少し前だが、三國連太郎が死んだ。その一・二週間、テレビではその話題ばかりだった。確かに存在感のある役者であった。どこの局だか忘れたが、小倉智昭のワイドショーを見たとき、三國連太郎の作品が話題に上った。アシスタントの菊川怜が「釣りバカ日誌」とか言ったら、小倉がもの凄い剣幕で、なんだ、お前はその程度の作品しか知らないのか、彼にはもっと素晴らしい作品があるんだ、という意味のことをまくし立てた。善意もウィットもない、悪意だけの罵りであった。よくやるなあ、いい年をして、と思った。職場の好色な上司が若い娘をほんの少しの知識のなさを鬼の首でも取ったように責めたてる。一種のパワハラ、いや、セクハラかもしれないが。かわいそうに、見る間に菊川怜は黒く細く縮んでいった。その不快なテレビを見ながら、『飢餓海峡』という映画を思い出した。
何故かしら、あの頃、伴淳三郎の横顔の『飢餓海峡』の赤っぽい宣伝ポスターが気になっていたんだ。アジャパーの喜劇役者がシリアスな刑事役を演じたことに興味があった。6、7年前に、横浜の若葉町かな、旧のジャック・アンド・ベティ(映画館)で、水上勉原作の映画が日替わりで上演されていた。『飢餓海峡』が見たくて毎日通ったけど、運が悪いというか、その日に限って残業となって『飢餓海峡』だけを見損なった。やむを得ず、オークションでDVDを買った。ずっと伴淳が気になっていたのだが、見てみると強盗殺人犯の三國の演技が圧巻であった。DVDなのに、彼の汗臭い体臭が伝わってくるようであった。三國に貰った金で救われた娼婦の左幸子が、三國の残した切爪を頬に当てて悶えるシーンに、なんか不思議な感じをもらった。その娼婦がお礼を言いたくて、三國を探してしまうだのけどね。銀幕で見れば、どれほど素晴らしかったかと、今でもほぞをかむ思いである。
ジャック・アンド・ベティでは、『飢餓海峡』は見れなかったが、『越前竹人形』が見れた。若尾文子は着物の裾の乱れと白い足だけで完璧な情愛シーンを演じた。白黒映画でも、若尾の白い肌が印象的だった。かつて映画は存在感のある役者によって支えられていた。
〇B級グルメシリーズ~昔ながらのラーメン