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きとこわ 朝吹真理子
本書は随分前に入手して読まずにきてしまった本だが、先日読んだ「福岡伸一対談集」で本書の著者と対談しているのを目にして、これを機会に読むことにした。100ページ余りの短編だが、まずその文章のスタイルに、今までに感じたことのない感覚を覚えた。2人の女性が25年ぶりに再会するというそれだけの話なのだが、とこからどこまでが現在の話でどこからどこまでが過去の思い出なのか、読んでいるうちに何だか判然としなくなってくるような感覚。さらには、現実の話なのか頭の中の想像の話なのか、さらには夢の話なのかまでもが混然としてくるような奇妙な感覚に戸惑った。話の中でも、主人公自身がそうした感覚に襲われていることがはっきり書かれているので、読者をそうした感覚に誘うことは、作者の意図的な仕業なのだと判る。読んでいて軽い催眠術にかけられたような感じだ。これに気づいてからは、普通の本の読み方をやめて、意識的にゆっくり読むようにして読み終えた。そこで、巻末に載っている町田康の解説を読む。この解説がまた素晴らしい。久し振りに酔うような読書を体験でき、とんでもない才能に触れたような気がした。(「きとこわ」 朝吹真理子、新潮文庫)
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