このほど、カズオ イシグロの、the remains of the days (日の名残り)を読みました。
かなり前のことですが、カズオイシグロという日本人が、若い時に英国に渡り、英語で小説を書き大変評価をされていると聞き、いつか読みたいと思っていた。日本人が外国語で外国のことを書くとどのような作品ができるのか、ということに興味があったのです。そう思いながらかなり時間が経ちましたが、ノーベル賞作家となったといことで、いよいよ読まなければと思いブッカー賞受賞作品を選んだ次第です。
あらすじは、ある英国上流貴族の館に仕える老執事が、第二次大戦後の1956年、休暇をとり、今まで出たことのない館を後にして英国国内の旅をする。館は今では戦前の勢いをなくし富豪のアメリカ人の手にわたっている。旅先で、隆盛を極め欧州の要人(ドイツ・ナチを含め)の社交の場でもあった1920~30年代の華やかし貴族時代に、幾度も想いをはせる。物語は、現在と過去の出来事を行ったり来たり描きながら進む。そして旅の終わりに、館のため、自己犠牲までして執事の品格を守り尽くしてきた自らのこれまでの生き方を振り返る。もっと他の生き方もあったのではないか?しかし、「一日で最も楽しいのは夕暮れ時だ」、との思いに至る。そして、これから前向きに生きていこうとする。
この作品は、作者が、35歳のときのものであることに驚かせられます。重厚な英国貴族社会や、老執事の心境がよく描かれています。イシグロ氏は、5歳のときに英国に渡った、ということでなるほどとは思いますが。
ところで、僕には、英国と日本は似たところがあると思います。戦前、英国は世界に覇権をふるっていた。日本はアジアに広い領土を有していた。そして戦後ほとんどすべてを失った。戦前戦後を生きた人には、栄光の時代に想いをはせる人もいるでしょう。イシグロ氏にはそんなところに感じるものがあり小説の舞台にしたのか、と想像したりもします。
さて、この作品は、原書を英語で読みました。作品の英語を通し、英国の文化に触れたいと思ったからです。日本人の僕から、この作品で英国はどう見えたか?この設問の回答は難しい。具体的に挙げれば色々あるのですが。日本語と英語は違う。当然文化も違う。要は、違いを自分の感性でそのまま受け取ることです。日本語訳で読めば、また違った楽しみがあるでしょう。
絵は旅に出る老執事。
2018年1月27日 岩下賢治