数日前から、細切れに見てきた『カルメン』のDVDを見終わった。幸い視聴覚室に最新型の大型液晶TVが入っていたので、部屋を真っ暗にして部員全員で鑑賞した。
定期公演『カノン』がカルメンを下敷きにして書かれた作品なので、まずは、事前学習の意味で見せた。もちろん、一番の目的は、沙金役の生徒に、男を手玉に取る悪女を目にも心にも刻み込んでもらいたかったからだ。置農演劇部は初心な奴らの集団で、最近はとんと浮いた話しも聞こえてこない。そりゃ、ほとんど休みもなく部活なわけだから、デートも恋愛も関係ない!ってわけなんだ。中でも沙金役は!おっと!個人情報、個人情報!
カルメンの妖しい魅力、出来ないまでも、感じ取ってもらいたかった。その目的が達せられたのかどうか、そいつはこれからの稽古で明らかになるだろう。
もう一つの目的は、部員たちにオペラっていうものを見知って欲しかったってことだ。オペラなんて、見ないものねぇぇぇぇ。僕だって、ほんと久しぶりだもの、部員たちにはオペラなんてものがあるってこと自体、驚きの体験だったんじゃないだろうか。日頃ミュージカルもどきをやっている者としちゃ、その元祖というべきオペラの一つくらい見とかなくちゃ!で、今回、忙しいスケジュールの中、無理矢理時間を作って見せた。
飽きるかな?って心配してたんだ。カルメンの音楽は親しみやすい楽曲だとは言え、やっぱりオペラだからね、ポップスや演歌とは違う。歌い方だって徹底的に響かせる歌唱法だしね。初めて聞けばきっと違和感あると思うから。
ところが、これが、意外や意外!部屋を真っ暗にし見たにもかかわらず、居眠りする奴なんてほとんどいなかった。みんな夢中で画面を注視していた。そして、見終わっての感想でも、男と女の愛憎劇に心動かされたみたいだった。オペラという世界があり、カルメンとドン・ホセのような恋があり嫉妬があり愛憎がある。そんな大人の世界をかいま見て圧倒されたようだった。
で、何より立派だなって思ったのは、自分たちと縁遠い世界や表現に対して、素直に、謙虚に接していこうとする彼らの態度だ。今時の若者に欠けている心性だよな、これ。自分たちの見知った世界とかけ離れたところにも素晴らしものがたくさんある!これだよ、この真摯さが無くちゃ成長なんてあり得ない。
演劇部が、そんな別世界への扉を開ける役割を果たしている。彼らがその扉をくぐる手伝いをできたこと、これが僕の一番の実績っていえるのかも知れないね。