腿の外側がピリピリと痛む:外側大腿皮神経痛

2015年05月17日 | 治療の話

右のももの外側がピリピリと痛むと相談にいらっしゃったAさん。

痛みだしてから半月。

はじめは『触った感覚が鈍いな』と感じられ、次第に触れるとビリビリと痛むようになってきたといいます。

この手の「シビレ」の相談は筋膜性の障害による「偽の神経痛」であったりすることが多いのですが、

Aさんのケースでは「知覚」という神経の働きが障害されていることから本物の神経障害だということが判ります。

場所から考えると、外側大腿皮神経という末梢神経の障害が疑われます。

この神経は腰椎の2・3番から始まって、

股関節の全面を鼠径靭帯という靭帯のトンネルの下をくぐり、

腿の外側の皮膚へ伸びる神経です。

ですので、腰椎や鼠径靭帯のトンネルの辺りで神経が締め付けられて症状が出ることが多い。

また、きつくベルトを締めることでも現れるのもこの故障ではよく聞く話です。

さて、Aさんのシビレの原因はどこにあるのでしょう?

Aさんの場合、脊柱をどんなに動かしても症状は出ないことから、どうも背骨の問題ではないようです。

鼡径部(上前腸骨棘という骨盤のでっぱりの内側あたり)を調べても問題なし。

しからば、ということでうつ伏せで膝を曲げるFNSテスト(これは大腿神経のテストとして有名)や

そこから股関節の伸展を入れた種々の神経伸張検査(ナーブテンションサインともいいます)にも反応なし。

腰椎部もノーマル

鼡径部での締め付けもなし

Aさんの身体を調べてみてこの故障でよく見られる所見が見られない。

Aさんのケースは、「外側大腿皮神経痛」のスタンダードから外れているようです。

はて、困った…

とはならないのが徒手医学の面白いところ。

困ったときは基本に返れと申します。

徒手医学では何が基本か?と申しますれば、

『触診』と答えようじゃありませんか。

外堀を埋める諸々の検査にかからないとなれば、当然『患部自体に何かあるだろう』となるわけです。

再び、Aさんの左右の腿の外側の皮膚を注意深く触察してみると、

ありました!

患部の皮膚の動きがやけに悪く、皮膚の温度も低い。

さらにAさんには糖尿病の既往があります。

糖尿病では動脈硬化も生じやすく、それが末梢神経へ向かう動脈に起こると神経へ向かう血流が減ることで

知覚の異常や筋力低下といった神経機能の障害を生じるケースがあるんです。

こういった状態を「虚血性神経障害(神経への血行不足で痺れてしまうということ)」と呼びます。

あと、補足情報といたしまして、

動脈の血が届かない状態を「虚血」といいまして、虚血に陥った患部は冷たくなるんです。

ひょっとしたらAさんの外側大腿皮神経は糖尿病の影響から「虚血性ニューロパチー」を起こしているのかもしれません。

確認としてAさんに「血糖値は落ち着いていますか?」と聞いてみると、

「…高いです。」

とのこと。

グレーではありますが、可能性は高そうです。

ともあれ、ようやくこの摩訶不思議な状況を判断する条件がそろってきました。

ここからは推理が当たっているのか答え合わせです。

何をするのかといえば、そう、治療です。

硬化して目詰まりを起こした血管を元に戻すことはできませんが、

皮膚の滑りの悪さから、皮神経を取り巻く脈管(動静脈とリンパ管)への圧迫は間違いなくある。

それならば、血管の周辺の組織を緩め、皮下組織に本来持っていた「遊び」を取り戻してあげることで

血管周囲の圧力を除いてあげることはできます。

上手くすれば神経組織への血流を改善できるかもしれません。

ということで、治療開始です。

治療手技として、ここでは筋膜リリースという手法をチョイスしました。

結果は上々!

腿のシビレは無事消えてくれました。

これにて一件落着!

といいたいところですが、

私たちの身体には形状記憶性というものがあり、良くも悪くも慣れ親しんだ状態へ戻ろうとします。

つまり、よい状態が定着するには時間がかかるんですね。

そこでAさんにはセルフケアとしてテニスボールを使ったマッサージを

自宅でも続けていただくことをお伝えしてこの日の治療を終えました。

後は血糖値のコントロールに気を付けていただきたいところですが、

今後の経過に期待ですね。

Aさん、三日坊主でいいですから、頑張ってセルフケアを実施してくださいね。(*´ω`*)


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