longing 憧憬
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第74話 傍証act.7-side story「陽はまた昇る」
風が鳴る、
その音すら座敷は聞えない、ただ梢ゆれる陰翳だけが畳に瞬く。
いま都心の一室に坐っている、それなのに静かすぎる空気は錯覚を起こす。
この静寂を蒔田は好んで通うのだろう、そんな納得の向こう篤実な視線が英二を見た。
「部外者とは言えないと言ったな、それは宮田次長検事が何か関わっていたということかい?」
やっぱり祖父の名前が出てきた。
もう一人の祖父も登場するだろうか、しないだろうか?
そんな思案と微笑んで真直ぐ上司を見、正直に答えた。
「いいえ、」
「そうだろうな、あれは検察庁には関わりない事だ、」
否定した向こう浅黒い顔がため息吐く。
ワイシャツ袖捲りした腕を組みかけて、けれど手だけ組ますと蒔田は問いかけた。
「それなら宮田くんのバックボーンは何だい?観碕さん絡みで部外者と言えないのなら、何か警察庁と繋がりがあるのだろう?」
訊きながら見つめてくる瞳は思案する。
どんな係累があるのだろう?そんな視線に英二は微笑んだ。
「蒔田さん、なぜですか?」
「うん?」
短く訊き返してくれる眼差しは真直ぐ見つめてくる。
なにも後ろ暗さが無い、そう見とれる瞳へストレートに尋ねた。
「なぜ蒔田さんが馨さんのことを追うんですか?」
なぜ蒔田が馨の殉職事件を追い続けるのか?
この理由は時経つごと納得いかない、その疑問を言葉にした。
「馨さんとは同期でも別の教場で、初任教養でも初総でも話す機会は少なかったそうですね?七機でも別チームで1ヶ月しか同じ隊舎に居ません、
あまり親しいと言えません、けれどなぜ、山の前線を捨ててクライミングも自由に出来ない道を選んでまで、馨さんの殉職を調べているんですか?」
蒔田が山から離れても馨の殉職に拘り続ける、その理由が見えない。
この不明瞭を示したくて英二は続けた。
「蒔田さん、たとえば安本さんが馨さんの殉職に拘る気持ちは解りますよね?あのとき御苑の警備応援を安本さんが馨さんに依頼した、
そして馨さん自身が園遊会の警備を担当して、その後に起きた発砲事件で馨さんは殉職しました。その現場を目撃したのは安本さんです、
犯人を逮捕したのも安本さんです、犯人を更生させて馨さんに謝罪させたのも安本さんです、そんな安本さんがあの事件に拘ることは当然です、」
あの日、新宿御苑で開かれた花見の園遊会は警備人員が足りなかった。
だから安本は親しい同期で警備部の幹部だった馨に応援を頼んで、それが馨の殉職を誘発してしまった。
そんな安本が馨の殉職事件から離れられない心情は解かる、生涯懸けて事件を調べることも当然だろう。
「誰に訊いても、馨さんが警察内で一番親しかったのは安本さんです。親しかったからこそ安本さんはあのとき馨さんに応援を頼みました、
それが馨さんを事件に巻き込んで死なせたのだと安本さんはご自身を責めています、だからこそ出世を諦めて犯人の更生までつきあったんです、」
安本は馨と同じ教場で警察学校時代から親しい。
卒業配置も同じ新宿署、その後も第七機動隊銃器対策レンジャーまで二人は一緒だった。
これだけ時間を共有すれば親しいことも当然だろう、その通りに誰に訊いても安本は馨と親しかった。
―美幸さんも安本さんのことは憶えている、結婚式も出席していたって教えてくれた、
馨は第六機動隊に異動しSATの前身・特殊武装警察SAPに極秘配属された後も安本だけは頻繁に会っている。
だから馨の妻にも名前を憶えられていた、けれど勿論のこと安本は馨の所属がSAPだとは知らされていない。
それでも親しい友人として最期まで一番交流があった、だからこそ安本は生涯の自責を負ってしまった。
けれど蒔田にはそれほどの理由も事実関係も無い。
「でも蒔田さんには安本さんのような理由はありません、事件当時も蒔田さんは白丸駐在の所長で馨さんとの接点は少なかったはずです。
4月に御岳でお会いしたとき蒔田さんは、馨さんの殉職で警察官から人間の尊厳を否定するような体制が赦せなくなったと話してくれました。
警察組織自体が不幸の温床になることを防げるだけの発言権を掴みたいから出世したと仰いました、でも、この理由だけでは納得できません、」
蒔田は正義感も強い、それは後藤副隊長からも聴いている。
あの後藤が証言するなら信じていい、けれど解らない理由の原点を篤実な瞳が笑ってくれた。
「憧れだからだよ、大学時代からのな?」
憧れ、
そんな言葉は意外で見つめてしまう。
どういう意味で蒔田は言っているのだろう、その思案に懐旧のトーン微笑んだ。
「同じ学生クライマーとして湯原は俺の憧れだった、俺の一方的な片想いだけどな。だから一緒に登ろうと言えなかったことを後悔するんだ、今も、」
蒔田は大学時代から馨を知っていた?
その言葉に探している欠片を見て英二は問いかけた。
「学生時代の馨さんを知っているんですか?」
「知っているよ、湯原は東大の山岳部に所属していたからな、山つながりだ、」
応えてくれる瞳がふっと和らがす。
真直ぐな明眸はいつも通り穏やかで、その篤実な声は話しだした。
「高校の先輩でな、東大に進んで北大の教授になった人がいるんだが、その人が湯原と同じ山部で北海道にも一緒に登りに来たんだ。
大学1年の冬だ、アイスクライミングの自主トレに北大の仲間と層雲峡に行ったら偶然、湯原と先輩が登っていてな、綺麗な登り方だった、」
学生時代に蒔田は馨のクライミングを見ていた。
そこにある蒔田の記憶を聴きたい、その想いに穏かなトーンが明るんだ。
「それで先輩が帰省したとき誰と登っていたのか訊いてな、湯原馨って名前とオヤジさんが仏文の教授で本人も首席だって教えてくれた。
その翌年に湯原は一年坊主とザイル組んで記録を作り始めたんだよ、公式レコードじゃなかったが先輩からいつも聴いて俺は知ってたんだ、」
いま言われている「一年坊主」は田嶋紀之の事だろう。
まだ今夏に見たばかりの明眸と笑顔と泣顔はあざやかで、その俤を見るむこう蒔田は続けた。
「聴くたびに凄い男がいるって憧れたよ、でも学者志望だって聴いていたから警察学校で同姓同名を見た時、本当に俺は驚いたんだ。
あの湯原馨がここにいるはずが無い、そう思って周りにさり気なく訊いて回ったがな、湯原の出身大学を知っている者は誰もいなかったんだ、」
馨の出身大学を知る者は、誰もいなかった。
こんなこと「異様」だろう、普通なら出身地と合せて話題になる。
きっと蒔田なら知らないでは済まさない、そう推測するまま静かな声が言った。
「どこかの国立大で英文学を勉強したらしい事までしか皆知らん、でもザイルワークが巧い事と英文学の事だけで俺は充分だと思った。
だけど不思議で仕方なかったんだ、なぜ学者志望の東大生が警視庁でノンキャリアなのか?異様だと思って、でも本人には訊けなかった。
湯原は大学4年で父親の湯原博士を亡くしている、そのことは俺も新聞で知っていたからな、父親の事情から隠しているのかと思ったんだ、」
安本も馨の出身大学は知らない、事情があるのだと敢えて訊かないでいた。
おそらく他の同期達も同じ想いでいたのだろう、そんな過去の時間に蒔田は微笑んだ。
「そのまま卒業して卒配の奥多摩交番で何度か話す機会があったよ、湯原はプライベートで奥多摩によく登りに来ていたからな。
でも多くは話せなかった、それから七機で再会して、すぐに湯原は消えた。そして殉職して、あの通夜の昼間に周太くんと出会ったんだ、」
周太、
いま声にされた名前に鼓動そっと響いてしまう。
この名前のために自分は今ここで座っている、その想いに鍵の記憶が語られた。
「周太くんに、お父さんはザイルパートナーがいなかったって言われて気づいたんだよ。湯原には田嶋っていう凄腕のパートナーがいた、
それなのに息子の周太くんが知らないのは変だと思った、そして通夜にも葬儀にも田嶋という男は来なかった、東大関係者が誰も来ない。
だから湯原は東大にいたこと隠しているんじゃないかと思ってな、唯ひとり東大出身者で参列したキャリア官僚の存在が異様だと気づいた、」
ほら、やっぱり蒔田は核心を掴みかけている。
それくらいの洞察力と発想がなければノンキャリアから官僚になどなれない。
けれど鋭利な視線ひとつ見せない眼差しは篤実なまま続けた。
「なぜ湯原が東大出身なことを隠しているのか?奥さんにすら言っていない様子は異様だ、だから東大にヒントがあると思ったよ、
それで北大に勤めている先輩にも湯原の事を訊いたんだ、そうしたら先輩は新聞のニュース記事で見ただけで同一人物と思っていなかった、
先輩も驚いてな、そして湯原が留学を諦めた経緯とザイルパートナーの男とすら連絡を絶った事を教えてくれたんだ、全てが異様だと俺は思う、」
全てが異様だ、
そう結論を告げて溜息ひとつ、食膳に箸つける。
蓮根のはさみ揚げ口にゆっくり噛みしめて、呑みこむと大らかな瞳が笑った。
「湯原が東大にいたことも留学を辞退したことも、田嶋という男のことも、宮田くんは知っているんだろう?」
矛先いきなり向けてくれたな?
そんな感想と穏やかに英二は笑いかけた。
「なぜそう想うんですか?」
「周太くんが東大の研究生になっているからな、その周辺を宮田くんが調べないはずないだろう?」
当り前だ、そう告げて大らかな笑顔こちら見てくれる。
4月と変わらない実直な瞳ただ真直ぐ見つめさす、その眼差しに微笑んだ。
「蒔田さんは俺のことを調べていますね?そのために俺を七機へ異動させたのではありませんか、目の届きやすい場所に、」
(to be continued)
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第74話 傍証act.7-side story「陽はまた昇る」
風が鳴る、
その音すら座敷は聞えない、ただ梢ゆれる陰翳だけが畳に瞬く。
いま都心の一室に坐っている、それなのに静かすぎる空気は錯覚を起こす。
この静寂を蒔田は好んで通うのだろう、そんな納得の向こう篤実な視線が英二を見た。
「部外者とは言えないと言ったな、それは宮田次長検事が何か関わっていたということかい?」
やっぱり祖父の名前が出てきた。
もう一人の祖父も登場するだろうか、しないだろうか?
そんな思案と微笑んで真直ぐ上司を見、正直に答えた。
「いいえ、」
「そうだろうな、あれは検察庁には関わりない事だ、」
否定した向こう浅黒い顔がため息吐く。
ワイシャツ袖捲りした腕を組みかけて、けれど手だけ組ますと蒔田は問いかけた。
「それなら宮田くんのバックボーンは何だい?観碕さん絡みで部外者と言えないのなら、何か警察庁と繋がりがあるのだろう?」
訊きながら見つめてくる瞳は思案する。
どんな係累があるのだろう?そんな視線に英二は微笑んだ。
「蒔田さん、なぜですか?」
「うん?」
短く訊き返してくれる眼差しは真直ぐ見つめてくる。
なにも後ろ暗さが無い、そう見とれる瞳へストレートに尋ねた。
「なぜ蒔田さんが馨さんのことを追うんですか?」
なぜ蒔田が馨の殉職事件を追い続けるのか?
この理由は時経つごと納得いかない、その疑問を言葉にした。
「馨さんとは同期でも別の教場で、初任教養でも初総でも話す機会は少なかったそうですね?七機でも別チームで1ヶ月しか同じ隊舎に居ません、
あまり親しいと言えません、けれどなぜ、山の前線を捨ててクライミングも自由に出来ない道を選んでまで、馨さんの殉職を調べているんですか?」
蒔田が山から離れても馨の殉職に拘り続ける、その理由が見えない。
この不明瞭を示したくて英二は続けた。
「蒔田さん、たとえば安本さんが馨さんの殉職に拘る気持ちは解りますよね?あのとき御苑の警備応援を安本さんが馨さんに依頼した、
そして馨さん自身が園遊会の警備を担当して、その後に起きた発砲事件で馨さんは殉職しました。その現場を目撃したのは安本さんです、
犯人を逮捕したのも安本さんです、犯人を更生させて馨さんに謝罪させたのも安本さんです、そんな安本さんがあの事件に拘ることは当然です、」
あの日、新宿御苑で開かれた花見の園遊会は警備人員が足りなかった。
だから安本は親しい同期で警備部の幹部だった馨に応援を頼んで、それが馨の殉職を誘発してしまった。
そんな安本が馨の殉職事件から離れられない心情は解かる、生涯懸けて事件を調べることも当然だろう。
「誰に訊いても、馨さんが警察内で一番親しかったのは安本さんです。親しかったからこそ安本さんはあのとき馨さんに応援を頼みました、
それが馨さんを事件に巻き込んで死なせたのだと安本さんはご自身を責めています、だからこそ出世を諦めて犯人の更生までつきあったんです、」
安本は馨と同じ教場で警察学校時代から親しい。
卒業配置も同じ新宿署、その後も第七機動隊銃器対策レンジャーまで二人は一緒だった。
これだけ時間を共有すれば親しいことも当然だろう、その通りに誰に訊いても安本は馨と親しかった。
―美幸さんも安本さんのことは憶えている、結婚式も出席していたって教えてくれた、
馨は第六機動隊に異動しSATの前身・特殊武装警察SAPに極秘配属された後も安本だけは頻繁に会っている。
だから馨の妻にも名前を憶えられていた、けれど勿論のこと安本は馨の所属がSAPだとは知らされていない。
それでも親しい友人として最期まで一番交流があった、だからこそ安本は生涯の自責を負ってしまった。
けれど蒔田にはそれほどの理由も事実関係も無い。
「でも蒔田さんには安本さんのような理由はありません、事件当時も蒔田さんは白丸駐在の所長で馨さんとの接点は少なかったはずです。
4月に御岳でお会いしたとき蒔田さんは、馨さんの殉職で警察官から人間の尊厳を否定するような体制が赦せなくなったと話してくれました。
警察組織自体が不幸の温床になることを防げるだけの発言権を掴みたいから出世したと仰いました、でも、この理由だけでは納得できません、」
蒔田は正義感も強い、それは後藤副隊長からも聴いている。
あの後藤が証言するなら信じていい、けれど解らない理由の原点を篤実な瞳が笑ってくれた。
「憧れだからだよ、大学時代からのな?」
憧れ、
そんな言葉は意外で見つめてしまう。
どういう意味で蒔田は言っているのだろう、その思案に懐旧のトーン微笑んだ。
「同じ学生クライマーとして湯原は俺の憧れだった、俺の一方的な片想いだけどな。だから一緒に登ろうと言えなかったことを後悔するんだ、今も、」
蒔田は大学時代から馨を知っていた?
その言葉に探している欠片を見て英二は問いかけた。
「学生時代の馨さんを知っているんですか?」
「知っているよ、湯原は東大の山岳部に所属していたからな、山つながりだ、」
応えてくれる瞳がふっと和らがす。
真直ぐな明眸はいつも通り穏やかで、その篤実な声は話しだした。
「高校の先輩でな、東大に進んで北大の教授になった人がいるんだが、その人が湯原と同じ山部で北海道にも一緒に登りに来たんだ。
大学1年の冬だ、アイスクライミングの自主トレに北大の仲間と層雲峡に行ったら偶然、湯原と先輩が登っていてな、綺麗な登り方だった、」
学生時代に蒔田は馨のクライミングを見ていた。
そこにある蒔田の記憶を聴きたい、その想いに穏かなトーンが明るんだ。
「それで先輩が帰省したとき誰と登っていたのか訊いてな、湯原馨って名前とオヤジさんが仏文の教授で本人も首席だって教えてくれた。
その翌年に湯原は一年坊主とザイル組んで記録を作り始めたんだよ、公式レコードじゃなかったが先輩からいつも聴いて俺は知ってたんだ、」
いま言われている「一年坊主」は田嶋紀之の事だろう。
まだ今夏に見たばかりの明眸と笑顔と泣顔はあざやかで、その俤を見るむこう蒔田は続けた。
「聴くたびに凄い男がいるって憧れたよ、でも学者志望だって聴いていたから警察学校で同姓同名を見た時、本当に俺は驚いたんだ。
あの湯原馨がここにいるはずが無い、そう思って周りにさり気なく訊いて回ったがな、湯原の出身大学を知っている者は誰もいなかったんだ、」
馨の出身大学を知る者は、誰もいなかった。
こんなこと「異様」だろう、普通なら出身地と合せて話題になる。
きっと蒔田なら知らないでは済まさない、そう推測するまま静かな声が言った。
「どこかの国立大で英文学を勉強したらしい事までしか皆知らん、でもザイルワークが巧い事と英文学の事だけで俺は充分だと思った。
だけど不思議で仕方なかったんだ、なぜ学者志望の東大生が警視庁でノンキャリアなのか?異様だと思って、でも本人には訊けなかった。
湯原は大学4年で父親の湯原博士を亡くしている、そのことは俺も新聞で知っていたからな、父親の事情から隠しているのかと思ったんだ、」
安本も馨の出身大学は知らない、事情があるのだと敢えて訊かないでいた。
おそらく他の同期達も同じ想いでいたのだろう、そんな過去の時間に蒔田は微笑んだ。
「そのまま卒業して卒配の奥多摩交番で何度か話す機会があったよ、湯原はプライベートで奥多摩によく登りに来ていたからな。
でも多くは話せなかった、それから七機で再会して、すぐに湯原は消えた。そして殉職して、あの通夜の昼間に周太くんと出会ったんだ、」
周太、
いま声にされた名前に鼓動そっと響いてしまう。
この名前のために自分は今ここで座っている、その想いに鍵の記憶が語られた。
「周太くんに、お父さんはザイルパートナーがいなかったって言われて気づいたんだよ。湯原には田嶋っていう凄腕のパートナーがいた、
それなのに息子の周太くんが知らないのは変だと思った、そして通夜にも葬儀にも田嶋という男は来なかった、東大関係者が誰も来ない。
だから湯原は東大にいたこと隠しているんじゃないかと思ってな、唯ひとり東大出身者で参列したキャリア官僚の存在が異様だと気づいた、」
ほら、やっぱり蒔田は核心を掴みかけている。
それくらいの洞察力と発想がなければノンキャリアから官僚になどなれない。
けれど鋭利な視線ひとつ見せない眼差しは篤実なまま続けた。
「なぜ湯原が東大出身なことを隠しているのか?奥さんにすら言っていない様子は異様だ、だから東大にヒントがあると思ったよ、
それで北大に勤めている先輩にも湯原の事を訊いたんだ、そうしたら先輩は新聞のニュース記事で見ただけで同一人物と思っていなかった、
先輩も驚いてな、そして湯原が留学を諦めた経緯とザイルパートナーの男とすら連絡を絶った事を教えてくれたんだ、全てが異様だと俺は思う、」
全てが異様だ、
そう結論を告げて溜息ひとつ、食膳に箸つける。
蓮根のはさみ揚げ口にゆっくり噛みしめて、呑みこむと大らかな瞳が笑った。
「湯原が東大にいたことも留学を辞退したことも、田嶋という男のことも、宮田くんは知っているんだろう?」
矛先いきなり向けてくれたな?
そんな感想と穏やかに英二は笑いかけた。
「なぜそう想うんですか?」
「周太くんが東大の研究生になっているからな、その周辺を宮田くんが調べないはずないだろう?」
当り前だ、そう告げて大らかな笑顔こちら見てくれる。
4月と変わらない実直な瞳ただ真直ぐ見つめさす、その眼差しに微笑んだ。
「蒔田さんは俺のことを調べていますね?そのために俺を七機へ異動させたのではありませんか、目の届きやすい場所に、」
(to be continued)
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