グロインペインシンドロームの治療:改訂版

2016年05月07日 | 治療の話

先日もグロインペインについて書いたと思いますが、もう一度。

サッカー選手に多い故障として知られるグロインペイン。

腿の付け根や睾丸の裏や会陰部やその奥の痛みが特徴とされ、

一度こじらせるとなかなか治りにくい故障です。

なかなか画一された治療法もないと言われていますが、

それは痛みの原因が単一の組織の損傷によるものではなく、

複数の組織の損傷が絡み合って一つの症状として現れているからだと考えられます。

私的には、原因として内転筋群や腸腰筋遠位部の故障を考えています。

なぜならば、これらの筋肉が故障した際に現れる筋膜性の痛みのエリアが、

グロインペインで診られる痛みのエリアに合致していますし、

実際に治療してみるとそれらの筋膜性の故障が見つかることが多いからなんです。

 

図版引用:トラベル&サイモンズ トリガーポイントフリップチャート

 

そして「なかなか治らない」とされるのは、その損傷部位に理由があると考えます。

臨床で見る限り、遷延化するケースでは腱骨移行部から骨膜に損傷を負っているケースが多いように感じます。

治りやすいのは腱や骨膜の損傷を伴わないケース。

筋膜組織の損傷に由来しているものは治りも速いもので、これはシンスプリントにも言えることですね。

一般的に、血行の乏しい組織の再生は遅いものなのです。

骨膜組織は筋膜組織に比べ血流が少ないので、治りが遅いわけです。

また、骨膜表面は知覚神経も多いので、痛めると治ってからも痛みが長く続きやすいのです。

なので、腱や骨膜の損傷に発展していない初期の状態であれば筋膜への介入だけでも十分痛みを除くことができます。

ですが、腱や骨膜のダメージが累積し、それらの組織の肥厚や圧痛が出てきているときには治るのに手間も時間もかかります。(*_*;

 

と、ここまでは前回の解説とさほど変わらないと思います(前回なにかいたか覚えていませんが…)。

なのに、つい最近書いたテーマをまた書くということは、ちょっとした発見があったからなんですよ。( *´艸`)ムフフ

 

さて、今日の話。

「前出の治りにくい状態、そこまで行っちゃったら運動療法もいいですよ」という話です。

では、どうぞ!

 

今回は練馬区在住のF君の話。

F君…

そう、私です。

やってしまいましたグロインペイン!

右腿の付け根が痛いの痛くないのって( ノД`)シクシク…

ま、これ書いている時点では1/10程度の痛みに回復したんですがね(^^;)

事の経過を書いてみると以下の通り。

・3月上旬にデッドリフトの自己ベストに挑戦し、挙がったは良いものの、無茶なフォームで腰と頚を痛める。

・数日後、腰椎および頸椎症による根性痛=神経痛発症。

・自分で治療をしながら4月のミニコンペで無事スナッチもジャークも自己ベスト更新(SN60/CJ80)。この時、意地で挙げたは良いものの、無茶なフォームで今度は右内転筋と腸骨筋を痛める。

・2日のアイシングと内転筋および腸骨筋の緊張緩和で痛みは3/10に落ち着く。ここで、止せばいいのに軽めのトレーニング実施し再燃。(←我慢のできない子供のようですな(-ω-))

・翌日、結構な痛みに襲われる。触察により恥骨骨膜の肥厚を見つけ『これ、あかんやつやぁ~(゜Д゜;)』と大いにビビる。

・治癒に専念し三日で痛みは2/3に。

・念のために更に二日治療をしながら様子を見て、痛みは1/2まで落ち着き、受傷後6日目ではあるが5/1に試合を控えているため軽めのスクワットに挑戦。

 

さあ、ここからが本題です。

この時、50kgの重量でも痛みなくしゃがめるのはハーフスクワットが良いところでした。

それを超えると鋭い痛みが股間を貫きます(*_*;

『さて、どうしたものか…』

と宙を仰いだその時です。

T先生「どうされました?」

私「実は、股関節を痛めまして…(^^;)」

T先生は迷わずにこう言いました。

「スロートレーニングをしましょう!(゜Д゜)ノ」

と。

スロートレーニングとは、一回の動作をゆっくりと行うことで筋肥大に有効な成長ホルモンや男性ホルモンの分泌を引き出すトレーニング法です。

効果も作用機序も加圧トレーニングと同じです。

扱う重量も少なくて済みますから再受傷のリスクも低く抑えることができますし、上述のホルモンの分泌促進は損傷した組織の積極的な回復にも役立つはずです。

『なるほど、その手があったか!!!!!』と心の中で叫ぶ私。

T先生「痛めたからって成長をあきらめるのはまだ早い!痛めた時には痛めた時の攻め方があるんです。( ̄ー ̄)

動ける範囲で筋肥大を狙って行きましょう!」

ということで、50kgでゆっくりとスクワット再開。

「おろすのに5秒、止めて3秒、挙げるのに5秒」で3レップ10セット、レストは1分で実施。

この時、ホルモン分泌の促進以外にもう一つ利点があることに気が付きました。

バーを担ぎ、ゆっくりとしゃがんでゆくと、件の痛みがうっすらと顔を出してきます。

でも、殿筋やハムを締めることで痛みが消せることに気が付いたんです。

上手に周囲の筋を運動に参加させることで故障部位の負担をうまく分散させることができたのでしょう。

痛みなく通常のスピードでは下せなかった角度までしゃがむことができました。

そして、3秒を数え立とうとした時です。

今度は重心がつま先に乗ってしまうことに気が付きました。

しかも、重心が前に泳ぐとお股が痛む…(+o+)

このまま立とうとすると、お辞儀した分だけ担いだバーの重さが支持面の中心から離れてしまいます。

すると、テコの腕(レバーアーム)が長くなり、腰にかかる負荷が強くなってしまいますし、前かがみになる分メインに鍛えたい殿筋も上手に使えません。

このことから、股関節の故障はアクシデントだけではなく、筋の動員順序の誤りによる代償運動としての内転筋の過用があったんだということが判りました。

これに気付いた後は、ゆっくり動く中で丁寧に重心の位置と動作を修正し、痛みなく、しっかりと殿筋を使って立ち上がることができました。

正しい動作で行えば怪我はしない、といいますが、まさにその通り。

 

そして翌日。

いつもなら起きてから治療院に付くころまで固く強張り、かつ痛みを発していた股関節ですが、

この日は強張りも痛みも大きく減じていました。

患部を触察してみると圧痛も大きく減じ、肥厚していた腱骨移行部もいくぶん薄くなっています。

なるほど、ホルモン分泌の促進効果は確かにありそうです。

 

その後、スローで行うことに馴れてきたのもあり、

最終的には「おろす」「止める」「あげる」を各5秒で4~5レップ×5~6セット※行う様になりました。

※ホルモン分泌を促すには50~75秒間の緊張維持が必要とされます。 

 

と、ここまでで、この「スロートレーニング」を通じて解ったことをちょっとまとめますね。

 ○「スロートレーニング」を行う利点

1、関節の安定に関与する筋群の協調性を高めることができる

⇒動作に伴う負荷を上手に分散し主動作筋の過用を緩和させることができる

 2、組織の回復に関与するホルモンの分泌を促すことができる

 

「1,2,」より、

安全に、かつ積極的に組織の回復を狙うことができる。

以上。 

 

そうこうして迎えた5/1。

調布で行われたウエイトリフティング大会では、自己ベストタイ記録を怪我前よりも綺麗に、そして楽に挙げることができました。

その間、スクワットやデッドリフトで扱った重量は最高でも50㎏まででしたので

まさかスナッチ60㎏/クリーン&ジャーク80㎏を挙げられるとは思ってもいませんでした。

この結果は治療を生業とする者としてはとても興味深いものです。

もちろん『試合に出るからにはあわよくば…』と考え、今できる最大の努力として他にも準備はしました。

T先生に勧められたスロートレーニングの他にS先生とH先生に助言を頂いて行ってきたちょっとした工夫があったのも、勝因だったと思います。

これに関してはまた後日書かせていただきますね。


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