三年ぶりの川西公演だ。前回は『アイ ラブ 坊ちゃん』。こんな題材がミュージカルになるのかっ!という新鮮な驚きに圧倒された。それととことんこだわった舞台作りにも打ちのめされた。そんなこともあって、その年の地区生徒講習会には音楽座から藤田将範さんに来てもらったし、県大会では井田安寿さんに審査員になってもらった。ついでに言うと、その時置農演劇部は初めて県大会を突破して東北、さらには全国への切符を手に入れたんだった。
それほど、思い出深い音楽座なのだ。だから、今回だって、恒例の子どもミュージカル米沢児童館公演をお断りして全員でワークショップ、バックステージツアー、観劇、さらにバラシと徹底的におつきあいすることにした。ワークショップが感動的だったってことはすでに昨日書いた。今日は舞台についての感想だ。
改めて、音楽座って徹底的にこだわる劇団なんだってことを痛感した。流れ星は飛ぶ、ビーム光線は客席を走る、装置は動き回る、巨大な輝きパネルがおりてくる、紗幕使いも前回同様目を見張る、ほんと、見ている者が楽しめる工夫が、これでもかってくらいに仕込まれている。もちろん、ダンスも歌も決まってる。演技も巧みだ。歌が適度なこともいい。衣装も、宇宙人のものといい、彼らが地球人になりすましている洋服といい、一つ一つ納得のいくものだった。
中でも良かったのは、動き回る迷路かな。5尺幅×10尺ほどの箱が舞台上をあちらこちら動き回って人を閉じこめる。書かれた絵といい、これはもうまったく僕好みだ。だって、去年、地区大会でこの動く装置ってのやってたものね。置農はただパネルが裏表リバーシブルになってるってだけだったけど、音楽座ではそれがいろんな組み合わせで、迷路になったり、壁になったりしていた。もちろん、裏面も使えるようになっていて、裏返して広げて喫茶店の内装に仕上げられていた。迷路の時は、これに不気味な照明が当てられて、物語全体を象徴する不確かな不思議な歪み空間が生み出されていた。
あと、装置で特筆は異星人の世界の作り方か。舞台一面をキラキラ輝くステンドグラスのようなもので覆っていた。これ、バラシの時に見てみたら、なんと透明の弁当パックに蛍光塗料を塗ったものが大量に張られたアクリ板だった。やられた!でも、これが2本のバトンに目一杯吊られていて、当然そのフレームは金属製だった。やるとなったらとことんなんだよな、音楽座は。
さらに、公演の柵は降りてくる、星球は輝く、紗幕は2枚、監獄の檻も吊りもの、おいおい、いったいどこにそんなバトンがあるんだ???ブラザのバトンは4本のはず?これまたバラシでわかったけど、暗転幕を丁寧にたくし上げてそこに前面の黒紗は吊られていたし、バトンにさらに張り出しのバトンを作りつけてそこにも装置を吊っていた。ともかくどこまでもこだわった舞台作りだった。
じゃあ、物語の方はどうだったのか?これは残念ながらちょっと夢中になれなかった、僕の場合。好き嫌いって言うべきかな。、こういう純愛ものには心が動かなくなってるんだろうな、もはや。まっ、余計に生き過ぎちまったものの限界って言うか、汚れちまったっていうか、すり切れてしまてるっていうか、人間いろんなことを知りすぎるってことはよくないなぁ!
人間と宇宙人との生命の交換って展開も、面白いとはおもったけど、心はなびかなかったなぁ。ヒロインが殺人を犯す展開などは、もう完全に見通せてしまっていて、そうそう、そうなのよね、って見えてしまう、このわびしさ!だから、舞台全体からの圧倒的感動って状態には至らなかった。だから、ほとんど全員のスタンディングオベーションにも素直に加われなかった。
あと、主役の若手二人が、うーん、どうもねぇぇぇぇ?!特に加代。生まれと育ちと出身地大阪を表現しきれたとはいえないな。やっばり、育ちがいいんだよ、彼女。周りを支える役者陣は、歌唱力演技力ともに安定していて大いに楽しめたんだけどね。特に宇宙人三人組は、台本の設定も巧みで大いに楽しめたし、歌も説得力のあるものだった。
と、やや否定的な印象の感想になってしまったけど、音楽座の舞台作りへの真摯な姿は、大いに心打たれるものがあった。学ぶものもたくさんあった。だかこそ、終演後3時間近くもバラシを手伝ってしまったってことなんだ。ほんと!一所懸命働いたものね、僕としては。で、最後の言葉、部員の一人が言っていた、「また、早く来てくれるといいですね。」