朝夕の気温も落ち着き、いよいよ当院もランナーの季節到来です。
夏場の猛暑のため走れなかったランナーの皆さん。
涼しくなってこれまでの鬱憤を晴らすべく!?一気に走る回数を増やした方も多いようで、
故障の相談がポツポツと寄せられています。
そんな中で、今回は大腿四頭筋という筋肉の故障による
「膝のお皿周辺の痛み」についてお話してみます。
膝のお皿には大腿四頭筋という筋肉が「大腿四頭筋腱」という腱になってくっ付いています。
この腱はそのままお皿を覆って「膝蓋腱」という腱になって脛にまで伸びているんですが
これらの腱に無理がかかってくると、お皿と腱の付き際に小さな傷が付いてきます。
その小さな傷が十分に治りきらない内にトレーニングを重ねて行くと「小さな傷」はその数を増してゆき、
ついには「怪我」としての痛みを生じるまでになってしまうのです。
こういった膝のお皿の周りの故障はバスケットボールやバレーボールなどの
ジャンプやクイックなターンを繰り返すスポーツによく見られるものですから
「ジャンパー膝」といいます。
堅苦しく書くと「四頭筋腱炎」や「膝蓋腱炎」という名前になります。
ここでクエスチョン!
バスケットボールやバレーボールなどのジャンプやクイックなターンを繰り返すスポーツによく見られると言いますが、
それはなぜでしょうか?
それは、それらの動作で足が着地する際に
床から受ける衝撃を膝で吸収するときに四頭筋がブレーキとして働くから。
この時、四頭筋は引き伸ばされながら働きます。
話は変わるようで変わりませんが、
「引き伸ばされながら」という使われ方を遠心性収縮なんて言うのですが、
こうした使われ方は発揮できる筋力も高い半面、傷も付きやすいので注意が必要です。
つまり、「ジャンパー膝」は傷つきやすい運動を頻回に繰り返すことで起こる「オーバーユースシンドローム」なのです。
なので、ジャンプを多用するバスケやバレーといった競技に起きやすいのですね。
しかし、本題は「ランナーだけどジャンパー膝」とはこれいかに?です。
なんで走る方にも「ジャンパー膝」が起るのでしょうか?
答えは簡単。
「走る」という動作は必ず両足が地面から離れる瞬間を持つ、
跳躍動作(ジャンプ動作)の繰り返しそのものだからです。
しかも片脚での跳躍の繰り返し。
ここ最近治療にいらっしゃるランナーの皆さんの共通項は以下の通り、
「涼しくなってきたので、夏場週1だった走る回数を週2~3に戻した。」
です。
それの何が不味かったのでしょうか?
それはこういうことです。
この夏の猛暑から、走る回数や距離が減ったことで(運動量の低下から)筋や腱の強度は落ちています。
つまり膝を支える筋肉や腱、靭帯といった構造物が萎えてしまっているということです。
そうして萎えた状態で元気いっぱいだった時の運動量を一気に消化しようとしたところで
萎えた患部に対して過度な運動量が膝を襲い「小さな傷」ができ、
回復を待たずに次のトレーニングを積んでいった結果、オーバーユースによる故障を起こした。
ということとご理解ください。
実際の患者さんを例にもう少し詳しくご紹介します。
夏前は週3回、平日に10キロ、週末は20キロ程度走っていたAさん。
猛暑が続き、走る回数は週末のみの週1回、それも1時間の軽いジョギングのみ
という日々が1カ月半ほど続いていたそうです。
ところが、涼しくなったので嬉しくなって週2~3に増やしたところ、2週目にして膝を故障してしまったそうです。
御本人としては、走る日の間隔を1~2日開けて、しかも軽めに走ったのに痛くなってしまったことに合点がいかなかったようですが、
一ヶ月半休んでいる間に身体が弱くなっているところに、運動量を一気に2~3倍に上げた訳ですから、
それは怪我もしようというものです。
運動量を増す時には翌日や翌々日まで痛みが続くなどの不具合が出ないか様子を見ながら、
少しずつ身体を馴らしてあげましょう。
と、ここまで読むと、
「じゃ、走る回数や距離を調整すればOKなのね!」
と、思われるでしょう!?
答えは…
×です
こうした「スポーツ障害」を考えるとき、「急激な運動量の増加」以外に、もう一つ大事なことがあります。
それは「身体を正しく使えているか?」ということです。
私たちの身体には大なり小なり「体癖」という歪みがあります。
左右均等に使えていない状態は大なり小なり皆あるものなのですが、
それが大きかったり、または小さな左右差でも運動が長時間繰り返されたりすると(マラソンなんて正にですよね)、
負荷が集まる部分にオーバーユースを起こします。
なので、治療や再発予防には、
運動量の調節に加えて、身体が均等に使えるように「手入れ」をする必要もあるのです。
では、この「ジャンパー膝」では何をチェックしたら良いのでしょうか?
ザックリと書くと、
・ 傷めた側の「股関節」や「足関節」の柔軟性
・ 傷めていない側の「脚」の安定性
です。
傷めた側の「股関節・足関節」これらが硬いと四頭筋にかかる負担は強くなります。
なので、膝が痛いわけですが、膝に無理をかけている犯人として、
股関節と足首に問題がないかをチェックするのです。
また、痛めていない側の「脚の安定性」を調べる理由は、
傷めた側の脚を振り出す土台となっている脚のコントロールが悪いと、
傷めている側の脚にかかる負担が強くなってしまうからです。
(膝の故障の治療の際に、左右の脚のクッション性(動的安定性)を調べていると、
傷めている脚の方が安定性が高く、逆側の方が不安定だったりすることがよくあります。)
このように「硬くて動かない関節がある(可動制限)」とか
「上手にコントロールできていない箇所がある(制御不良)」といった
「身体のエラー」を残しておくと、運動量の調整だけではなかなか治ってくれません。
長期間運動を休めば痛みは落ち着きますが、再発もしやすくなります。
では、何をすればよいのか?
以外に答えは簡単です!
以下に最低限の要件を挙げてみます。
・足首の硬さのチェック
・股関節の硬さのチェック
・下肢の安定性のチェック
そして、出てきた問題点に対する治療&トレーニングを実施し、
患者さんにもセルフケア&トレーニングを覚えていただき
リハビリ期のトレーニングの運動量の調節に関するルールに沿って 実施していただく。
それだけです。
え~~~~、オレもやるのぉ~~~~~~
なんて声が聞こえてきそうですが、
スポーツ障害に限らず、治療は二人三脚で成り立つものなのです…
一緒に頑張りましょう
う~ん。
やっぱりだいぶ長くなってしまいましたね。
セルフケアやエクササイズの具体的な中身についてはまた今度ご紹介しますね。
いつになるやらですが、しばしお待ちください。
では。
=(きっと)つづく=