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秘密諜報員ベートーヴェン 古山和男

トンデモ本のような題名だが、中身は至って真面目な本で、精緻な歴史的背景や資料の考察による仮説が述べられた学術書だ。ベートーヴェンの有名な「不滅の恋人」の手紙が政治的な意図を持った暗号だったという著者の主張する仮説を信じるかどうかは別問題として、ナポレオンが登場した後のヨーロッパという時代の一面を教えてくれているという点だけでも、本書の価値は本物という気がする。ちょうど先日読んだ哲学者カントの登場する「純粋理性批判殺人事件」も、旧体制側からみたナポレオン登場の恐怖という時代背景が描かれていたが、本書も別の視点からナポレオン登場の西洋史上の意味を考えさせられる。本書のなかで、「ベートーヴェン氏、どこどこの町に滞在」といった新聞記事が何度か引用されているのをみてびっくりした。ベートーヴェンというのは当時からそんな名士だったのか、ということに驚いたのと、そんな当時から有名人だったベートーヴェンの手紙の謎がいまだにわからないということ自体、その手紙を単純なラブレターと考えることが間違っている証拠ではないかとさえ思える。(「秘密諜報員ベートーヴェン」古山和男、新潮新書)
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