かつて、それも大昔、たぶんネスカフェの宣伝だったかな。中村紘子と云う小柄でキュートな女性が出てきて、ピアノを舞踊のように優雅に弾いた。嫉妬まじりに、小賢しい女とみた。あれから彼女はずっとこの国のピアノ界を牽引してきた。
先日NHKBSプレミァム『クラシック倶楽部』でバッハの「パルティ―タ」とショパンの「幻想即興曲」等を弾いた。ショパンを弾く時は「綿密な計画の下に、あたかも即興でやったかのように弾き、しかも詩的でなければならない」と言った。爾来、賢しい婆さんになったものだと思った。
今や太い樽のような胴体から肉体労働者のような太い腕で、打楽器のように鍵盤を叩く。しかし、だいぶ前に録画をしたのだが、未だに消す気にはならない。悔しいけれど、その音には年令を越えた魅力があるようだ。彼女が豊かに歳は重ねたあかしでもある。
とある小さなコンサートで、名もない若いピアニストが袖なしのドレスを着てピアノを弾いた時、その腕の太さに驚いたことがあった。ふと気が付いたのは、女性のピアニストは太い腕を隠すために袖なしのドレスを着ない。しなやかな腕と胸の鎖骨を見せるバイオリニストと対照的である。