スポーツ障害 || その2 障害の深さ~病期の話~

2018年08月14日 | スポーツ障害

さて、だいぶ空いてしまいましたが…

今回はスポーツ障害の「病期」についてお話しします。

 

「病期」というのは故障の深さを判断する指標のこと。

スポーツ障害の病期は大きく4つのステージに分けられます。

Stage1:運動開始時には痛みがあるもののアップで消える。

Stage2:運動開始時に痛みがあるもののアップでいったん消える。しかし、トレーニング(競技の練習)終盤に再び痛み出す。

Stage3:日常生活レベルの動作では痛まないが、痛みのためにトレーニング(競技の練習)ができない。

Stage4:常に痛みがあり日常生活レベルの動作も困難になる。

 

では、各病気を説明します。

 

Stage1では、ダメージを負った患部が一応の回復を終え「こわばっている」状態です。

私たちの組織は炎症後に縮むんですね。

それが引き攣れて痛むというのが「運動開始時の痛み」の正体です。

引き攣れた組織も動かされるなかでストレッチがかかり、引き攣れがなくなったことで痛みから解放されたというわけです。

しかし、ダメージを負った直後の組織は弱くなっていますので、

健常な部位に比べて運動後には強い筋肉痛に見舞われやすく、回復にも時間がかかります。

この時期に、患部の回復を待たずに健常な部位に合わせたトレーニングを重ねるとStage2へと足を踏み入れてうので注意が必要です。

 

Stage2ではいったん消えた痛みが終盤に戻ってきます。

これは患部が萎えて脆くなっているためです。

Stage1同様、患部の腫れは一応の終息を得たところからのトレーニングスタートなので、コワバリが取れた時点では痛みが消えます。 

しかし、度重なるダメージが十分に回復していないせいでStage1 よりも患部の運動負荷に対する耐久性が低いため、

後半はオーバートレーニングから局所的な炎症を起こしてしまうんです。

こうした状態に入った初期は練習後しばらく痛みますが、翌日には患部の「はり感」や「だるさ」に落ち着いたりします。

ここで油断してしまうんですよね。

特に成長期にある子供たち(~18歳)は回復力が高いのでこうした状況でも悪化を免れて現状を維持し続けたり、

持ち直したりするから見逃されがちなので周囲の大人はよくよく注意しなくてはなりません。

「悪化しないからいい」のではなく、旺盛な「成長する力」を競技力を高めるために使わずに怪我を治すために使い続けてしまっては競技力の向上につながりません。

本末転倒です。

成長期は地力を育む大切な時期です。

子供たちが貴重な「成長力」を無為に消費することの無いように、大人が目を光らせてあげてほしいなと思います。

ちなみに、練習後の痛みは徐々に長く残るようになります。

練習の翌日には引いていた痛みが翌日も残るようになり、終盤の痛みがより早い段階で現れるようになり…

それを無視し続けるとStage3へ足を踏み入れることになります。

 

Stage3ではさらに患部のダメージが深まった状態です。

状態としては炎症の一歩手前の亜急性期といったところです。

練習による患部の炎症が辛うじて収まってはいますが非常に不安定な状態だとお考えください。

この時期には日常生活動作は辛うじてこなせるものの、

競技動作のような強い筋力発揮には患部が耐えられなくなってきます。

ちょっと動くと脆くなっている患部が強い痛みを訴え、すぐに炎症を起こしてしまうような不安定な状態です。

本人が『これは病院に行かなくちゃダメかも…』と考えだすのもこの時期。

でも、試合が目前に控えていたりすると『今は病院に行っている場合じゃない』と無理を押して練習を継続したりします。

仮にこの時期、病院でレントゲンやMRIをとっても大きな損傷が見つかることはあまりありません。

「大した怪我ではない」と太鼓判を押されてしまうことすらあるので気を付けなくてはなりません。

画像診断的には大した怪我ではないと言われても、痛みの出方が「このあとビッグウェーブが来る」ことを物語っているんです。

なので、この時期に入ってしまった時点でアウト。

治療・回復に専念しなくてはならないんです。

本人の気持ちを考えると、それを宣告するのが身を引き裂かれるほど辛い。

でも、その後の競技人生を大きく左右する事態なので、冷静な判断が必要となります。

この時期に無茶して頑張るとStage4へと移行してしまいます。

 

Stage4では急性期、つまり怪我の状態になります。

痛みのために日常の動作に支障が出てきますし、練習どころではなくなります。

なので、病院嫌いの人も観念して病院へ行くのもこの時期。

そして、レントゲンやMRIで初見が取れだすのもこの時期です。

ちなみに、画像診断上「大したことないけどね」って言われることもままあるのですが、

症状の出方で判断した方が良い。

ここまで酷くなると怪我自体が治るのに数週間(以上)、そこからリハビリに数か月。

当然、長期の練習からの離脱が待っています。

しかし、多くのケースで痛みが落ち着いたら急に練習を再開してしまうんですよね…

たとえば膝を痛めた選手がいたとします。

「痛みが落ち着いた!よし、まずは軽くジョギングから!」

よく見る光景ですが、これアウト!

痛みが引いても患部は萎えてしまっていますから、安全で正しい関節運動を維持できません。

少なくとも「走る」という瞬発的な筋力発揮をともなうような動作はリスキーです。

運動を安全に行うには、膝関節が正常なコントロールを取り戻せていないといけません。

私だったらスクワットテスト(しゃがみ動作と起立動作)やランジテスト(踏み込み動作)といった一連の動作で

下肢-体幹に異常運動(ニーインやニーアウト、トレンデレンブルグやデュシェンヌ)が出ていないことを確かめてからGOサインを出します。

異常運動を認めた場合は異常運動を修正するための一手を打ちます。

それにはバランストレーニング(関節のスタビリティの再建)やフォームを意識した軽負荷でのスローリフティング(スクワット・リバースランジがおススメ)が有効です。

でも、現場ではそもそも問題を抽出する「評価スキル」が浸透していませんから、

「痛みが落ち着いた!よし、まずは軽くジョギングから!」となる…(-_-;)

故障個所の異常運動(←関節ががたついた状態をイメージしてください。)は意識にのぼりにくい上に故障の原因そのものです。

そうした問題をそのままにして運動を繰り返せばどうなるでしょうか?

「復帰⇔再受傷」の繰り返しとなるのです。

再受傷のたびに患部は脆くなってゆき、競技成績は下行の一途をたどり

最終的には競技を継続できず引退…

 

私もそうでした(´-ω-`)

でも、いまはウエイトリフティングをできるまでに回復しています。

やりようはあるんです。


次回は各病気ごとの対処についてお話ししたいと思います。

 


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