ここに書くってことになかなか踏み切れなかった。
本当にやるのか?本当に書けるのか?これをやってもいいのか?
ずっと気持ちが定まらぬままでいた。東日本大震災のこと。今でも、いいのか?疑問はしつこく迫ってくる。どうあがいてみたところで、被災した人たちの心に同化することなんてできない。まして、亡くなった人たちのことなど。
寄り添うなどと言うのは簡単だ。でも、それはこちらでそう思っているだけのこと。被災者にしてみれば、ありがた迷惑の部分もきっと多いことだろう。わかっちゃいないよ、遭遇した者にしかわからないよ、そんな声が聞こえてくる。その通りだと思う。
でも、今、これを書くしかないと感じている僕も事実なのだ。で、書き始めた。ミュージカルだ。作曲は知野さんにお願いしすでに数曲が上がってきた。台本も数日前から書き始め、思いがけずスムーズに進んでいる。もはや賽は振られた。
この大震災での行方不明者4600人余、その多くは海に連れ去られた人たちだろう。今も身の置き所なくさまよっているに違いない。港から流れ去り太平洋を無人でさまよう船も多いと聞く。大海を漂う漁船に身を寄せる人々の魂を描いた。
今日は、送られてきた音源を使って稽古をした。漁師たちの歌う民謡演歌がある。、コミカルソングがある。そして、ご詠歌を今に生かした詠唱がある。こちらの狙いをしっかり掴んだ素晴らしい曲が届いた。
とりわけ詠唱だ。歌詞を紹介しよう。
SONG8『詠唱』(御詠歌を新しいセンスで)
人は死ぬ いつかは果てる 何人も
避け得ぬ 運命を頷きつつも
なぜ私 怒り突き上げ なぜに今
心残りは 身をば苛む
野も山も 魂魄あふれ 海原を
漂う命 さすらう思い
声かすか 波路を渡り 届く声
愛しき人の 悼む思いは
いつまでも あなたとともに 祈りつつ
涙くれつつ 思い馳せつつ
いつまでも あなたとともに
涙くれつつ
いつまでも あなたとともに
思い馳せつつ
祈りつつ
祈りつつ
劇の最後でご詠歌の鐘の音だけのバックでアカペラで歌われる。拙い稽古だった。
かろうじてメロディをたどるだけの稽古だった。なのに、最後の部分はこみ上げる涙
で歌いきることができなかった。僕が舞台に立つのでなくて本当によかった。
哀悼の曲だ。夜の海に輝くいくつも灯、夜光虫なのか、ひと霊なのか、静かに浮か
び上がる漁船、そしてそこに魂を寄せた人々を、この詠唱が包み込む。そんなラスト
シーンを考えている。