秋晴れが約束された10月21日の日曜。
こんな絶好日に山に行かないわけにはいかない。
ただ、まさにこの表現に見るように、最近の私の山行は、なんか義務的になってしまって、楽しんでいない。
それもそのはず、今年の山行はすべて左脚の腸脛靱帯炎のチェックが目的となってしまっている。
腸脛靱帯が痛まなくても、健康増進(筋肉運動とカロリー消費)のためになっていた。
これではスポーツジムに行くのと変わりがない。
もっとも一応カメラを持参し、景色は楽しんではいる。
ただ、山での昼食はその日の朝コンビニでおにぎりか調理パンを調達し、それを山頂で30分以内に平らげる。
つまり山での食事をまったく楽しんでいない。
時間が惜しいのと、余分なカロリーを摂取しないためだ。
いつからこんなストイックな山行になってしまったんだろう。
もっとも、山をやっていない人からみると、登山自体がストイックな行為で、そこに楽しさがあるとはまったく思えないようだが。
登山の楽しさとえいば、雄大な景色の他に、山頂に着いた時の達成感、おいしい空気、おいしい水、そして一汗かいた後の達成感と眺めの中で摂る食事もおいしい。
というわけで、今回は、山で火を炊いてゆったり食事をすることを目的とする、いわば”炊(かし)き登山”。
その行き先に選んだのは、迷った揚げ句、奥武蔵の横瀬二子山(883m)。
選択基準は、山上で煮炊きをするため、行程に余裕があること。
すなわち歩程だけでなく、バスなど余計な時間がかからないこと。
ということは駅から直接登り降りできる山がいい。
そうなるとかなり限られ、今まで一度も行っていない山の中から、西武秩父線の芦ケ久保駅から往復できる二子山に決った。
もともとこの山は中学時代から武川岳と併せて縦走するつもりで”取っておいた”のだが、長距離の縦走がほぼ不可能になった今では、その必要がなくなった。
山頂での”炊き”は正午頃でよいので、ゆっくり8時に家を出て、芦ケ久保には10時すぎに着いた。
降りた乗客(いずれもハイカー)は数人で、奥多摩や丹沢に比べて格段に空いている。
前回(5月)の丸山山行(→900m台の山をクリア)でも利用した駅に隣接する道の駅で水を補給し、沢に沿った登山道に入る。
晴天だが、沢沿いの植林の中なので、日射が遮られ、沢の瀬音が耳に心地よい。
沢にかかる最後の橋で前を行くカップルを追い抜くと、山中でたった一人になったので、ザックに付けたクマ除けの鈴をONにする。
山腹の登りになると、山道の左右に白い可憐なヨメナ(嫁菜)の花が出迎えてくれる(写真:正しくはカントウヨメナだと思う)。
自生している(人の手で植えられたものでない)山の花々に逢うのも山の楽しさの一つだ。
登るにつれて傾斜がどんどんきつくなり、道も破壊されるほどの急斜面になって、両側に張られたロープにつかまりながら斜面を直登する(奥多摩や丹沢だったら人工的な階段が設置される)。
稜線に出て一旦平坦になり、最後の直登をこなして、まず雌岳の頂きに達する。
だが展望はまったくないので、休まずに奥の雄岳に向う。
この両峰仲がいいのか悪いのか、雌岳と雄岳の間は深く切れ込んでいて、岩場を下りて、岩場を登る。
雄岳は、山上が平坦になって樹林帯ながら広場状になっている。
だが眺めがいいのは一ヶ所だけなので、二子山からの展望の写真はどれも同じになる。
そこからは、奥武蔵の第一の顔である武甲山が目の前で(石灰岩の採掘現場が痛々しい)、その右に二番目の顔である両神山がこれも全貌を表している(写真)。
その足下には秩父市街が拡がっている。
その展望の一等地には、夫婦の先客がいたので、その奥の木陰で段ボール製の携帯腰掛けに坐って、炊(カシ)きを始める。
持参したのはソロ・ストーブ。
これは、ガスや石油などの燃料を用いず、山中に限りなくある枯れ枝を燃料にし、枝の燃焼と燃えた後の炭の燃焼の二段階で煮炊きする仕組み。
すなわちコンロではなく竃(かまど)だ。
ただ、火力は燃料を用いたコンロに負けるので、沸騰するまでの時間はかかる(着火に手間取ったせいでもある)。
なんとか湯を沸かして、カップ麺に注ぐ。
そう、山での食事は、カップ麺。
ふだんはバカにして食べないのだが、湯を注いで3分待つだけで済むので、アウトドアではとても重宝。
まずカップがついているので別の器がいらない。
使用後のカップを洗う必要もない。
具も一緒に入っているし、味は一定水準で失敗がない(冷たい水でも食用可だから)。
今までなら、おにぎりか調理パンを冷たいまま齧るだけだったが、
暖かい湯で食べるカップ麺はやはり充実感を得る。
下界だったら残す汁も、汗をかいたので塩分補給として飲み干せる(残すとゴミになる)。
そして、残った湯でインスタントコーヒーを飲む。
ストーブ内で枝を燃やすのに手こずったこともあり、昼食にたっぶり1時間を使った。
燃焼した枯れ枝は最後は炭の燃えかすの白い粉になるので、念のため水で消火して、草木の養分(炭素)として付近にばらまく。
実にエコなストーブなのだ(今では安い中国製も出回っている。雨の中ではこのような使い方はできないので、アルコール燃料も併用できる)。
さぁ、あとは、下山するだけ。
雌岳に戻り、下りは尾根コースを選び、どんどん急坂を下っていく。
急坂の連続でだんだん左脚の腸脛靱帯が疼(ウズ)いてきた。
実は、標高800m台ということもあって、今回はいつものZAMSTではなく、もっとシンプルなサポータ(一応腸脛靱帯炎対応を謳っている)を試しに装着してきた。
ところが、標高の割りにきつい急斜面の下りのためか、もうお手上げ状態。
念のため持参していたZAMSTを装着したが、時既に遅し。
腸脛靱帯炎は一度痛むともう後には引かないのだ。
下りの中、ほとんど歩行困難になりながら、なんとか誤魔化して降り、麓の車道に下り立った。
山道や階段ではない普通の道になれば、多少の下り坂もウソのように問題なく歩ける。
駅前の道の駅に寄って、地元土産の「しゃくし菜」(秩父地方特産の漬物で大のお気に入り)を買い、缶ビール代わりにペプシを自販機で買って、駅のホームのベンチで味わった(学生時代からペプシはビール代わり)。
次回は、腸脛靱帯炎を気にしないですむレベルの山で、ソロ・ストーブを使い慣れるようにしよう。