『史記』の「晋世家」の章に、「船中人指甚衆」(船の中、人の指甚だ多し)とある。春秋時代、晋が楚と戦い、敗北した晋軍は黄河まで逃れ、兵たちは我先に船に乗り込もうとする。その時船の中は指で一杯だった、と記されている。これを読んだとき、私は豊臣秀吉の軍が朝鮮に攻め入った時、首の代わりに塩漬けされた耳が戦果として秀吉のもとに送られたことを想い出した。しかし、この場合は、それとは全く関係なかった。事実は、船べりにすがり付く自軍の兵士の指を片っ端から剣で切り落としたのである。この直截で獰猛な行為は漢王朝の太史令(歴史編纂官)の司馬遷によって約二千年前に書かれていた。
先日、習近平はアメリカに行って、二千年前から南シナ海は当然に中国の領土であると言って憚らない。国際法の中では何の根拠のない嘘っぱちだけれど、ただ中国二千年の歴史の存在を考慮すれば、何だか理があるような気にもさせられてしまう。でも、ねえ、漢王朝の末裔と言いたくなるような、中国共産党王朝の國は、自らが生きのびるためには、自らの兵の指も簡単に斬ってしまう、油断のならない隣国人であることは間違いない。
◆箱根芦之湯の昔ながらの旅館にて