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モダンタイムス 伊坂幸太郎
彼の本は「鴨とアヒルのコインロッカー」以来、新刊を追いかけつつ、昔の作品も少しずつ手を出すという具合でずっと読み続けている。特にファンという訳でもなく、本屋さんで新刊を見つけてもすぐに購入したりもしないのだが、しばらくすると「大変面白い」という評判が立つので、つい購入してしまうという感じでずっときている。読めば確かにストーリーとして面白いし読ませる。ただ、個人的には「次の新刊が待ち遠しい」というのではなく、何故かいつの間にか知らない題名の作品が本屋さんに並んでいるのを見つけるという感じだ。1つ読み終わった後にもっと別の作品を読みたいと思うのをファンだとすれば、あまり熱心なファンでないことは確かだ。さて本書は、ある男が拷問を受けようとしているところから始まる。その舞台だが、現在の日本のようでいて、どこか変な感じがする。読み進めていくと、設定は今から100年後くらい未来の話らしいことが判ってくる。ただし、現在と全く変わらないサラリーマンの日常などが描写され、100年後の日本なのに人間の行動パターンや心理など全然変わっていない。100年後も今起きつつある問題は全然解決していませんよ、生活もそんなに進歩なんかしていませんよ、と言っているようで面白い。それから、先週の作家村上春樹のエルサレム賞授賞式でのスピーチの断片をニュースでみたが、そのなかで語られた「社会のシステムに押しつぶされそうな個人」というイメージは、まさに本書の主要テーマである。世の中の精神的な現状を敏感に捉え、それを表現することに長けた2人の作家が、全然別の形ではあるが同じようなメッセージを発している点には深く考えさせられた(「モダンタイムス」伊坂幸太郎、講談社)
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アデュール・ティシュラー サイン モーリー HEROS
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