書評、その他
Future Watch 書評、その他
廃墟建築士 三崎亜記
作者の作品の多くにはある共通した手法が使われている。日常的な決まり事や社会のシステムの根幹部分の一部を非常識なものに変え、そこから淡々と静かに話を進めるという手法だ。最初の出発点がずれているのでそこから構築される世界は何とも奇妙で非現実的なのだが、話を進める論理に乱れがないので、できあがった世界もどこかにありそうな世界になる。ホラーとも違う得体の知れない不気味さとか不安が漂う世界だ。本書に収められた4編でも、広い意味での「建物」というものにスポットを当てて上記の作業が行われ、我々の常識を揺さぶる。4編のなかでは特に「図書館」が印象的だ。「図書館の野生をコントロールする」ことを職業とする女性の話だが、そのヒロインは以前の作品で「架空の動物を人々の心に見せる」ことを職業する女性として登場していた。こうした形で続編なり連作に出会えて、なんだか妙に嬉しい感じがした。作品のなかに「地方の衰退」という社会問題が取り入れられていてそれも妙に面白い。「七階闘争」という作品は、なぜか建物の7階で不幸な出来事が続き、不安になった住民から「7階を撤去せよ」という運動が立ち上がり…という話だが、「7階を撤去しても8階が新たな7階になるだけではないか」というまっとうな意見が封殺されてしまうところなどもおかしくて好きだ。「作者の作品ではまだ「鼓笛隊の襲来」を読んでいない。次の作品が出ないうちに読んでおかなければと思う。「(「廃墟建築士」三崎亜記、集英社)
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )