第1問 次の【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】は、まことさんが「ヒトと言語」についての探究レポートを書くときに参考にしたものである。これらを読んで、後の問い(問1~3)に答えよ。なお、解答の際に「指差し」「指さし」など、【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】で表記の異なる語については、どちらの表記でもよいものとする。
【文章Ⅰ】
1 ヒトは、ほかの人になにかを指し示すために指差し(ポインティング)をする。驚く人もいるかもしれないが、これをするのはヒトだけである。ほかの動物はこうした指差しをしないし、指差しの意味も理解しない。チンパンジーでさえ、野生では、指差しも手指しもすることはない。ただ、人間のもとで飼育されているチンパンジーの場合は、人間の指差しを教え込むと、その機能がわかるようにはなる。とはいえ、教え込んでも、欲しいものに手を伸ばすことはあっても、それ以外でものを指し示すために指差しをすることはほとんどないようだ。
2 ヒトにとってはこれがあまりに簡単な行為なので、ふだんは考えてみることもないのだが、指差しで指示されている方向とは、指差した人間からの方向である。見ている側は、その指差した人間の位置に自分の身をおかないかぎり(あるいはそれを想像しないかぎり)、指されている方向やものは特定できない(これは「他者の視点に立つ」能力とも関係している)。私たちにはこれが簡単にできるが、ほかの動物ではそうではないのだ。
3 ここで、ことばを用いずに、指差しも用いないで、頭や目の向きも用いないで、相手になにかを指し示したり、相手の注意をなにかに向けさせたりする状況を考えてみよう。これはきわめて難しいことがわかる(ほとんど不可能かもしれない)。それとは逆の状況を考えてみよう。ことばのまったく通じない国に行って、相手になにかを頼んだり尋ねたりする状況を考えてみよう。この時には、〈 A指差しが魔法のような力を発揮する 〉はずだ。なんと言っても、指差しはコミュニケーションの基本なのだ。
4 指差しは、ヒトでは生後11ヶ月頃から頻発するようになる。子どもは自分から指差しをし、またおとなが指差したものにも目を向けるようになる。指差しは、自分の関心のあるものに他者の注意を向けさせるための(「注意の共有」を喚起するための)強力な手段となる。これがいかに強力かつ自動的かは、「あっち向いてホイ」という遊びをしてみると、よくわかる。相手の指差した方向に目や顔を向けないようにすることは、頭ではわかっていても、きわめて厳しい。
5 最初の指差しの出現から1ヶ月かそれぐらいすると(1歳前後)、初(注1)語も出始め、この指差しの動作には単語がともなうことが多くなる。おそらく、こうした〈 B初期の指差しは、言語習得のひとつの重要な要素をなしている 〉。
(鈴木光太郎『ヒトの心はどう進化したのか――狩猟採集生活が生んだもの』による。なお、一部表記を改めたところがある。)
注1 初語――乳児が初めて発する意味のある言葉。
【文章Ⅰ】の読解
1 ヒト……ほかの人になにかを指し示すため指差しをする
↑
↓
他の動物……指差しできない
2 指差しで指示されている方向
∥
指差した人間からの方向
↓
見ている側……指差した人間の位置に自分の身をおく
∥
「他者の視点に立つ」能力
3 ことば・指差し・頭や目の向きを用いず
↓
相手になにかを指し示す、注意を向けさせる状況
↓
きわめて難しい
ことばのまったく通じない国
↓
相手になにかを頼んだり尋ねたりする状況
↓
指差し……魔法のような力を発揮する
∥
指差し……コミュニケーションの基本
4 生後11ヶ月頃 指差し頻発
自分から指差し・おとなが指差したものに目を向ける
∥
指差し……「注意の共有」を喚起する強力な手段
5 1歳前後 初語
指差しの動作……単語がともなう
↓
B初期の指差し……言語習得のひとつの重要な要素
問1【文章Ⅰ】の傍線部A「指差しが魔法のような力を発揮する」とは、どういうことか。三十字以内で書け(句読点を含む)。
どういう意味で「魔法」といえるのかを説明すればいい。
指差しは、5
ことばを用いずに、9
他者に何かを伝えることを可能にする 17
ということ。6
ぐらいがベストな解答だが、字数オーバーになる。
【示された解答例】
1 ことばを用いなくても意思が伝達できること。(21)
2 指さしによって相手に頼んだり尋ねたりできること。(24)
3 ことばを用いなくても相手に注意を向けさせることができること。(30)
2は、「魔法」という比喩を説明しきれてないため、従来の問題ならば減点される。
新共通テストはPISA型に従った採点なので、許容範囲は広くなるということだろう。
としたらあれば、31、32文字の解答でもPISAでは○になるはずだが、そこは「以内」でチェックするらしい。
1・3が模範解答なら、個人的には傍線部を「魔法のような力を発揮する」にしてほしい。