絵はカジノキの幼木
梶原という苗字の人に、カジノキというのはどんな木か知っていますか、と尋ねたことがある。え! カジって木なの? という答えだった。木偏ですからもちろん木です。
カジノキは南方の灌木なのですが、なぜか長野県の諏訪神社の社紋となっており、残念ながら寒冷の諏訪では十分に育つことはできません。上社では境内に移植したのですが、結局枯れてしまいました。そのカジノキが近年、東京の神宮の杜や新宿御苑のマント(道路側の淵)に、桑の葉に似た、葉が割れる独特な形態で生育しています。どこからか種が飛んできて、実生で育っているのです。
いわゆる温暖化の影響で、南方の植物が関東から東北地方に、徐々にですが繁殖の手を延ばしているのを、温度統計ではなく植物という実態で示しているわけです。
私たちはこうした気候の変化にもっと注意を払うべきだと思います。台風の来襲や高温などの注意報はよく出ますが、もっと大きな地球規模での状況として、気候の変化が起こっていることに注意を払いたい。なぜなら、これは単に風水害の問題ではなく、食料とか私たちの生活の根幹をゆるがすものだからです。その原因を云々する人もいます。化石燃料の使いすぎだとか、人口が多すぎるからだとか。しかし、ほとんど眉ツバです。氷河期を溶かした縄文期の温暖化は、化石燃料や人口増とは何の関係もありません。
とはいえ、気温の上昇は確実に進んでいます。その影響をまともに受けるのは、今述べた植物の生態系で、私たちにとっては農業の問題に絡んできます。子どもの頃、北海道では稲作ができないと学んだのだが、たとえ品種改良があったとしても、今では北海道は銘柄米の産地となっているほど、気候の変化は進んでいるわけです。
気象の影響をまともに受ける農業は、工業化すべきだと、私はずっと指摘してきました。工業化というのは機械化ではありません。工業=工場です。つまり気象や土壌など自然の影響を極力排除した温室栽培です。トマトなどは水耕栽培でどんなに効率化するかは実証されているのですが、なかなか現実化しません。エコロジストをはじめ消費者も露地栽培、自然農法にこだわるからなのでしょう。
でも、農業は最大の自然破壊者であることは周知の事実。棚田などはその典型です。そして自然に栽培されたとされる作物も肥料で培われたもので、これもたかだか数百年の歴史しかもたないものです。食料を自然から隔離し、より人間化すること、喫緊の課題だと思います。 【彬】