東京藝術大学大学美術館がオープンしたのは確か1999年秋。その12月に、高橋由一の「鮭」を見るために、2時間並んでやっと入場できたことが、今でも鮮明に心に残っています。
その「鮭」が九州にやってきました。場所は、長崎県美術館。NHKの「日曜美術館30年展」で展示されています。
中学1年のとき、「図工」の教科書で、初めて見た『「鮭』。風景画でもなく、人物画でもなく、果物などの静物画でもなく、粗縄に垂直にぶら下がっただけの「鮭」。カット見開いた目と口。縦と横の断面の赤い肉の流れ。うろこの形と色。乾燥して皺になった皮。縄の表現の見事さ。身を欠いた鮭というテーマの面白さ。中学1年生の私には衝撃的で、それでいて親しみやすく、ずっと心に残った絵でした。
「日曜美術館」は30年というロングランの番組。その中から、印象に残る作品や作家を取り上げて、テーマ別に構成された見やすい展覧会でした。「夢の美術案内が、今、現実になる」というキャッチフレーズが心を揺さぶります。45作家の名品が176点。2時間半かけてゆっくり観ました。
テーマごとにテレビモニターが設置され、文化人が作家を語り絵を語り、作家が作家を語り、作家が自身を語り、この番組で見出された作家を紹介したりと、映像も交えてのユニークな美術案内になっています。
映像の中の、あの絵、あの顔、あの声、あのアナウンサーと、懐かしさに顔がほころび、「日曜美術館」の果たした役割の大きさを思いました。こんな番組は、やはりNHKならではのものでしょう。