
アメリカ連邦議会上院軍事委員会が公聴会を開いた。出席を求められたのはシャー(Shear)国防次官補(アジア太平洋安全保障担当)と太平洋軍司令官ハリス海軍大将である。
そこで取り上げられた問題の1つが、アメリカ軍が南沙諸島で中国が建設中の人工島に対して適切に「FONプログラム」を実施しているのか? という問題であった。
<中略>
■2012年以降、12海里内でのFONは実施されていない
さて、上院軍事委員会公聴会で委員長のマケイン上院議員がシャー国防次官補に「アメリカ軍は中国が人工島を建設し軍事拠点化しつつある南沙諸島海域でFONプログラムを実施しているのか?」と問いただした。
それに対してシャー国防次官補は「アメリカ海軍艦艇によってFONを実施したのは、最も直近では今年の4月です」と答えた。これは、4月下旬に配備先のシンガポールを出発し5月上旬にかけて南沙諸島をパトロールした米海軍沿岸戦闘艦「フォートワース」のことを指している。「フォートワース」は中国海軍フリゲートに追尾されて人工島周辺海域には接近できなかった。(中国の人工島建設に堪忍袋の緒が切れつつある米軍 米国の対中強硬派は軍事衝突も辞さない構え | JBpress(日本ビジネスプレス))
シャー国防次官補に対してマケイン上院議員は「私が問題にしているのは12海里ということだ」と改めて質問をぶつけた。言うまでもなく12海里というのは国連海洋法条約で規定されている沿岸からの領海の幅である。
「シャーさん、私は12海里境界線ということに注目しているのです。もしアメリカ軍が12海里境界線を尊重するのならば、中国の事実上の領有権に対して暗黙の了解を与えたことになってしまう。最近において、我々アメリカ軍は(中国が建設している人工島の周辺)12海里以内の海域でFON作戦を実施しているのでしょうか?」
国防次官補によると「アメリカ海軍が、それらの環礁周辺12海里以内でFON作戦を実施したのは、2012年が最後です」ということである。
2012年当時には、中国によるファイアリークロス礁やジョンソンサウス礁をはじめとする7つの環礁・暗礁での埋立工事は実施されていなかった。つまり、人工島建設が開始されてからはアメリカ軍による人工島周辺12海里内でのFON作戦は全く実施されていないことが明言されたのだ。
■大統領の指示があれば直ちにFON作戦を実施
このようなFON作戦の現状に対して、マケイン上院議員は下記のような要求をした。
「アメリカ軍が中国人工島の12海里以内でFON作戦を実施していないということは、すなわち中国による国際法を無視した領海設定の主張をアメリカが暗黙裡に承認していることになってしまう。中国がなんと主張しようとも人工島の周辺海域は純然たる公海である以上、アメリカ軍艦や航空機は堂々と航行自由原則に基づいて通過するべきである」
国際海洋法では、中国が人工島を建設している暗礁や、満潮時には海面下に没してしまう土地(LTE)、それにそもそも人工島は、領海の基準としては認められないと規定されている。したがって、アメリカ軍がそれらの人工島周辺12海里以内に軍艦や軍用機を自由航行させないということは、国際法の原則そのものを中国の勝手な解釈に合わせてしまうことを認めてしまうことになると、マケイン議員は警告を発しているのである。
マケイン委員長に対してハリス海軍大将は、「全く同感です。“メキシコ湾”が(Mexicoという語が付せられているからといって)メキシコの海でないのと同様に“南シナ海”も(Chinaという語が付せられているからといって)中国の海ではありません」
ちなみにハリス大将は太平洋軍司令官に就任する以前は南シナ海を直接担当海域にしていた太平洋艦隊司令官であった。
「太平洋軍司令官の任務としてあらゆる担当海域においてFONを実施しなければなりません。もちろん、その権限は大統領と国防長官から付与されることになります」とオバマ大統領あるいはカーター国防長官からの指示があり次第、マケイン委員長が指摘するような人工島12海里以内でのFON作戦を実施する意思と準備がアメリカ軍にはあることを明言した。
■中国を刺激しないという“不文律”が存在していた
実は、太平洋艦隊や第7艦隊などで参謀を務めていた米海軍関係者たちによると、アメリカ海軍では以前より人工島をはじめとして中国が領有権を主張している島嶼環礁周辺12海里以内でのFON作戦をしばしば計画したという。しかしながら、政治的な配慮からそのような作戦計画は日の目を見ることがなかったという。
「ホワイトハウスやペンタゴン上層部には、“中国を挑発するような作戦行動は慎まなければならない”という“不文律”が存在し続けているために、そのような作戦はことごとく“上からの干渉”によって立ち消えになってきた経緯がある」
「議会証言では2012年に最後の12海里内でのFON作戦が実施されたと言われているが、実はこのような“不文律”はその数年前から存在していた」
「今回の習近平の訪米のような米中間の政治的経済的イベントが近づくと、決まって“不文律”が働きかけて、FON作戦を始めとして“中国を刺激する”ような作戦行動には縛りがかけられたのだ」
■不文律がある限り日米同盟は威力を発揮しない
米上院軍事員会で問題になっているように、南沙諸島での中国の人工島建設ならびに軍事基地化に関してアメリカ政府が苦言を呈しているのは、中国をはじめとする多国籍間の領有権問題ではなく自由航行原則が脅かされるという観点からである。
アメリカ政府は南沙諸島での多国間の領有権紛争に関連して、中国の主権を否定して特定の国々の領有権を認めるような立場を表明したことはない。このように、第三国間の領域紛争に対しては中立を守る、というのはアメリカの伝統的な外交政策の鉄則の1つである。
この鉄則は、東シナ海での日中間対立でも貫かれており、アメリカ政府が「尖閣諸島の領有権が日本にある」との立場を明らかにしたことはない(「日本政府の施政下に置かれている状態」と「日本が領有権を有している」は全く異なる)。
そして、米海軍関係者たちが指摘している「中国を極力刺激しない」という“不文律”は、南シナ海だけではなく東シナ海にも適用されるものと考えるのが自然であろう。ということは、たとえ日米同盟が強化される方向性にあるとしても、「中国を刺激しない」という基本方針をアメリカ政府が大転換しない限り、真の意味で対中抑止効果が発揮されることはないということなのだ。
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FONプログラムとは「Freedom of Navigation (自由航行原則)プログラム」の略語であり、「世界中の海洋で自由航行原則が脅かされる可能性がある場合、そのような事態の是正を求める」というアメリカの国家政策を意味する。
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米国が南シナ海での中国による、国際法違反の領海空権設定の為の、埋め立てによる人工島建設を公表した時には、すぐにでもその12海里以内の航行を実施するなどして、中国による制海空権の無力化を図るとみられました。
東シナ海に、中国がADIZ(防空識別圏)を設定した時は、即座にB-52爆撃機を飛行させましたが、南シナ海では、米海軍沿岸戦闘艦「フォートワース」による、12海里以内での航行は、中国のフリゲート艦の追尾により断念したのだそうです。
「アメリカ軍がそれらの人工島周辺12海里以内に軍艦や軍用機を自由航行させないということは、国際法の原則そのものを中国の勝手な解釈に合わせてしまうことを認めてしまうことになる」と、マケイン議員が指摘し、ハリス海軍大将も同感と合意していて、作戦は立案するのだそうですが、オバマ大統領あるいはカーター国防長官からの指示がなく立ち消えとなっていると。
「ホワイトハウスやペンタゴン上層部には、“中国を挑発するような作戦行動は慎まなければならない”という“不文律”が存在し続けているために、実現に至らないのだそうです。
しかしそのことは結果的にはマケイン議員が指摘する通りに、国際法を無視した中国の力技が認められた結果を招いています。
習近平の訪米時に抗議しても、蛙の面に小便の結果でしかありませんでした。むしろ、抗議を逃げ切られたことで、既成事実化が確定してしまいました。
シリアのアサド政権への対処が曖昧であったために事態を悪化させてしまったオバマ政権。南シナ海でも、同様の失政を犯してしまいました。
埋め立て工事の、もっと早い時期から警告を発し、12海里以内でのFONプログラムの発動もしておくべきだったのです。
尖閣諸島については、民主党政権時代に前原氏がクリントン国務長官(当時)から、日米同盟の適用対象との言質をとっていて、安倍政権となった最近ではオバマ大統領からも発言を引き出しています。
しかし、領有権に関して中立の姿勢は変わっていません。日本の管理下(施政下)と言うのが米国の理由ですから、中国・海監の定期巡回や、中国漁船、日本漁船の排除などの管理実績が積み重ねられている際どい現状は、中国公船の増強が進められている状況では、いつ逆転されるか不安定な状況です。
米軍と自衛隊とでは、共同訓練を重ねて防衛に備えていますが、大漁船団や海監により不法侵入・占拠された時に、自衛隊や米軍が出動できるかのグレーゾーンは、安保法制が成立しても万全ではありません。
不法侵入・占拠されてしまえば、米国が言う管理下(施政下)の論拠は崩れますから、日米同盟の対象から外れます。
勿論、中国はそこに狙いを定めています。
安保法制が可決成立したから安心ではありません。さらなる充実が必要ですし、海保の戦力の拡充が急務です。
その状況下で、普天間の辺野古への統合工事承認を取り消すと言う翁長県知事。県民の生活を護れという石垣市の議決も無視する、県民不在の媚中政策は、糾弾されねばならないはずですが?
# 冒頭の画像は、中国が、南シナ海のファイアリークロス礁に完成させた3000メートル級滑走路

この花の名前は、キョウガノコ
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