年頭にあたり、今年の展望について語られる記事が多くあります。その中で、欧州・フランスのミッテラン大統領側近として欧州統合に関わった経済学者の、ジャック・アタリ氏が、「2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争」と指摘されている記事がありました。
欧州から、とかく無関心となりがちな東の端てについて語られている珍しい記事です。しかも、貿易の利益に目を奪われ、甘くなりがちな中国観がはびこる中、「2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争」と指摘されているのです。
「世界は重苦しい傾向にある。社会は分裂し、かつ閉鎖的になってきた。」「今日の世界は1910年頃の世界と比較できる。」「2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争」と語っておられます。
「アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海と南シナ海で起こりうる全てのことが心配だ。大きな危険がそこにある。」と言うのです。ロシア対ウクライナなどの旧ソ連圏、インド対パキスタン、中東、アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織「イスラム国」といった、五つの火種を越え、東シナ海、南シナ海での日米と中国の対抗を挙げているのです。
経済面からは、世界的危機を招きかねない脅威として、中国のバブル崩壊、米国と欧州で保護主義が進行する場合に発生しうる国際貿易紛争、イタリアの銀行破綻に端を発する欧州危機、債務危機、米国発の金融危機。最後に原油価格を巡る危機の六つの脅威を挙げておられます。
一方、ポジティブな着目点も挙げておられ、中国とインドで今後も中間層が拡大とアフリカの中間層の増加による大きな市場が誕生、科学技術の進歩、米経済の力強い成長を指摘されています。欧州の学者さんらしいのは、米国の欧州、地中海、中東からからの撤退は、欧州にとって福音だとの指摘。米国がいなくなることになれば、欧州の国々は一緒になって行動を起こす様になると。
頼みの米国がいなくなるのだから。欧州の市民は安心を求め、防衛費の増額には賛成する。日本も防衛費を増やすことになるだろうとも。。
欧州で、これだけ極東での中国の脅威を論じていていただけるのはありがたい。中国が覇権拡大を進める源泉となってきたのは、対欧州貿易や欧州からの投資が大きい。欧州勢が眼を開いて中国の脅威の認識を高める一助となっていただきたい。習近平の「一帯一路」政策は、シルクロードの地域への経済進出であると同時に、中東から地中海、そして欧州への覇権拡大。つまり、米国が撤退する空白地域への進出なのですから。
つまり、南シナ海、東シナ海だけでなく、その次は、欧州が中国の覇権拡大の標的とされていることに、速く目覚めていただきたい。
# 冒頭の画像は、仏経済学者ジャック・アタリ氏
この花の名前は、ペラペラヨメナ
↓よろしかったら、お願いします。
欧州から、とかく無関心となりがちな東の端てについて語られている珍しい記事です。しかも、貿易の利益に目を奪われ、甘くなりがちな中国観がはびこる中、「2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争」と指摘されているのです。
2017 問う 3.今そこにある危機 今年最大の脅威は何か 日米と中国の緊張懸念 (1/5 読売朝刊)
世界は重苦しい傾向にある。社会は分裂し、かつ閉鎖的になってきた。そのことは、英国の欧州連合(EU)離脱を決めた英国民投票を含む、各国の投票結果として表れている。だから、私は米大統領選でトランプ氏が勝つと予想した。この傾向は今後も続く。
トランプ氏の勝利に失望する人々がいるが、同氏は民主的に選出された。米国の民主主義は機能している。
しかし、「米国第一」を強調する同氏は、開かれた社会や国際主義に対する脅威である。ナショナリズムの台頭という脅威だ。
今日の世界は1910年頃の世界と比較できる。当時も科学技術は進歩し、民主主義は機能し、グローバル化が進行していた。世界が民主的で満ち足りた発展を手にすることも可能だったはずだが、閉鎖的なナショナリズムの台頭が野蛮を産み落とした。2度の世界大戦だ。今日の世界も自らを閉ざそうとしているように見える。
私の考える、2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争だ。トランプ氏はロシアを友、中国を敵と見なしている。
南シナ海で人工島を建設する中国の動き、核・ミサイル開発を強行し続ける北朝鮮の動きなどを加算すると、アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海と南シナ海で起こりうる全てのことが心配だ。大きな危険がそこにある。もし将来、日米と中国が戦争に至る事態になれば、世界戦争に拡大するだろう。そうならないように、私たちは今、脅威の存在をしっかりと知っておく必要がある。
軍事的な火種はこの他に五つ。ロシア対ウクライナなどの旧ソ連圏、インド対パキスタン、中東、アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織「イスラム国」。「イスラム国」はイラクで支配地域を失うかもしれないが、リビアなど別の国で新たな支配地域を得るに違いない。
そして、更なるテロが起きる。並外れた数の難民・移民が発生する。世界は緊張をはらみ、不安定になる。
だが、「世界の警察官」はいない。米国はオバマ政権時代にその役回りから降りている。「アラブの春」の後に軍事クーデターの起きたエジプトに介入せず、化学兵器を自国民に使用したシリアのアサド政権をたたかなかった。米国は既に世界から手を引きつつあるのだ。私は2006年に米国が撤退する世界に警鐘を鳴らしたが、現実のものになりつつある。
米に代わる大国は現れるか 欧州の統合前に進む
固体の積み荷を運ぶ船で、積み荷が液体に急変したら運航は危うくなり、最初の横揺れにも耐えられまい。民主主義諸国で今、民意は瞬時に急変し得る。昨日選ばれた指導者が今日は見捨てられる。ポーランド出身で英国に住む偉大な哲学者、ジグムント・バウマン氏の言葉を借りれば、現代世界は「液状社会」になっている。そこにポピュリズム(大衆迎合主義)の波動が生じる余地がある。
米国が世界から撤退することで、世界はますます不安定になる。既に世界中で暴力への回帰が起きている。だが、米国に取って代われる国はない。
中国は地域大国としての野心はあるが、世界の大国になる野心はない。中国にはインドやアフリカ、欧州、南米の紛争に際し審判役を引き受ける意思はない。
ロシアにはその意欲はある。だが、真の目的はロシアを安定化することにある。不凍港への到達手段を確保するという思惑もあろう。
自らの責務は地球大に広がっていると自覚する大国がない。そのことが危険なのだ。
脅威は多い。経済的には世界的危機を招きかねない脅威は2017年に六つある。
まず、中国のバブル崩壊。次に、国際貿易紛争。これは米国と欧州で保護主義が進行する場合に発生しうる。第三は、イタリアの銀行破綻に端を発する欧州危機。ユーロ圏は依然として不完全で、危うさを備えている。弱いユーロを望むフランスと強いユーロを望むドイツの相違が目立ってきている。第四は、債務危機。日本も人ごとではない。続いて、米国発の金融危機。最後に原油価格を巡る危機だ。
しかし、悲嘆に暮れるべきではない。物事の悪い面だけを見てはいけない。
中国とインドで今後も中間層が拡大する。アフリカの中間層も増える。その結果、大きな市場が誕生する。科学技術は更に進歩する。米国は今年、力強い成長を見せるだろう。
米国は欧州、地中海、中東から撤退していくだろうが、それは欧州にとって福音でもある。
欧州にとって欧州防衛は死活的に重要だ。欧州防衛を成功させるには、欧州の団結が不可欠だ。米国がいなくなることになれば、欧州の国々は一緒になって行動を起こす。従来、滞ってきた統合が前に進み、欧州が再び国際政治に重みを持つことが可能になる。
確かに英国が欧州連合(EU)を離脱すれば、EUは軍事大国を一つ失うことになる。ただ、離脱は2年先で、まだ時間がある。決まったわけではない。
欧州の市民も防衛費の増額には賛成するだろう。頼みの米国がいなくなるのだから。市民は安心を求めるものだ。日本も防衛費を増やすことになるだろう。
脅威のレベルを減じるためにも、欧州は敵を減らすべきだ。私は対露接近が必要だと思っている。 (聞き手 編集委員 鶴原徹也)
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仏経済学者ジャック・アタリ氏
Jacques Attali 経済学者、経営コンサルタント、途上国支援の公益法人代表、作家など多彩な顔を持つ。ミッテラン仏大統領(在職1981~95年)側近として欧州統合に関わった。「21世紀の歴史」など著書多数。73歳。
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世界は重苦しい傾向にある。社会は分裂し、かつ閉鎖的になってきた。そのことは、英国の欧州連合(EU)離脱を決めた英国民投票を含む、各国の投票結果として表れている。だから、私は米大統領選でトランプ氏が勝つと予想した。この傾向は今後も続く。
トランプ氏の勝利に失望する人々がいるが、同氏は民主的に選出された。米国の民主主義は機能している。
しかし、「米国第一」を強調する同氏は、開かれた社会や国際主義に対する脅威である。ナショナリズムの台頭という脅威だ。
今日の世界は1910年頃の世界と比較できる。当時も科学技術は進歩し、民主主義は機能し、グローバル化が進行していた。世界が民主的で満ち足りた発展を手にすることも可能だったはずだが、閉鎖的なナショナリズムの台頭が野蛮を産み落とした。2度の世界大戦だ。今日の世界も自らを閉ざそうとしているように見える。
私の考える、2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争だ。トランプ氏はロシアを友、中国を敵と見なしている。
南シナ海で人工島を建設する中国の動き、核・ミサイル開発を強行し続ける北朝鮮の動きなどを加算すると、アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海と南シナ海で起こりうる全てのことが心配だ。大きな危険がそこにある。もし将来、日米と中国が戦争に至る事態になれば、世界戦争に拡大するだろう。そうならないように、私たちは今、脅威の存在をしっかりと知っておく必要がある。
軍事的な火種はこの他に五つ。ロシア対ウクライナなどの旧ソ連圏、インド対パキスタン、中東、アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織「イスラム国」。「イスラム国」はイラクで支配地域を失うかもしれないが、リビアなど別の国で新たな支配地域を得るに違いない。
そして、更なるテロが起きる。並外れた数の難民・移民が発生する。世界は緊張をはらみ、不安定になる。
だが、「世界の警察官」はいない。米国はオバマ政権時代にその役回りから降りている。「アラブの春」の後に軍事クーデターの起きたエジプトに介入せず、化学兵器を自国民に使用したシリアのアサド政権をたたかなかった。米国は既に世界から手を引きつつあるのだ。私は2006年に米国が撤退する世界に警鐘を鳴らしたが、現実のものになりつつある。
米に代わる大国は現れるか 欧州の統合前に進む
固体の積み荷を運ぶ船で、積み荷が液体に急変したら運航は危うくなり、最初の横揺れにも耐えられまい。民主主義諸国で今、民意は瞬時に急変し得る。昨日選ばれた指導者が今日は見捨てられる。ポーランド出身で英国に住む偉大な哲学者、ジグムント・バウマン氏の言葉を借りれば、現代世界は「液状社会」になっている。そこにポピュリズム(大衆迎合主義)の波動が生じる余地がある。
米国が世界から撤退することで、世界はますます不安定になる。既に世界中で暴力への回帰が起きている。だが、米国に取って代われる国はない。
中国は地域大国としての野心はあるが、世界の大国になる野心はない。中国にはインドやアフリカ、欧州、南米の紛争に際し審判役を引き受ける意思はない。
ロシアにはその意欲はある。だが、真の目的はロシアを安定化することにある。不凍港への到達手段を確保するという思惑もあろう。
自らの責務は地球大に広がっていると自覚する大国がない。そのことが危険なのだ。
脅威は多い。経済的には世界的危機を招きかねない脅威は2017年に六つある。
まず、中国のバブル崩壊。次に、国際貿易紛争。これは米国と欧州で保護主義が進行する場合に発生しうる。第三は、イタリアの銀行破綻に端を発する欧州危機。ユーロ圏は依然として不完全で、危うさを備えている。弱いユーロを望むフランスと強いユーロを望むドイツの相違が目立ってきている。第四は、債務危機。日本も人ごとではない。続いて、米国発の金融危機。最後に原油価格を巡る危機だ。
しかし、悲嘆に暮れるべきではない。物事の悪い面だけを見てはいけない。
中国とインドで今後も中間層が拡大する。アフリカの中間層も増える。その結果、大きな市場が誕生する。科学技術は更に進歩する。米国は今年、力強い成長を見せるだろう。
米国は欧州、地中海、中東から撤退していくだろうが、それは欧州にとって福音でもある。
欧州にとって欧州防衛は死活的に重要だ。欧州防衛を成功させるには、欧州の団結が不可欠だ。米国がいなくなることになれば、欧州の国々は一緒になって行動を起こす。従来、滞ってきた統合が前に進み、欧州が再び国際政治に重みを持つことが可能になる。
確かに英国が欧州連合(EU)を離脱すれば、EUは軍事大国を一つ失うことになる。ただ、離脱は2年先で、まだ時間がある。決まったわけではない。
欧州の市民も防衛費の増額には賛成するだろう。頼みの米国がいなくなるのだから。市民は安心を求めるものだ。日本も防衛費を増やすことになるだろう。
脅威のレベルを減じるためにも、欧州は敵を減らすべきだ。私は対露接近が必要だと思っている。 (聞き手 編集委員 鶴原徹也)
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仏経済学者ジャック・アタリ氏
Jacques Attali 経済学者、経営コンサルタント、途上国支援の公益法人代表、作家など多彩な顔を持つ。ミッテラン仏大統領(在職1981~95年)側近として欧州統合に関わった。「21世紀の歴史」など著書多数。73歳。
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「世界は重苦しい傾向にある。社会は分裂し、かつ閉鎖的になってきた。」「今日の世界は1910年頃の世界と比較できる。」「2017年の最大の脅威は日米と中国の紛争」と語っておられます。
「アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海と南シナ海で起こりうる全てのことが心配だ。大きな危険がそこにある。」と言うのです。ロシア対ウクライナなどの旧ソ連圏、インド対パキスタン、中東、アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織「イスラム国」といった、五つの火種を越え、東シナ海、南シナ海での日米と中国の対抗を挙げているのです。
経済面からは、世界的危機を招きかねない脅威として、中国のバブル崩壊、米国と欧州で保護主義が進行する場合に発生しうる国際貿易紛争、イタリアの銀行破綻に端を発する欧州危機、債務危機、米国発の金融危機。最後に原油価格を巡る危機の六つの脅威を挙げておられます。
一方、ポジティブな着目点も挙げておられ、中国とインドで今後も中間層が拡大とアフリカの中間層の増加による大きな市場が誕生、科学技術の進歩、米経済の力強い成長を指摘されています。欧州の学者さんらしいのは、米国の欧州、地中海、中東からからの撤退は、欧州にとって福音だとの指摘。米国がいなくなることになれば、欧州の国々は一緒になって行動を起こす様になると。
頼みの米国がいなくなるのだから。欧州の市民は安心を求め、防衛費の増額には賛成する。日本も防衛費を増やすことになるだろうとも。。
欧州で、これだけ極東での中国の脅威を論じていていただけるのはありがたい。中国が覇権拡大を進める源泉となってきたのは、対欧州貿易や欧州からの投資が大きい。欧州勢が眼を開いて中国の脅威の認識を高める一助となっていただきたい。習近平の「一帯一路」政策は、シルクロードの地域への経済進出であると同時に、中東から地中海、そして欧州への覇権拡大。つまり、米国が撤退する空白地域への進出なのですから。
つまり、南シナ海、東シナ海だけでなく、その次は、欧州が中国の覇権拡大の標的とされていることに、速く目覚めていただきたい。
# 冒頭の画像は、仏経済学者ジャック・アタリ氏
この花の名前は、ペラペラヨメナ
↓よろしかったら、お願いします。