書評、その他
Future Watch 書評、その他
時鐘館の殺人 今邑彩
こちらもネットで入手した一冊。著者の短編集はこれで6冊くらい目だが、今のところすぐに手に入るのはこれが最後みたいだ。いつも通り、バラエティに富んだ作品が並んでいて、しかもどれも面白い。特に本書では、表題作と「黒白の反転」の2作が面白かった。すでに入手済みの長編を読みながら、他の短編集の復刻を待ちたい。(「時鐘館の殺人」 今邑彩、中公文庫)
中野のお父さん 北村薫
自分の記憶では、著者の本は何冊も読んでいて、どれも大変面白かったはず。しかし、試しに2007 年から続けているこのブログを検索してみたら著者の本は一冊しかヒットしなかった。このブログを始める時に悪口だけになってしまう記事は書かないと決めた。基本的にどうしても悪口だけになってしまう本以外、読んだ本の大半を記事にしている。著者の本が悪口だけということは考えられないので、この10年で読んだ著者の本は多分本当に一冊だけということで、自分の記憶に間違いがなければ、それ以外はブログを始める前に読んだということだ。ということで、久しぶりに読んだ著者の本書、相変わらず非常に面白かった。何故だか分からないが、著者の本、面白いと知りながらエアポケットのように読まずに過ごしてきたらしい。ここ10年に出た著者の本をこれから何冊も読めると思うと、悔しいというよりも本当に嬉しい。(「中野のお父さん」 北村薫、文春文庫)
通り魔 結城昌治
「昭和ミステリールネサンス」と銘打った復刻版シリーズの一冊。一番古い短編は50年くらい前の作品だ。この作家の作品を読んだ記憶はないが、当時の人気作家だったので、団塊の世代の人たちの再読を当て込んだ復刻なのかもしれない。内容は、ホラーのようなものから本格的なものまでバラエティに富んでいて楽しかった。夫婦間の事件が多いのは、亭主関白といった前時代的な存在が崩れてきた頃に書かれたものだからかもしれない。そうしたことも含めて時代をしっかり感じさせる一冊だった。(「通り魔」 結城昌治、光文社文庫)
ビブリア古書堂の事件手帖8 三上延
人気シリーズの第8作目。これまでの作品に登場した人たちの後日談であると同時に、主人公達のその後が描かれた短編が4つ収められている。そのうちの1つである「雪の断章」は、久し振りに自分の読んだことのある作品が主題に取り上げられていて、しかも「ミステリーとしては不自然な部分もあるが主人公の成長物語として読むとこれまでに味わったことのないような感動的な作品」と、ほとんど自分の感想と同じことが書かれていてビックリした。シリーズとしてはほぼ完結という感じだが、人気シリーズだけに、果たして綺麗に終わることができるかどうか、少し心配だ。(「ビブリア古書堂の事件手帖8」 三上延、メディアワークス文庫)
そもそも島に進化あり 川上和人
著者の本は本書で3冊目だが、今回も期待通りの面白さだった。色々な知識を与えてくれる内容の面白さはもちろんのこと、前作同様、イラストの楽しさ、頻繁に登場するサブカル知識のユーモアなどが満載の絶妙な一冊だ。本書では、島とは何か、島にどうやって生物が流れ着くのか、島という特殊な環境で生物たちがどのように進化していくのか、そしてその生物たちの運命は、と話が進む。そして最後の大団円では、島という舞台の鳥類を研究する学者として、人と自然の関わり、学問のあり方にまで話が及ぶ。楽しくて為になる珠玉の一冊だ。著者の本は図鑑のような本を除く読み物的な本に限ると、あと一冊しか未読がないようだ。もちろんそれを読むのは楽しみだが、その後、似たような本を探すのにはどうしたらいいかが悩ましい。(「そもそも島に進化あり」 川上和人、技術評論社)
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