Ⅴを読んだきり、
この番外編を、放ったらかしにしていました。
やっと読んだ本巻で、鮮やかにアースシーの世界観が胸に蘇りました。
「外伝」ですが、発表順としてはⅣとⅤの間に本巻が入ります。


「カワウソ」は、ローク島のローク学院ができるまでのストーリー。
ゲド戦記の始まる300年ほど前のこと。


「地の骨」は、最初にゲドを教えた魔法使いを教えた魔法使いの物語。
ゲド戦記中でも確か伝説的に語られていた、
大地震を鎮めたという魔法使いの物語ですね。


「ダークローズとダイヤモンド」は、ラブストーリー。
魔法が使えるから、必ずしも魔法使いにならなければならないわけではない。
やはり人はその魂が指し示す方向へ行けばよいのだと、言っているようです。


「湿原で」では、なんとゲド本人が登場するのがちょっと嬉しい。
ローク島で恐ろしいほどに才能がある男が、
その力で他の人をも支配したいという欲望にかられていたのを、
食い止めた"大賢人"であるゲド。
ゲドがその後の彼の行方をたずねて、
はるばると辺境の地までやってくるという話です。
私はこの話が本作中では一番気に入りました。
やっぱりゲドはステキだ。


「トンボ」は、ゲド戦記の「帰還」と「アースシーの風」をつなぐストーリー。
ここに登場するトンボは女性なのですが、
ローク島に行って魔法を学ぼうとします。
しかし、ローク島は女人禁制なのですよ・・・。
この時点ではゲドはすでに大賢人の地位を捨てて、故郷へ戻ってしまっています。
その後の大賢人も決まらぬままに、
長たちの結束も乱れていた、そんな時。
外伝というにはもったいない劇的な展開があるのですが、
実のところそのあたりの「意味」が私にはよくわかりませんでした・・・。
ただし、冒頭の「カワウソ」にあるように、
このローク島の魔法の学校の始まりの時には
女性も多く関わっていたわけですから、
男たちだけの独善的なこのローク島のあり方が見直されていく時、
あるいは終わるべき時、ということなのかもしれません。


けれどここまで綿密に組まれたアースシーの世界観、
著者の構想力に圧倒されます。

「ゲド戦記 外伝」 ル・グイン 岩波書店
満足度★★★.5

探検隊の栄光

2018年01月01日 | 映画(た行)
南国の秘境に、ヤーガは実在するのか!?



* * * * * * * * * *

落ち目の俳優杉崎(藤原竜也)は、新境地を開拓しようと思い、
あるTV番組に出演することにします。
それは、「ヤーガ」と呼ばれる未確認生物(UMA)を求めて
秘境を探検すると言うもの。
杉崎はその探検隊の隊長役なのです。
さて、さっそくとある南国で、撮影が始まりましたが、
進行が大雑把なディレクター、
バラエティをバカにしているAD、
適当な現地通訳らのメンバーで、
撮影は行き当たりバッタリ。
懸念でいっぱいの杉崎でしたが、しかしそんな中でも、
隊長の自覚が芽生え、真剣になっていく杉崎。
しかし、目指す洞窟にたどり着くと、
なんとそこにいたのはその地の反政府軍。
いきなり銃を突きつけられた彼らは・・・。



なんとも懐かしいといいますか、
あの、結局何をしに行ったのかよくわからないけれどやけに仰々しい、探検隊のTV番組。
私もよく見ていたなあ・・・。
きっとその撮影の内情は、本作と似たようなものだったのかもしれないと思ったりします。



原作は荒木源さんなんですね。
「ちょんまげぷりん」などの。
なるほど~。



単に昔のTV番組のパロディなのではなくて、
その国の内乱を描いているところがミソです。
探検隊と言うか撮影隊メンバーもそれぞれ個性豊かで傑作。
指示に全く内容がなく適当なプロデューサー(ユースケ・サンタマリア)とか、
寡黙な職人タイプのカメラマン(田中要次)とか。
子どもみたいに皆で一つのことに夢中になって何かを作り上げる、
そういうことの面白さは伝わりました。



時には、こんな風にただ笑える作品もいいですね。

探検隊の栄光 DVD 通常版
藤原竜也,ユースケ・サンタマリア,小澤征悦,田中要次,川村陽介
東宝


<WOWOW視聴にて>
「探検隊の栄光」
2015年/日本/91分
監督:山本透
原作:荒木源
出演:藤原竜也、ユースケ・サンタマリア、小澤征悦、田中要次、川村陽介、佐野ひなこ

探検のヘボさ★★★★★
満足度★★★.5

2018年 あけましておめでとうございます

2018年01月01日 | インターバル
現状維持!




皆さま、あけましておめでとうございます。
昨年は当ブログの10年目を迎えた年でした。
そういう数字に特に意味は無いと思う方なので、スルーしてしまいましたが
何にしてもここまで継続できたことは、何らかの意義があるのではないかと
自己満足しております。
今後も、特に欲は申しません。
ひたすら現状維持。
それが目標です。
とは言っても毎週、映画を劇場での新作2本と、自宅での旧作2本、
結構頑張っているつもり・・・。

今年もよろしくお願い致します。
皆さまにとってもよい一年でありますように。