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「一瞬の風になれ」 佐藤多佳子、「風が強く吹いている」三浦しをん

ほとんど同時期に刊行されたこの2冊。短距離走、駅伝と種目は違うが、いずれも、学校の陸上競技をめぐる内容で、天才的なアスリートとそれを追いかける周りの者たちのドラマという設定も似ている。生物学におけるメンデルの法則の再発見、数学における積分法の発明など、同時期に偉大な業績がまったく別の場所や人物によって成し遂げられることがあるというのは、歴史の教えるところであるが、このような話の舞台が良く似ていて、かつすばらしい小説が、ほとんど同時に刊行されたということには、そうした何か特殊なものを感じてしまう。こうなると否が応でも、どちらが面白いか、と比較をしてみたくなる。本屋大賞2007では、「一瞬の…」が第1位、「風が強く…」が第3位と決着がついた形で、本屋を覗いてみても、大賞受賞の「一瞬の…」3部作の大きな扱いが目に付く。短距離走を題材とした「一瞬の…」では、登場人物がそれぞれの力量の中で感じる「ランナーズ・ハイ」であるとか、バトンの受け渡しによって生じるドラマとかがストーリーを盛り上げている。一方、駅伝を題材とする「風が強く…」は、各走者のキャラクターの面白さと走者同士の信頼という要素が話の中心だ。評価の分かれ目がどこにあるかは好みの問題だと思うが、私としては、読んでいる最中のわくわく感と、次の展開をどうしても知りたくなるというストーリーの面白さで、「風が強く…」の方を押したい。というよりも、両方とも読むというのが正解だろう。(「一瞬の風になれ」佐藤多佳子・講談社、「風が強く吹いている」三浦しをん・新潮社)
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