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大ベシ見警部の事件簿 深水黎一郎

昨年のベスト10作品には1作品も入れなかったが、昨年の読書の成果の一つが、この作家に出会ったことだということは確かだと思う。本格ミステリーとは一線を画す作品ばかりで、本書もノックスの法則、ヴァン・ダインの法則といった既存のミステリーの約束事を逆手に取った作品ばかりが並んでいる。それでいて全体が1つの統一的な世界を形成しているというアクロバティックな手法の見事さ、約束事をおちょくる面白さには脱帽だ。これまで読んだ作者の作品は、全てこうした「アンチ本格」の要素が強く、しかも幾重にもひねりがきいた作品ばかりだった。この作者がストレートなミステリーを書いたらどういう作品が生まれるのだろうか、という興味は尽きない。おそらく、この作者の文章の面白さ、読者サービスともいえるユーモアのセンス、あくまでも謎解きを大切にする作風等は、東野圭吾や東川篤哉に匹敵するものだ。後は、東野圭吾のような守備範囲の広さ、あるいは東川篤哉のような定番化による安心感のようなものがあれば、第2の東野圭吾、第2の東川篤哉という感じでメジャーになる可能性は高い気がする。まだ未読の作品も幾つかあるので、それを読みながら、これまでにない趣向の新作の刊行を待ちたい。(「大ベシ見警部の事件簿」 深水黎一郎、光文社)

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