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世界は分けてもわからない 福岡伸一
本書の最初にでてくる「国際トリプトファン研究会」。トリプトファンって聞いたことはあるけど何の名前だったっけ?とまず思う。動物の名前だっけ?と思っていたら、アミノ酸の1種とのこと。そうなると今度は、何でそんなアミノ酸の名前を聞いたことがあるのだろう?という別の疑問が頭をもたげる。そんな調子で、本書を読んでいると、疑問が沸いたり、納得したりで、いろいろ面白い。著者はそんな読者の反応を予測しているのだろうかと思ってしまう。また、本書の内容は、知っているつもりになっているこれまでの知識を大きく揺さぶる。「パワーズ・オブ・テン」という言葉も聴いたことがあるが、そこで著者は「倍率を10倍にしたときに細かなものがみえてくる代償として明るさが犠牲になっている」という全く新しい視点を指摘する。「コンビニで賞味期限が長く残っている新しい商品を買うほうが体に良い」という素人考えに対して、「ヒトの体の全身の細胞の和は60兆個で体内の微生物の数は120兆個である」という生物学の事実をもって警告を発する。ジグソーパズルへのアプローチには2通りあり、私が良いと信じていたやり方よりもダメだと思っていた方が優れているという。ES細胞とガン細胞の違いはいろいろな本で読んでいたが、本書ではこれまでと違う説明がなされている。「脳死」という考え方を敷衍していくと「どこからがヒトか」という問題に必然的にぶつかると指摘する。これらの全ての話は、少しだけ知っている知識を別の見方から大きく揺すぶられるという内容の話であり、そこが著者の本に共通した面白さのように思える。また、いろいろバラエティにとんだ話が最後にある事実を伝えるものだったということが判ったときの驚き、題名の意味が判ったときの納得感も強く、本当にスゴイ本だと思う。(「世界は分けてもわからない」福岡伸一、講談社新書)
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