ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

舞台は人を育てる

2007-01-26 21:22:27 | 演劇

置農演劇部校内公演が終わった。心配なんてどこ吹く風、部員達は颯爽と2本の舞台を演じきった。一人一人が、役者としての立ち姿になっていたもの。中でも、大受けしたのはタクとユキ。当人達の呆けキャラが見事にはまって、会場は大爆笑に包まれた。

実を言うと、この二人、とっても心配していた。タクの方はいたって生真面目な男だが、なんせ、動作がぎこちない。ダンスのステップなど絶対人と合った試しがないし、台詞の間も終始演出泣かせだった。真面目なだけに言動も今風でない。そんな彼だから、クラスでも部でも格好のいじられキャラだったのだ。その彼が呆けをやることになった。笑いはきっと起こるだろう。それは予想が付いた。でも、そいつは、もしかすると嘲笑と抱き合わせになるかもしれない。舞台に立ってまで嘲りの笑いを浴びたのでは、目も当てられないではないか。

ところが、本番はこのつらい予測が一挙に吹き飛ばされたのだった。観客のだれもが、タクをではなく、タクの演技に大笑いしていていた。彼のコミカルな動きに、大袈裟な台詞に、みんな手を叩かんばかりに笑った。そして、後半、アホな高校生がただ一度見せた真剣な怒りの場面も、しっかりと観客に届いたのだった。

もう一人の心配はユキだ。これはもう、声が出ない、仲間内以外人前では喋らない部員なのだ。顧問で担任の私にだって、怖がって近寄らない。冗談を投げかけても、どう受け止めてよいかわからず、顔をこわばらせて立ち往生する、そんな生徒なのだ。でも、道具作りなどは心底好きで、止めさせなければ、夜中までだって作業を続けているし、普段来ているジャージは、まるでペンキ屋の作業着、そんな子だ。だから、日頃の大きな舞台では当然、スタッフに回る。当人もそのことに不満どころか、生きがいを感じている。

その彼女が、芝居のキーワードとも言うべき役についた。しかも男役だ。専業主夫をめざす料理の得意な不気味な男子生徒という役所だった。これもまた、きわどい。下手をすれば、彼女の対人関係の不器用さが笑いものになりかねない。それより以前に、台詞が観客に聞こえるだろうか。棒読みの台詞に心がこもるだろうか。演出の生徒ばかりか、今回は口出ししないはずの私までが、何度も何度もダメだしをした。

しかし、これまた、心配は杞憂に終わった。彼女はその大切な役を見事に演じきったのだった。天然呆けのキャラを見事に生かしながら、何とも不思議な笑いの渦を巻き起こしたのだった。そして、最後の長台詞、訥々とした語り口は、思いがけずも、高校生達の戸惑う心の奥底を、飾ることなく自然とさらけ出すことに成功したのだった。

舞台は、人を育てる。日頃スタッフに入ることの多い部員を極力キャストに起用するこの校内公演の目的が、今回ほど、見事にその真価を発揮したことはない。二人の大ブレイクは、校内で大きな話題となって飛び回ったのだった。今回の舞台が彼らの人生に、これ以上ない大切な記憶として刻まれたことは間違いないことだと思う。

改めて言おう。舞台は人を育てる。

コメント
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