水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

成瀬力(2)

2023年05月18日 | 学年だよりなど
3学年だより「成瀬力(2)」




 高校一年の成瀬あかりは、頭を剃り上げた。
 滋賀県立膳所高校入学式の日、一年三組の教室に入ってきた丸坊主の女子をみて、みんな一様にぎょっとし一様に目をそらす。
 同じ中学から来ている大貫かえでは「一番厄介な女と一緒なクラスになってしまった」と思った。
 で、この二人もいろいろあって(ちなみに『成瀬は天下を取りにいく』という小説は、何人かの視点から成瀬あかりを描く短編集だ。 成瀬との関わりから生まれる出来事を経て、視点人物の成長が描かれるという源氏物語型の構成になっている)。
 八月。東大のオープンキャンパスで会った成瀬に、かえでは「なんで坊主にしたの?」と問う。




~「はじめて訊かれたな。みんな訊きづらいんだろうか」
「そりゃ訊きづらいでしょ」
 反応を見るに、深刻な事情があるわけではないらしい。
「人間の髪は一ヶ月に1センチ伸びると言うだろう。その実験だ」
 意味がよくわからず黙っていると、成瀬が続けた。
「入学前の四月一日に全部剃ったから、三月一日の卒業式には35センチになっているのか、検証しようと思ったんだ」
 わたしは思わず噴き出した。 
 (宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』新潮社)~




 二人は池袋の西武デパートを訪れる。
 大津にあった西武とは規模も客層も何一つ同じところはないけれど、どこか同じ空気を感じると、成瀬は言う。
 「わたしは将来、大津にデパートを建てようと思ってるんだ」
 こんなふうに、自分の夢を気安く口にできたらどんなに楽だろうと、かえでは聞いている。
 こんな成瀬あかりの物語が6編入った作品集は、コロナ禍以降に読んだ小説の中で最も面白い。
 読みながら、まったく別の言葉を思い出した。




~ 学級づくりとは〈フィールドワーク〉なのです。荒れた子も、おとなしい子も、支援を要する子も、興味をもって、おもしろがって実験を繰り返す場なのです。そんな中から幾つか、はまる手立てが出てきます。手応えのある手立てが見つかります。それが有効な手立てとして、教師の「武器」となっていくのです。〈フィールドワーク〉を成功させるカギは、教師が子どもを「おもしろがれる」か、子ども集団を「おもしろがれる」か、それだけだと感じています。(堀裕嗣・宇野弘恵『教職の愉しみ方 授業の愉しみ方』明治図書)~




 成瀬あかりは、自分のフィールドワーク(野外調査)をしているのではないだろうか。

コメント
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