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夜は短し歩けよ乙女 森見登美彦

「京風恋愛幻想活劇」「確信犯のご都合主義」など、ほめ言葉かどうか微妙な表現で評されるにもかかわらず、この小説は、そうした表現が正にほめ言葉としか思えない独特の体験をさせてくれる。勘違い、希望的観測、楽観的解釈、盲目的信頼、そうしたものを全て肯定していく主人公の2人の究極のご都合主義こそが、この小説の真髄だと思う。物事は合理的に考えましょう、リスク管理をしっかりしましょう、楽あれば苦ありのゼロサム社会です、といったバブル崩壊後にますます幅をきかせる現代の金科玉条が、何故かとても色あせて見える。著者の「太陽の塔」を読んだ時、主人公はそのご都合主義をもてあまし気味だったが、そうした逡巡が本作ではきれいに消滅している。そこが、例えば個人情報の悪用におびえつつも現代社会の利便性を捨てられず息苦しさに苛まれる、そうした閉塞感のようなものを感じざるを得ない我々の心を打つのではないか。(「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦、角川書店)
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