遊爺雑記帳

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経営破綻の中国・国策半導体企業「紫光集団」 半導体・ハイテク市場をめぐる米中パワーゲームの行方は

2021-07-16 01:33:55 | 米中新冷戦時代
 世界第3位のスマートフォン用半導体設計企業、清華紫光集団(以下「紫光集団」)。破産による再編手続きを進めるよう債権人が7月9日付けで裁判所に申請を行ったことについて解説いただいているのは、ジャーナリストの福島香織さん。
 紫光集団は1988年に中国の名門国立大学、清華大学が51%を出資して誕生した半国有企業であり、中国の半導体完全国産化計画を牽引する役割を担っていたのだそうです。
 償還期を迎えた債務の返済に必要な資産、能力が紫光集団には明らかに不足しているが、企業に再編の価値と実現性があるため、債権人が法院(裁判所)に対して破産再編を申請。法院が債権人の合法的権益を守ることを支持する、としているのだそうです。
 
経営破綻の中国・国策半導体企業「紫光集団」、強欲の末路 「半導体完全国産化の野望」が無惨な状況に | JBpress (ジェイビープレス) 2021.7.15(木) 福島 香織:ジャーナリスト

 昨年(2020年)11月以降、数度の社債デフォルトに陥りながらかろうじて持ちこたえていた世界第3位のスマートフォン用半導体設計企業、清華紫光集団(以下「紫光集団」)。その紫光集団に対して破産による再編手続きを進めるよう債権人が7月9日付けで裁判所に申請を行った。

 紫光集団は1988年に中国の名門国立大学、清華大学が51%を出資して誕生した半国有企業であり、
中国の半導体完全国産化計画を牽引する役割を担っていた

 紫光側は「業務に影響はない」とはいうものの、昨年の「武漢弘芯プロジェクト」(武漢弘芯という半導体メーカーの巨大工場建設プロジェクト)頓挫に続く中国半導体業界の挫折であり、
2025年までに中国半導体自給率70%を目指して官民で継続してきた大型投資の結果は、かなり無残な状況となっている

負債が増え続け2000億元以上に
 中国メディアによれば、紫光集団の負債はすでに2000億元(約300億ドル)を超えている。

 紫光集団のオフィシャルサイトによれば、
償還期を迎えた債務の返済に必要な資産、能力が紫光集団には明らかに不足しているが、企業に再編の価値と実現性があるため、債権人が法院(裁判所)に対して破産再編を申請したという。紫光集団としては全面的に法院の審査に協力し、法院が債権人の合法的権益を守ることを支持する、としている。

 この申請を行った債権人とは、安徽省合肥市に本社を置く「徽商銀行」だという。2019年のフォーブス中国企業番付「中国500強企業」で289位にランキングされた優良企業だ。

 
紫光集団は世界に4万人以上の従業員を抱え、世界のSIMカード市場の20%のシェアを占める(2018年末時点)。また中国の先進的なクラウドサービス企業のひとつでもある。総資産は3000億元で、300社近い子会社を傘下に収め、間接的に出資している企業は1000社を超える。紫光ホールディングス、紫光国微などの上場企業も間接的に株式を保有している。

 
そんな大企業がなぜ銀行から破産再編の申し立てを受けたのか

 そもそも中国の国家プロジェクトを牽引する企業ならば、これまで通り「剛性兌付」によって守られるはずである。
「剛性兌付」とは、「国家・党が後ろ盾の企業に債務不履行はない。デフォルトしても、政府が資金を補填して債権人の元本は保証してくれる」という“神話”だ。

 紫光集団は昨年11月の最初の社債デフォルト以来、6月30日までの間に、グループ内企業ですでに6件の債権違約(デフォルト)に陥っていた。だが、「すでに債務リスク緩和工作を発動しており、(社債)保有者と、債務問題を解決するためのコミュニケーションをとっていく」と説明していた。この「地方銀行など言いくるめられる」と言わんばかりの態度が、おそらく今回の破産再生申請につながったのだろう。

 
紫光集団の海外債務の変動が表面化し始めたのが2019年ごろ。当時の紫光集団は、子会社の海外債務が増加しながらも、経営は正常であると強弁し続けてきた。本土、オフショアともに社債デフォルトが発生し始めても、「資金は十分にあり、流動性は安定している」と言い続けてきた。

 2019年の紫光集団の財務諸表などをまとめた年報によれば、金利を含めたグループの負債は前年同期比で209億元減少し、1402億元だった。しかし実際のところ
負債は増え続け、すでに2000億元を超えていることが明らかになった

 中国の企業情報データバンク「Wind」のデータによれば、紫光集団の目下のデフォルト総額は元本金利を含めて68.83億元。2021年12月末までに、さらに13億元規模の債務が満期を迎えるので、おそらく2021年末には、償還期限を過ぎた債務は80億元以上となる。2020年の年報はまだ発表されていないが、2019年の年報をもとにすれば、紫光集団の総資産は2977.62億元で、負債合計は2197.47億元。2019年の集団の売上総額は769.38億元で親会社の純利益は14.30億元。つまり資産の負債率は73.46%となる。

失敗に終わった台湾半導体技術「乗っ取り」
 
なぜ紫光集団にこれほど多額の負債があるのかというと、無謀な子会社買収を続けたからである

 わかっている範囲で、紫光集団は2013年から60以上の企業を買収。中でも、
台湾半導体技術を併呑(へいどん)するという野望のために、かなりの無茶をやった。とりわけ激しかったのが2015年の動きだ。

 
紫光集団は2015年に、米ヒューレット・パッカードの子会社「H3Cテクノロジーズ」の株51%を25億元を投じて取得した。さらに、同年11月、台湾の半導体パッケージング・検査大手「パワーテック・テクノロジー」の株25%(194億ニュー台湾ドル)を取得したことを発表した。一躍筆頭株主となって役員メンバーの座を獲得、台湾半導体業界に切り込んだ最初の中国資本となったことが報じられた。

 紫光集団はこれに満足せず、
さらに趙偉国会長は「もし台湾の法律が許すようなら、早急に『メディアテック』と合弁する」と語った。台湾メディアテックは、工場を持たずに半導体設計を専門に行う「ファブレス」と呼ばれる業態の大手企業である。中国当局はこれを受けて台湾の半導体産業に圧力をかけ、「市場開放しないならば、台湾ブランドや台湾製造のチップおよび関連商品の禁輸措置を取る」などと脅しをかけた。

 
この動きに危機感を募らせたのが台湾の半導体分野の有識者たちだ。紫光の台湾企業買収攻勢は、台湾の命運を左右し、世界の半導体産業の勢力地図を書き換えかねないと見たからだ。メディアテックが株を紫光に買われ、台湾企業としての自主経営ができなくなれば、台湾半導体業界における米中パワーゲームの勝敗にも大きく影響することになる。

 米メディア「ラジオ・フリー・アジア」の台湾成功大学・電機学部の李忠憲教授へのインタビューによれば、
2015年当時、台湾の半導体分野の学者たち500人以上が、チャイナマネーをかさに着た紫光集団の台湾半導体企業買収を阻止すべく、連名で反対署名を集めた。学者たちは、ことの重大さに気付いていなかった民進党政府を説得して、紫光の野心を阻んだのだという。

 
李忠憲教授は、「もし、あのとき紫光とメディアテックの合弁を阻止できていなかったら、おそらく米国は台湾を信用できないと判断し、悲惨なことになっていただろう」「いったん中国資本が入り込めば、それは不可逆であり、対処のしようがなかった。トランプの米中貿易経済戦争の時、台湾は米中どちらの陣営に入るかで進退窮まっていたはずだ。(中国は)経済を政治目的に利用することに成功していただろう」と振り返る

 台湾の半導体産業は米国の技術移転により発展してきた。それが中国企業に乗っ取られた場合、台湾半導体業界は、米中半導体戦争において中国陣営側とみなされて制裁対象になっていたかもしれない。

 さらには、
中国が台湾の半導体技術を併呑することで、習近平の半導体国産化計画の成否も変わり、それに伴う米中5G戦争の勝敗や、米国による中国ハイテク企業のデカップリング政策の結果も大きく変わることになっただろう

 つまり、
中国の半導体完全国産化が計画通りに進み、米国を中心とした民主主義国陣営から台湾が外れ、米国の台湾に対する関心と信頼もなくなる。それは台湾にとって最も重要な主権保護のための盾が完全に失われることを意味する。

 そして、自由主義陣営と中華全体主義陣営の地図が変わり、その悪影響の前面にさらされるのは、言うまでもなく日本であっただろう、ということだ。

「技術」がなかった紫光集団
 この一件ののち、
紫光集団はさらにTSMC(台湾セミコンダクター・マニファクチャリング)の株買収によって台湾半導体業界をコントロールしようと画策していた。だが資金不足と審査を通過しなかったことで頓挫した。

 TSMCは2016年に南京に進出し、最初の12インチウェハー工場を設立するが、それはこうした中国との半導体市場のパワーゲームの中での妥協の産物だったようだ。TSMC南京工場は特別扱いでTSMC独資で建設されていたが、中国は巨大市場を餌に技術移転を迫った。またTSMC南京工場の現地雇用者からの、製造関連の機密情報漏えいも懸念されていた。TSMCは米国からも圧力を受け、当時は沈黙せざるを得ない状況だったようだ。

 結局、
台湾半導体産業は米中対立のはざまで踏み絵を迫られた結果、トランプ政権の米国陣営に入る決断に舵を切った紫光集団の台湾半導体技術を併呑しようという野望は破れ、これまでの金にあかせた買収のツケが今の破産危機につながっている、という。

 李忠憲教授は
紫光集団が失墜した理由として、この業界において、基礎技術を持たずに金にあかせて発展するのは困難であることが判明したという。半導体設計というのは地に足をつけてトライアンドエラーを重ねて発展していくものであり、技術をだまし取ろうとする詐欺師や、恫喝で技術供与を迫るやくざのような企業には限界があったということだ。

清華大学は習近平の母校
 
ただし、紫光集団が本当に破産再編手続きに入るかどうかはまだ不確実だといわれている。清華大学はなんといっても習近平の母校。中国ではすでに国有企業のデフォルトや破産再編処理は容認され始め、かつての「剛性兌付」神話は崩れつつあるとはいうものの、習近平肝いりの国家戦略の中心企業の破産を認めるとなれば、それはある種の大きなメッセージ性を持つことになる。

 一部の報道では、中国最大手インターネットプラットフォーム企業である「アリババ」が紫光集団のクラウドサービス関連企業株を最大77億ドルで引き受けることを検討しているという。
習近平政権が、独禁法違反などで厳しい制裁を受けているアリババに紫光集団株の引き受けを認めさせるのかについても気になるところだ。

 いずれにしろ
紫光集団の破産問題は国有企業の破綻処理と半導体政策の見直し、そして半導体・ハイテク市場をめぐる米中パワーゲームの行方につながる事件として、あとあとまで尾を引くかもしれない。

 この申請を行った債権人とは、安徽省合肥市に本社を置く「徽商銀行」。
 紫光集団は世界に4万人以上の従業員を抱え、世界のSIMカード市場の20%のシェアを占める中国の先進的なクラウドサービス企業のひとつでもある。

 そんな大企業がなぜ銀行から破産再編の申し立てを受けたのか。
 そもそも中国の国家プロジェクトを牽引する企業ならば、これまで通り「剛性兌付」によって守られるはずである。「剛性兌付」とは、「国家・党が後ろ盾の企業に債務不履行はない。デフォルトしても、政府が資金を補填して債権人の元本は保証してくれる」という“神話”だと、福島さん。

 なぜ紫光集団に多額の負債があるのかというと、無謀な子会社買収を続けたからだと。
 わかっている範囲で、紫光集団は2013年から60以上の企業を買収。中でも、台湾半導体技術を併呑するという野望のために、かなりの無茶をやったと。

 紫光集団は2015年に、米ヒューレット・パッカードの子会社「H3Cテクノロジーズ」の株51%を25億元を投じて取得した。さらに、同年11月、台湾の半導体パッケージング・検査大手「パワーテック・テクノロジー」の株25%(194億ニュー台湾ドル)を取得。台湾半導体業界に切り込んだ最初の中国資本となったのだそうです。

 さらに紫光集団の趙偉国会長は「もし台湾の法律が許すようなら、早急に『メディアテック』と合弁する」と語り、中国当局は、台湾の半導体産業に圧力をかけ、「市場開放しないならば、台湾ブランドや台湾製造のチップおよび関連商品の禁輸措置を取る」などと脅しをかけたのだそうです。

 この動きに危機感を募らせたのが台湾の半導体分野の有識者たち。
 紫光の台湾企業買収攻勢は、台湾の命運を左右し、世界の半導体産業の勢力地図を書き換えかねないと見たと福島さん。
 メディアテックが株を紫光に買われ、台湾企業としての自主経営ができなくなれば、台湾半導体業界における米中パワーゲームの勝敗にも大きく影響することになる。

 米メディア「ラジオ・フリー・アジア」の台湾成功大学・電機学部の李忠憲教授へのインタビューによれば、2015年当時、台湾の半導体分野の学者たち500人以上が、チャイナマネーをかさに着た紫光集団の台湾半導体企業買収を阻止すべく、連名で反対署名を集めた。学者たちは、ことの重大さに気付いていなかった民進党政府を説得して、紫光の野心を阻んだのだと。
 「いったん中国資本が入り込めば、それは不可逆であり、対処のしようがなかった。トランプの米中貿易経済戦争の時、台湾は米中どちらの陣営に入るかで進退窮まっていたはずだ。(中国は)経済を政治目的に利用することに成功していただろう」と李忠憲教授。

 中国が台湾の半導体技術を併呑することで、習近平の半導体国産化計画の成否も変わり、それに伴う米中5G戦争の勝敗や、米国による中国ハイテク企業のデカップリング政策の結果も大きく変わることになっただろうと福島さん。
 中国の半導体完全国産化が計画通りに進み、米国を中心とした民主主義国陣営から台湾が外れ、米国の台湾に対する関心と信頼もなくなる。それは台湾にとって最も重要な主権保護のための盾が完全に失われることを意味すると。
 自由主義陣営と中華全体主義陣営の地図が変わり、その悪影響の前面にさらされるのは、言うまでもなく日本であっただろうとも。

 紫光集団はさらにTSMC(台湾セミコンダクター・マニファクチャリング)の株買収によって台湾半導体業界をコントロールしようと画策していた。だが資金不足と審査を通過しなかったことで頓挫したのだそうです。

 結局、台湾半導体産業は米中対立のはざまで踏み絵を迫られた結果、トランプ政権の米国陣営に入る決断に舵を切った。紫光集団の台湾半導体技術を併呑しようという野望は破れ、これまでの金にあかせた買収のツケが今の破産危機につながっていると福島さん。

 李忠憲教授は紫光集団が失墜した理由として、この業界において、基礎技術を持たずに金にあかせて発展するのは困難であることが判明したと。

 ただし、紫光集団が本当に破産再編手続きに入るかどうかはまだ不確実だといわれているのだそうです。
 51%の出資をしている清華大学は習近平の母校。
 かつての「剛性兌付」神話は崩れつつあるとはいうものの、習近平肝いりの国家戦略の中心企業の破産を認めるとなれば、それはある種の大きなメッセージ性を持つことになると福島さん。
 「アリババ」が紫光集団のクラウドサービス関連企業株を最大77億ドルで引き受けることを検討しているのだそうですが、習近平政権が、独禁法違反などで厳しい制裁を受けているアリババに紫光集団株の引き受けを認めさせるのかについても気になるところだと福島さん。

 紫光集団の破産問題は、国有企業の破綻処理と半導体政策の見直し、そして半導体・ハイテク市場をめぐる米中パワーゲームの行方につながる事件として、あとあとまで尾を引くかもしれないと。
 諸々の注目課題を含んだ事例。行方に注目ですね。
<\font>


 # 冒頭の画像は、紫光集団の展示スペース




  この花の名前は、ミヤマカラマツ


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写真素材のピクスタ


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