光、暁の花

第52話 露花act.5―another,side story「陽はまた昇る」
父は、父が信じた理由のために、自身に銃殺刑を科したのか?
この問いかけに、雨音がノックのよう窓を叩く。
カーテン透かす街路灯の光が、雫の軌跡を影絵に映す。
流れていく水の音に隣の吐息は優しくて、ほろ苦く甘いコーヒーと柑橘が交わる香は温かい。
この安らかな空間に零した自分の問いかけが、ゆっくり静謐の底で答えを待っている。
14年前の春の夜、一発だけ響いた銃弾の聲。
あの聲に斃れた父の想いを「殉職」の意味を、どうか答えてほしい。
どうか聴かせて?あなたの想いと考えを。
どうか教えて?あなたは何を見つめているのか?
この自分を背負い共に生きることを望むなら、あなたの想いを聴かせてほしい。
「お父さんが信じた理由、か…」
綺麗な低い声が呟いて、ひとくちコーヒーを啜りこむ。
ちいさく吐息こぼれて苦く甘い香が燻らされる、長い指の掌がコーヒーのボトルを握りこむ。
ゆっくり振向いた切長い目は周太を見つめて、穏やかに英二は微笑んだ。
「もし本当に自殺幇助だとしたら、お父さんは嘘を吐きたかったんじゃないかな」
「…嘘を?」
どういう意味だろう?
問いかけに見つめた切長い目は、真直ぐ周太を見つめて微笑んだ。
「あの夜、お父さんが撃たれる事は、誰にも予想できない事だったろ?ラーメン屋のおやじさんだって、殺すつもりは無かったんだ。
それは、お父さんだって同じだ。あの夜に自分が撃たれる、そんな予想なんて出来る訳が無い。全てが偶然の廻り合せだったんだよ。
だから14年間、お父さんが『自分から撃たれた』なんて考えつかなかったんだろ?この『考えつかない』ことに嘘への願いがあると想う、」
父の『嘘』への願い。
父が「殉職」に願ったことを、英二は教えてくれる?
「…死ぬこと以外に、お父さんが願ったことがあるの?…銃殺されること以外に、」
つぶやくよう問いかけが、自分の唇からこぼれだす。
いま英二の言葉を聴こうと思うのに、こぼれだした想いは止まらず溢れだした。
「英二?もう、知っているんでしょう?お父さんが何をしていたか…SATの狙撃手で…人を殺したこと気づいているんでしょう?」
特殊急襲部隊 “Special Assault Team” 通称SAT、そこに所属する合法殺人の狙撃手。
これが父の任務だった、それを英二は知っているはず。
このことへ周太は静かに口を開いた。
「英二、初任教養のとき言ったよね?宿直室で、立て籠もり事件の前だよ、『SITかSATに行くんだろ?』って俺に言ったよね?
あれ、お父さんの任務を俺が追いかけてるの知ってたから言ったんでしょ?お父さんがSATだったこと気付いてるから言ったんでしょ?
そんなこと確かに警察官なら誰でも解かると思う、射撃のオリンピック選手で警察に所属したら、狙撃手に指名されない筈がないから。
でも本当に狙撃したのかなんて解からないよね、当番制だから…でも英二は気づいているんでしょ、お父さんは殺したんだろうって、」
告げていく声は、淡々と英二に問いかける。
問いかけ見つめる切長い目は視線を合わせたまま、周太の姿を映してくれる。
美しい瞳の鏡に自分を見つめて、周太は言葉を続けた。
「俺ね、お父さんは殺していない可能性が高いって本当は思ってた…お父さんの在任期間には、何度かSATの出動はあったよ?
でも当番から外れていたら狙撃することは無いから…お父さんは優しいから、人殺しなんて無理だって思ってた。きっと違うって。
だけど本が壊されてるでしょう?なぜ、あの部分のページが抜かれているかは解からないけど、でも、理由があるって事は解かるよね?
お父さん、すごく本を大切にする人だったから。それなのに本を壊すなんて、よっぽどの理由があるってしか想えないんだ、だから…」
掌に握りしめるホットレモンのボトルが、温かい。
この懐かしい柑橘の香に家の庭を想う、あの夏蜜柑の木を父は大切にしていた。
いつも梢を見あげ微笑んだ横顔が懐かしい、大切な俤の記憶を見つめて周太は微笑んだ。
「あの本はね…たぶん、お祖父さんの本なんだ。お父さんは英文科だったし、出版年もお父さんが生まれる前だから。
だからあの本は、お父さんにとって、自分のお父さんの遺品なんだ。自分の父親から預かった、大切な本だったと想うんだ。
だからね…お父さんは親から与えられた大切なものを、壊したんだよ?壊しても手離せない位に大切な本を、お父さんは壊したんだ、」
あの夏蜜柑の木を愛しむよう、あの本も父は愛しんでいただろう。
あの木は曾祖父が植え、祖父が愛して父に遺した、家伝の菓子を作るための大切な木。
あの木を愛しんだ横顔の記憶を見つめながら「大切なものを壊した」父の気持ちを口にした。
「命も同じでしょう?体も心も、親から与えられたものでしょう?それを自分で壊すことが『自殺』なんだと想う。
だから、お父さんが大切な本を壊したことはね?自分の命を壊す覚悟の符号なのかな、って思うんだ…死んで償う覚悟なのかなって、」
書斎の『Le Fantome de l'Opera』が、なぜ壊されたのか?
この答えの1つが「大切なものを壊す」符号。
自身の父親から与えられ預かった「大切なものを壊す」その最たることは「自ら命を絶つ」ことだろう。
この理由は、吉村医師の語った『春琴抄』に父の想いを重ねて、考えた結論だった。
「お父さんは優しくて正義感が強い人だから、任務だって言われても人殺しなんて嫌だと想う…自分を赦せないと思うんだ。
それを法律で罰せられ無いのなら、自分で自分を裁くと思う。お父さんは人に優しい分だけ、自分に厳しいところがあるから。
だから、お父さんは狙撃されて死ぬことを選んだのかな、って思うんだ…自分が犯した罪の償いの為に、自分を裁いたのかなって、」
告げていく推測に、心は静かに泣いている。
屋上の雨に泣き叫んだ心は今、静かに穏やかな凪を見せていく。
この静穏は「独りじゃない」安らぎのお蔭だ、この温もり嬉しくて周太は小さく微笑んだ。
「狙撃での自殺を見つめるために、大切な本を壊したのかもしれない…あの部分のページを抜いた理由は、まだ解からないけど。
抜かれたのは怪人が出てくるシーンで、残されたページに怪人は居ないから…怪人『Fantome』に、意味があるかもしれないけど、」
いま自分が考える「父の殉職」に潜む真相は、これで全て。
これ以外に英二は何を気付いたのだろう?さっき「嘘を吐きたかった」と言ったのは何だろう?
その疑問に見上げた先、端正な唇はコーヒーに口付け飲干すと、切長い目が周太に微笑んだ。
「そうだな、周太。親に与えられた、大切なものを壊すことで『自殺』を見つめる。そういう意味だって想うと、納得できるな?」
自分の考えを英二は肯定してくれる。
この肯定に微笑んだ周太に、静かな低い声が言ってくれた。
「きっとね、周太?もし自殺だとしても、お父さんは気付かれたくなかったと想うよ。だから『殉職』を借りたんじゃないのかな?」
「…殉職を、借りる?」
どういう意味だろう?
そう見つめた周太に英二は、穏やかに言葉を続けてくれた。
「自殺は、残された人が哀しむのは、亡くなった人が自分より死を選んだと想うからだ。それがお父さんは、嫌だったと想うよ?
だから『自殺じゃない』って嘘を吐きたかったと想う。愛する妻には、愛する息子には、自分が別離を望んだと思われたくないから、」
別離を望んだと思われたくない、だから「自殺じゃない」と嘘を吐きたかった。
この仮定が温もりでふれて心が和らいだ、その隣で綺麗な笑顔がほころんで、穏やかな声が微笑んだ。
「自殺に見せない自殺、これは優しい嘘だ。お父さんは愛する人の時間を捨てたかった訳じゃない、だから優しい嘘を吐きたかったんだ。
本当は愛する家族と離れたくなかった、けれど理由があって亡くなったんだ。だから自殺だと思われたくなくて『殉職』で嘘を吐いたんだよ、」
『優しい嘘』の真実は『愛する家族と離れたくなかった』
これが父の『殉職』の理由だと、愛する人は教えてくれた。
これは父が残した真実とメッセージ、この言葉に記憶がふれてくる。
昨夏の終わり、卒業式の翌朝に母が言ってくれた言葉が、父のメッセージに目を覚ます。
『やさしい嘘なんて、私達には要らないのよ』
あれは英二と結ばれた翌朝だった。
あの夜に生まれた真実を告げてほしいと、優しく促してくれた言葉だった。
あのとき母が言った言葉の意味が、想いが、今、英二の言葉に熱となってこみあげる。
「英二…やさしい嘘、ってね?お母さんも言ったんだ」
こみあげる熱に、言葉がこぼれだす。
隣に並ぶひとを見上げて周太は、今、こみあげる想いを言葉に変えた。
「卒業式の翌朝だよ?俺、お母さんに英二のこと話そうとしたでしょう?あのとき俺にね、お母さんは言ってくれたんだ。
笑って目を見つめて、『やさしい嘘なんて私達には要らないのよ』って、言ってくれたんだ…ね、英二?お母さん知ってるのかな?」
こみあげる想い言葉になって、熱が瞳の奥からあふれだす。
ゆっくり涙あふれる視界に愛する人を見つめて、周太は問いかけた。
「だって『お母さんより先に死なないで』って言ったんだ、お母さん…これってお父さんのことかな、嘘に気付いているのかな?
お父さんの殉職が『やさしい嘘』だって知っているから、だからお母さんは俺に言ってくれたのかな?…俺に願ってくれたのかな?」
問いかけながら今、母の願いと祈りが真実を見せていく。
ようやく気付いていく母の真実に、周太は婚約者へ問いかけた。
「やさしい嘘は要らない、先に死なないでって…自殺なんて絶対にしないで、独り抱えないで一緒に生きてって、お母さん言ってくれたかな?」
あなたは、どう想う?
この問いかけに見つめた涙を、長い指が拭ってくれる。
見つめる切長い目は穏やかに笑んで、綺麗な低い声が応えに微笑んだ。
「うん、お母さんは知っているかもしれないな、聡明な人だから。だから周太に願って、言ってくれたんだと思うよ?お父さんの分も、」
父の分も、言ってくれた?
もし父も母と同じよう願ってくれるなら、どんなに嬉しいだろう。
この言葉に縋りたい想い祈るよう、周太は唯ひとりの相手に訊いた。
「ほんとに?お父さんも俺に、死ぬなって、一緒に生きてって願うの?お父さんみたいな『やさしい嘘』を吐いたらいけないって言ってる?」
「そうだよ周太、死んだらダメだ。嘘もいらない、一緒に生きるんだ、」
即答に微笑んだ切長い目が、深い想いと哀惜を映しだす。
その目が懐かしい俤にそっくりで、周太の瞳から涙こぼれた。
…お父さん?いま、英二の口を借りたの?
そんな想いが心よぎって、隣を見つめてしまう。
この不思議な想い見つめる真中で、懐かしい綺麗な笑顔が花咲いた。
「周太、一緒に生き貫くんだ、」
ただ一言が、温かい。
この温もりに懐かしい聲が記憶から目を覚ます、そして周太に言ってくれた。
「やさしい嘘は俺には要らない。どんな秘密も作らないでほしい、俺を信じて離れないでほしい。苦しい時間も一緒に見つめたい。
約束してほしい、周太。やさしい嘘は吐かないで?何があっても俺と生き貫いて?そして一緒に家に帰ろう、お母さんの所に帰るんだ、」
やさしい嘘も秘密も要らない、信じて離れない。
苦しい時間も共に生きて、生き貫いてて母のもとに帰ろう。
…どうして英二には、解かるの?
この言葉たちを、父から聴きたかった。
その願いを英二は今、父とそっくりの笑顔で告げて、叶えてくれている。
この願い叶える祈りに微笑んで、周太は婚約者に笑いかけた。
「英二…今、言ってくれたことはね。俺が、お父さんに言ってほしかったことだよ?俺、そう言ってほしくて、選んだんだよ?
お父さんと一緒に生きてほしいって、お父さんに言ってほしくて…だから俺、お父さんと同じ道を選んで、今、ここにいるんだ、」
笑いかける視界に、温かい涙の紗がふれていく。
そっと長い指が涙ぬぐって、切長い目が笑ってくれる。そして綺麗な低い声が微笑んだ。
「周太、俺は周太と一緒に生きるために、ここにいる。俺は、生き貫く為に周太と出逢ったんだ、だから赦してほしい。
周太の首に手を掛けた、あの弱い俺を赦してほしい。もう、何があっても一緒に生きることを諦めない、あんな馬鹿な真似はしない。
だから俺を信じてほしい、どんな秘密も、罪だって全て俺が背負うから。だから俺には、やさしい嘘はいらない。ずっと俺と一緒に帰ろう、」
綺麗な低い声は、穏やかなトーンで想い告げてくれる。
この頬こぼれていく雫の向こう、きれいな笑顔の花がデスクライトに照らされる。
この美しい花に「本当に俺で良いの?」と聴く必要はもう無い。この花と懐かしい俤を見つめて、周太は綺麗に笑った。
「やさしい嘘は要らないね?秘密もいらないね…お願い、秘密も一緒に背負って?禁止されたことでも英二には秘密にしないから。
もし離されて逢うことが難しくなっても、お願い、俺に逢いに来て?どんな時も俺と生きて?一緒に家に帰って、お母さんに笑って?」
この願いを英二に叶えてほしい、そして父の願いも一緒に叶えたい。
そう見つめる想いの真中で、笑顔の花は美しい雫ひとつ零した。
「周太、本当に願ってくれる?やさしい嘘は吐かないで、すべて話して、俺と一緒に生きてくれる?」
愛しい俤を映す切長い目が、静かに涙の雫を花咲かす。
その雫が美しくて、愛しくて、周太は涙をキスに拭いとった。
…あたたかい、
キスふれる涙が温かい、この温かな潮に命が優しい。
優しい命の甘さに微笑んで、周太は約束を告げた。
「ん、本当に願うよ?絶対の約束だよ、英二、」
絶対の約束に微笑んで、唯ひとりの相手に笑いかける。
その笑顔へ愛するひとは綺麗に笑って、温かな腕に抱きしめてくれた。
「ありがとう、周太。絶対の約束だよ、俺から離れないで、周太…」
綺麗な瞳から雫こぼして、端正な唇をそっと唇に重ねてくれる。
ふれあう優しいキスは涙と交わされる、ほろ苦い温もりが甘く想いを繋いでいく。
笑顔の花あふれさす雫に「絶対の約束」は結ばれて、ゆるやかに孤独は解かされ、夜に消えていく。
そして希望は産声をあげ、暁へと謳いだす。

暁が、光の目を覚ます。
目覚めていく陽光が、カーテン開いた窓から照らしだす。
あわい光の透かされていく窓ガラスに、夜来の雨は雫ちりばめ名残らせている。
過ぎ去った夜が遺した水の玉は光を映す、そして暁の輝きに彩りだした。
「周太、ほら、窓の雫が光ってるよ、」
きらきら窓を輝かす雫へと、きれいな笑顔が咲いてくれる。
温かい腕に包まれて座るベッドにも、雫の翳は光透かして模様を映す。
いま明けていく夜が残した温もりは、大きなシャツを透かして心ごと温めてくれる。
この温もりくれる眼差しを見つめて、周太は綺麗に笑いかけた。
「きれいだね?…光の花びらみたい、」
「光の花びらか、きれいな言葉だな?こういう周太の言葉、好きだよ、」
好きだよ、そう告げる英二の声が微笑んでくれる。
こんなふう言われたら嬉しくて、満ちる幸せに気恥ずかして、首筋が熱くなっていく。
すこし自分の言葉は変かもしれない?そんな心配と気恥ずかしさとに周太は首傾げた。
「ん…ちょっと俺の言葉って変かなっておもうけど…」
「俺は好きだよ、美代さんや光一も好きって言うだろ?」
綺麗な低い声が言ってくれながら、なめらかな頬寄せてくれる。
ふれあう頬の感触が羞んでしまう、けれど嬉しくて周太は微笑んだ。
「言ってくれるけど…はずかしいな、」
「恥ずかしくないよ、周太、」
やさしいトーンで言いながら、温かな腕が抱きしめてくれる。
凭れさせてくれる胸元にカットソー透かす鼓動が頼もしい、この拍動に命が愛しくなる。
ふれる温もり、鼓動の響き、言葉の硲に聞える吐息、抱き寄せられる力と肌の感触。
どれもが「生きている」と証に温かい。
“周太、一緒に生き貫くんだ、やさしい嘘は俺には要らない”
昨夜に告げてくれた、英二の真実は温かい。
この真実の息吹に温められ眠った夜は、やさしい暁の目覚めを与えてくれた。
そして今も包んで温めてくれる、その幸せ微笑んだ周太に英二は笑いかけた。
「周太、ベランダに出てみる?雨上りの朝は気持いいし、」
綺麗な低い声が提案してくれる。
その薦めに嬉しく微笑んで、周太は素直に頷いた。
「ん、出てみたい、」
「じゃあ周太、これ着て行こうな、」
言いながらカーディガンを着せてくれる、その袖も丈も大きい。
やっぱり英二の服は自分に大きい、いま着ているシャツも膝のすぐ上まで覆ってしまう。
本当に体格の差があるな?そんな想いに、袖から少し覗いた指先に首傾げこんだ。
「英二の服は大きいね、こんなに体が違うんだ…」
やっぱり男だと大きい方がカッコいいと思う。
こんなに違うほど小さい自分が、こんな時すこし恥ずかしくなる。
けれど切長い目は周太の瞳を覗きこんで、幸せそうに笑ってくれた。
「俺の方が大きいと周太のこと包めるから、ちょうど良いな?その方が周太、温かいだろ?」
…ほんとうに、そうだな?
素直に心で頷いてしまう、言われた言葉が温かで。
この大きな懐に自分は包まれて、いつも温められ幸せになれている。
そう思うと自信と幸福感が起きあがって、周太はきれいに微笑んだ。
「そうだね、ちょうどいいね?だから…ずっと温めて?」
「そういうの嬉しいよ、周太、」
嬉しそうに笑って、キスふれてくれる。
ほら、やっぱり自分は小さくて良い、これがちょうど良い?
そんなふう想えることが幸せで嬉しい、嬉しい想い微笑んで周太は窓を開いた。
「…きれい、」
こぼれた言葉どおりの暁が、今、目の前に拓けだす。
明けていく空は、青の世界だった。
あわいブルーから眩しい青、藤色やさしい雲のいろ。
透明な青の色彩みちる空は輝いて、生まれだす太陽が雫に輝いた。
暁の光はまばゆくて、きっと遠い彼方まで透明に見通し、希望を示す。
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第52話 露花act.5―another,side story「陽はまた昇る」
父は、父が信じた理由のために、自身に銃殺刑を科したのか?
この問いかけに、雨音がノックのよう窓を叩く。
カーテン透かす街路灯の光が、雫の軌跡を影絵に映す。
流れていく水の音に隣の吐息は優しくて、ほろ苦く甘いコーヒーと柑橘が交わる香は温かい。
この安らかな空間に零した自分の問いかけが、ゆっくり静謐の底で答えを待っている。
14年前の春の夜、一発だけ響いた銃弾の聲。
あの聲に斃れた父の想いを「殉職」の意味を、どうか答えてほしい。
どうか聴かせて?あなたの想いと考えを。
どうか教えて?あなたは何を見つめているのか?
この自分を背負い共に生きることを望むなら、あなたの想いを聴かせてほしい。
「お父さんが信じた理由、か…」
綺麗な低い声が呟いて、ひとくちコーヒーを啜りこむ。
ちいさく吐息こぼれて苦く甘い香が燻らされる、長い指の掌がコーヒーのボトルを握りこむ。
ゆっくり振向いた切長い目は周太を見つめて、穏やかに英二は微笑んだ。
「もし本当に自殺幇助だとしたら、お父さんは嘘を吐きたかったんじゃないかな」
「…嘘を?」
どういう意味だろう?
問いかけに見つめた切長い目は、真直ぐ周太を見つめて微笑んだ。
「あの夜、お父さんが撃たれる事は、誰にも予想できない事だったろ?ラーメン屋のおやじさんだって、殺すつもりは無かったんだ。
それは、お父さんだって同じだ。あの夜に自分が撃たれる、そんな予想なんて出来る訳が無い。全てが偶然の廻り合せだったんだよ。
だから14年間、お父さんが『自分から撃たれた』なんて考えつかなかったんだろ?この『考えつかない』ことに嘘への願いがあると想う、」
父の『嘘』への願い。
父が「殉職」に願ったことを、英二は教えてくれる?
「…死ぬこと以外に、お父さんが願ったことがあるの?…銃殺されること以外に、」
つぶやくよう問いかけが、自分の唇からこぼれだす。
いま英二の言葉を聴こうと思うのに、こぼれだした想いは止まらず溢れだした。
「英二?もう、知っているんでしょう?お父さんが何をしていたか…SATの狙撃手で…人を殺したこと気づいているんでしょう?」
特殊急襲部隊 “Special Assault Team” 通称SAT、そこに所属する合法殺人の狙撃手。
これが父の任務だった、それを英二は知っているはず。
このことへ周太は静かに口を開いた。
「英二、初任教養のとき言ったよね?宿直室で、立て籠もり事件の前だよ、『SITかSATに行くんだろ?』って俺に言ったよね?
あれ、お父さんの任務を俺が追いかけてるの知ってたから言ったんでしょ?お父さんがSATだったこと気付いてるから言ったんでしょ?
そんなこと確かに警察官なら誰でも解かると思う、射撃のオリンピック選手で警察に所属したら、狙撃手に指名されない筈がないから。
でも本当に狙撃したのかなんて解からないよね、当番制だから…でも英二は気づいているんでしょ、お父さんは殺したんだろうって、」
告げていく声は、淡々と英二に問いかける。
問いかけ見つめる切長い目は視線を合わせたまま、周太の姿を映してくれる。
美しい瞳の鏡に自分を見つめて、周太は言葉を続けた。
「俺ね、お父さんは殺していない可能性が高いって本当は思ってた…お父さんの在任期間には、何度かSATの出動はあったよ?
でも当番から外れていたら狙撃することは無いから…お父さんは優しいから、人殺しなんて無理だって思ってた。きっと違うって。
だけど本が壊されてるでしょう?なぜ、あの部分のページが抜かれているかは解からないけど、でも、理由があるって事は解かるよね?
お父さん、すごく本を大切にする人だったから。それなのに本を壊すなんて、よっぽどの理由があるってしか想えないんだ、だから…」
掌に握りしめるホットレモンのボトルが、温かい。
この懐かしい柑橘の香に家の庭を想う、あの夏蜜柑の木を父は大切にしていた。
いつも梢を見あげ微笑んだ横顔が懐かしい、大切な俤の記憶を見つめて周太は微笑んだ。
「あの本はね…たぶん、お祖父さんの本なんだ。お父さんは英文科だったし、出版年もお父さんが生まれる前だから。
だからあの本は、お父さんにとって、自分のお父さんの遺品なんだ。自分の父親から預かった、大切な本だったと想うんだ。
だからね…お父さんは親から与えられた大切なものを、壊したんだよ?壊しても手離せない位に大切な本を、お父さんは壊したんだ、」
あの夏蜜柑の木を愛しむよう、あの本も父は愛しんでいただろう。
あの木は曾祖父が植え、祖父が愛して父に遺した、家伝の菓子を作るための大切な木。
あの木を愛しんだ横顔の記憶を見つめながら「大切なものを壊した」父の気持ちを口にした。
「命も同じでしょう?体も心も、親から与えられたものでしょう?それを自分で壊すことが『自殺』なんだと想う。
だから、お父さんが大切な本を壊したことはね?自分の命を壊す覚悟の符号なのかな、って思うんだ…死んで償う覚悟なのかなって、」
書斎の『Le Fantome de l'Opera』が、なぜ壊されたのか?
この答えの1つが「大切なものを壊す」符号。
自身の父親から与えられ預かった「大切なものを壊す」その最たることは「自ら命を絶つ」ことだろう。
この理由は、吉村医師の語った『春琴抄』に父の想いを重ねて、考えた結論だった。
「お父さんは優しくて正義感が強い人だから、任務だって言われても人殺しなんて嫌だと想う…自分を赦せないと思うんだ。
それを法律で罰せられ無いのなら、自分で自分を裁くと思う。お父さんは人に優しい分だけ、自分に厳しいところがあるから。
だから、お父さんは狙撃されて死ぬことを選んだのかな、って思うんだ…自分が犯した罪の償いの為に、自分を裁いたのかなって、」
告げていく推測に、心は静かに泣いている。
屋上の雨に泣き叫んだ心は今、静かに穏やかな凪を見せていく。
この静穏は「独りじゃない」安らぎのお蔭だ、この温もり嬉しくて周太は小さく微笑んだ。
「狙撃での自殺を見つめるために、大切な本を壊したのかもしれない…あの部分のページを抜いた理由は、まだ解からないけど。
抜かれたのは怪人が出てくるシーンで、残されたページに怪人は居ないから…怪人『Fantome』に、意味があるかもしれないけど、」
いま自分が考える「父の殉職」に潜む真相は、これで全て。
これ以外に英二は何を気付いたのだろう?さっき「嘘を吐きたかった」と言ったのは何だろう?
その疑問に見上げた先、端正な唇はコーヒーに口付け飲干すと、切長い目が周太に微笑んだ。
「そうだな、周太。親に与えられた、大切なものを壊すことで『自殺』を見つめる。そういう意味だって想うと、納得できるな?」
自分の考えを英二は肯定してくれる。
この肯定に微笑んだ周太に、静かな低い声が言ってくれた。
「きっとね、周太?もし自殺だとしても、お父さんは気付かれたくなかったと想うよ。だから『殉職』を借りたんじゃないのかな?」
「…殉職を、借りる?」
どういう意味だろう?
そう見つめた周太に英二は、穏やかに言葉を続けてくれた。
「自殺は、残された人が哀しむのは、亡くなった人が自分より死を選んだと想うからだ。それがお父さんは、嫌だったと想うよ?
だから『自殺じゃない』って嘘を吐きたかったと想う。愛する妻には、愛する息子には、自分が別離を望んだと思われたくないから、」
別離を望んだと思われたくない、だから「自殺じゃない」と嘘を吐きたかった。
この仮定が温もりでふれて心が和らいだ、その隣で綺麗な笑顔がほころんで、穏やかな声が微笑んだ。
「自殺に見せない自殺、これは優しい嘘だ。お父さんは愛する人の時間を捨てたかった訳じゃない、だから優しい嘘を吐きたかったんだ。
本当は愛する家族と離れたくなかった、けれど理由があって亡くなったんだ。だから自殺だと思われたくなくて『殉職』で嘘を吐いたんだよ、」
『優しい嘘』の真実は『愛する家族と離れたくなかった』
これが父の『殉職』の理由だと、愛する人は教えてくれた。
これは父が残した真実とメッセージ、この言葉に記憶がふれてくる。
昨夏の終わり、卒業式の翌朝に母が言ってくれた言葉が、父のメッセージに目を覚ます。
『やさしい嘘なんて、私達には要らないのよ』
あれは英二と結ばれた翌朝だった。
あの夜に生まれた真実を告げてほしいと、優しく促してくれた言葉だった。
あのとき母が言った言葉の意味が、想いが、今、英二の言葉に熱となってこみあげる。
「英二…やさしい嘘、ってね?お母さんも言ったんだ」
こみあげる熱に、言葉がこぼれだす。
隣に並ぶひとを見上げて周太は、今、こみあげる想いを言葉に変えた。
「卒業式の翌朝だよ?俺、お母さんに英二のこと話そうとしたでしょう?あのとき俺にね、お母さんは言ってくれたんだ。
笑って目を見つめて、『やさしい嘘なんて私達には要らないのよ』って、言ってくれたんだ…ね、英二?お母さん知ってるのかな?」
こみあげる想い言葉になって、熱が瞳の奥からあふれだす。
ゆっくり涙あふれる視界に愛する人を見つめて、周太は問いかけた。
「だって『お母さんより先に死なないで』って言ったんだ、お母さん…これってお父さんのことかな、嘘に気付いているのかな?
お父さんの殉職が『やさしい嘘』だって知っているから、だからお母さんは俺に言ってくれたのかな?…俺に願ってくれたのかな?」
問いかけながら今、母の願いと祈りが真実を見せていく。
ようやく気付いていく母の真実に、周太は婚約者へ問いかけた。
「やさしい嘘は要らない、先に死なないでって…自殺なんて絶対にしないで、独り抱えないで一緒に生きてって、お母さん言ってくれたかな?」
あなたは、どう想う?
この問いかけに見つめた涙を、長い指が拭ってくれる。
見つめる切長い目は穏やかに笑んで、綺麗な低い声が応えに微笑んだ。
「うん、お母さんは知っているかもしれないな、聡明な人だから。だから周太に願って、言ってくれたんだと思うよ?お父さんの分も、」
父の分も、言ってくれた?
もし父も母と同じよう願ってくれるなら、どんなに嬉しいだろう。
この言葉に縋りたい想い祈るよう、周太は唯ひとりの相手に訊いた。
「ほんとに?お父さんも俺に、死ぬなって、一緒に生きてって願うの?お父さんみたいな『やさしい嘘』を吐いたらいけないって言ってる?」
「そうだよ周太、死んだらダメだ。嘘もいらない、一緒に生きるんだ、」
即答に微笑んだ切長い目が、深い想いと哀惜を映しだす。
その目が懐かしい俤にそっくりで、周太の瞳から涙こぼれた。
…お父さん?いま、英二の口を借りたの?
そんな想いが心よぎって、隣を見つめてしまう。
この不思議な想い見つめる真中で、懐かしい綺麗な笑顔が花咲いた。
「周太、一緒に生き貫くんだ、」
ただ一言が、温かい。
この温もりに懐かしい聲が記憶から目を覚ます、そして周太に言ってくれた。
「やさしい嘘は俺には要らない。どんな秘密も作らないでほしい、俺を信じて離れないでほしい。苦しい時間も一緒に見つめたい。
約束してほしい、周太。やさしい嘘は吐かないで?何があっても俺と生き貫いて?そして一緒に家に帰ろう、お母さんの所に帰るんだ、」
やさしい嘘も秘密も要らない、信じて離れない。
苦しい時間も共に生きて、生き貫いてて母のもとに帰ろう。
…どうして英二には、解かるの?
この言葉たちを、父から聴きたかった。
その願いを英二は今、父とそっくりの笑顔で告げて、叶えてくれている。
この願い叶える祈りに微笑んで、周太は婚約者に笑いかけた。
「英二…今、言ってくれたことはね。俺が、お父さんに言ってほしかったことだよ?俺、そう言ってほしくて、選んだんだよ?
お父さんと一緒に生きてほしいって、お父さんに言ってほしくて…だから俺、お父さんと同じ道を選んで、今、ここにいるんだ、」
笑いかける視界に、温かい涙の紗がふれていく。
そっと長い指が涙ぬぐって、切長い目が笑ってくれる。そして綺麗な低い声が微笑んだ。
「周太、俺は周太と一緒に生きるために、ここにいる。俺は、生き貫く為に周太と出逢ったんだ、だから赦してほしい。
周太の首に手を掛けた、あの弱い俺を赦してほしい。もう、何があっても一緒に生きることを諦めない、あんな馬鹿な真似はしない。
だから俺を信じてほしい、どんな秘密も、罪だって全て俺が背負うから。だから俺には、やさしい嘘はいらない。ずっと俺と一緒に帰ろう、」
綺麗な低い声は、穏やかなトーンで想い告げてくれる。
この頬こぼれていく雫の向こう、きれいな笑顔の花がデスクライトに照らされる。
この美しい花に「本当に俺で良いの?」と聴く必要はもう無い。この花と懐かしい俤を見つめて、周太は綺麗に笑った。
「やさしい嘘は要らないね?秘密もいらないね…お願い、秘密も一緒に背負って?禁止されたことでも英二には秘密にしないから。
もし離されて逢うことが難しくなっても、お願い、俺に逢いに来て?どんな時も俺と生きて?一緒に家に帰って、お母さんに笑って?」
この願いを英二に叶えてほしい、そして父の願いも一緒に叶えたい。
そう見つめる想いの真中で、笑顔の花は美しい雫ひとつ零した。
「周太、本当に願ってくれる?やさしい嘘は吐かないで、すべて話して、俺と一緒に生きてくれる?」
愛しい俤を映す切長い目が、静かに涙の雫を花咲かす。
その雫が美しくて、愛しくて、周太は涙をキスに拭いとった。
…あたたかい、
キスふれる涙が温かい、この温かな潮に命が優しい。
優しい命の甘さに微笑んで、周太は約束を告げた。
「ん、本当に願うよ?絶対の約束だよ、英二、」
絶対の約束に微笑んで、唯ひとりの相手に笑いかける。
その笑顔へ愛するひとは綺麗に笑って、温かな腕に抱きしめてくれた。
「ありがとう、周太。絶対の約束だよ、俺から離れないで、周太…」
綺麗な瞳から雫こぼして、端正な唇をそっと唇に重ねてくれる。
ふれあう優しいキスは涙と交わされる、ほろ苦い温もりが甘く想いを繋いでいく。
笑顔の花あふれさす雫に「絶対の約束」は結ばれて、ゆるやかに孤独は解かされ、夜に消えていく。
そして希望は産声をあげ、暁へと謳いだす。

暁が、光の目を覚ます。
目覚めていく陽光が、カーテン開いた窓から照らしだす。
あわい光の透かされていく窓ガラスに、夜来の雨は雫ちりばめ名残らせている。
過ぎ去った夜が遺した水の玉は光を映す、そして暁の輝きに彩りだした。
「周太、ほら、窓の雫が光ってるよ、」
きらきら窓を輝かす雫へと、きれいな笑顔が咲いてくれる。
温かい腕に包まれて座るベッドにも、雫の翳は光透かして模様を映す。
いま明けていく夜が残した温もりは、大きなシャツを透かして心ごと温めてくれる。
この温もりくれる眼差しを見つめて、周太は綺麗に笑いかけた。
「きれいだね?…光の花びらみたい、」
「光の花びらか、きれいな言葉だな?こういう周太の言葉、好きだよ、」
好きだよ、そう告げる英二の声が微笑んでくれる。
こんなふう言われたら嬉しくて、満ちる幸せに気恥ずかして、首筋が熱くなっていく。
すこし自分の言葉は変かもしれない?そんな心配と気恥ずかしさとに周太は首傾げた。
「ん…ちょっと俺の言葉って変かなっておもうけど…」
「俺は好きだよ、美代さんや光一も好きって言うだろ?」
綺麗な低い声が言ってくれながら、なめらかな頬寄せてくれる。
ふれあう頬の感触が羞んでしまう、けれど嬉しくて周太は微笑んだ。
「言ってくれるけど…はずかしいな、」
「恥ずかしくないよ、周太、」
やさしいトーンで言いながら、温かな腕が抱きしめてくれる。
凭れさせてくれる胸元にカットソー透かす鼓動が頼もしい、この拍動に命が愛しくなる。
ふれる温もり、鼓動の響き、言葉の硲に聞える吐息、抱き寄せられる力と肌の感触。
どれもが「生きている」と証に温かい。
“周太、一緒に生き貫くんだ、やさしい嘘は俺には要らない”
昨夜に告げてくれた、英二の真実は温かい。
この真実の息吹に温められ眠った夜は、やさしい暁の目覚めを与えてくれた。
そして今も包んで温めてくれる、その幸せ微笑んだ周太に英二は笑いかけた。
「周太、ベランダに出てみる?雨上りの朝は気持いいし、」
綺麗な低い声が提案してくれる。
その薦めに嬉しく微笑んで、周太は素直に頷いた。
「ん、出てみたい、」
「じゃあ周太、これ着て行こうな、」
言いながらカーディガンを着せてくれる、その袖も丈も大きい。
やっぱり英二の服は自分に大きい、いま着ているシャツも膝のすぐ上まで覆ってしまう。
本当に体格の差があるな?そんな想いに、袖から少し覗いた指先に首傾げこんだ。
「英二の服は大きいね、こんなに体が違うんだ…」
やっぱり男だと大きい方がカッコいいと思う。
こんなに違うほど小さい自分が、こんな時すこし恥ずかしくなる。
けれど切長い目は周太の瞳を覗きこんで、幸せそうに笑ってくれた。
「俺の方が大きいと周太のこと包めるから、ちょうど良いな?その方が周太、温かいだろ?」
…ほんとうに、そうだな?
素直に心で頷いてしまう、言われた言葉が温かで。
この大きな懐に自分は包まれて、いつも温められ幸せになれている。
そう思うと自信と幸福感が起きあがって、周太はきれいに微笑んだ。
「そうだね、ちょうどいいね?だから…ずっと温めて?」
「そういうの嬉しいよ、周太、」
嬉しそうに笑って、キスふれてくれる。
ほら、やっぱり自分は小さくて良い、これがちょうど良い?
そんなふう想えることが幸せで嬉しい、嬉しい想い微笑んで周太は窓を開いた。
「…きれい、」
こぼれた言葉どおりの暁が、今、目の前に拓けだす。
明けていく空は、青の世界だった。
あわいブルーから眩しい青、藤色やさしい雲のいろ。
透明な青の色彩みちる空は輝いて、生まれだす太陽が雫に輝いた。
暁の光はまばゆくて、きっと遠い彼方まで透明に見通し、希望を示す。
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