習近平国家主席が8月11日、食べ残しなど飲食の浪費行為を徹底的に制止し、節約習慣を教育する重要指示を行ったのだそうです。
習近平の“倹約令”は今に始まった話ではないが、なぜ今さら「食べ残し禁止」の重要指示なのか。
地方政府や業界、市場ではかなり異常で過剰な反応を引き起こしているのだそうです。
習近平の指示は、次のようなもの。
「飲食の浪費現象は目に余る驚きであり、心が痛む。皿の中の食事にどれだけの人々の苦労が詰まっていることか。我が国の食糧生産は豊作年が続くが、食糧安全に対しては終始危機意識が必要だ。今年は新型コロナ肺炎のパンデミックの影響があり、さらに我々は警鐘を鳴らさねばならない」
立法を強化し、監督管理を強化し、効果的な措置をとるための長期的に有効なメカニズムを打ち立て、飲食浪費行為を断固制止せよ、と指示。
“重要指示”が出ると、全国各地の政府や関連業界は急遽対応に着手。
それらの対応は奇妙なほど過剰で、滑稽ですらあると福島さん。
習近平の倹約令(八項目規定)は2013年に打ち出されて以降、何度も繰り返し指示が出されてきた。だが、今回の重要指示は、ちょっとレベルが違う印象だと。
これまでの倹約令では、ターゲットは公務員で、贅沢な宴会を禁止するのが目的だった。だが、今回は明らかに庶民の食生活を念頭に置いていると。
背景には食糧危機の問題がある、と多くの人たちが感じているのだそうです。
5月ごろから、中国では食品価格の高騰が目立ち、食糧の買いだめ行為がニュースになっていた。そこへ、7月に習近平が、中国の穀倉地帯でもある吉林省の松遼平原を訪れ、食糧安全に重要な関心を示した。
そのことも、今年の中国は食糧供給に不安があるのではないか、というシグナルになっていたと福島さん。
中国国家糧食物資備蓄局の発表(8月12日)では、備蓄用穀物購入が2割減少。7月の関税当局のデータによれば、今年上半期の小麦輸入量は335万トンで前年と比較すると倍に増えているのだそうです。
共産党中央理論誌「求是」上に掲載された原稿の中で、新型コロナウイルス感染症が中国の食糧加工、物流、配送などに影響を与えていることを認め、同時に一部の国が食糧輸出制限措置をとったことで、中国国内に食糧安全に対する関心と懸念が高まっていると指摘。
中国の食糧安全はここ数年なかったほどの圧力と試練がもたらされていると。
新型コロナの影響だけではない。80年ぶりと言われる豪雨洪水災害の爪痕も大きいと福島さん。
さらに、蝗害(こうがい:バッタなどの大量発生による災害)がすでに中国国内で始まっている。
そして、とどめを刺すのが米中関係の先鋭化。米国産大豆や小麦を輸入できないだけでなく、南シナ海や台湾海峡で米中間の軍事的衝突が起きかねないほどの緊迫した状況になると、「戦時食糧備蓄」の観点から民間の食糧安全はさらに厳しい局面を迎えかねないと。
ほんの60年前、中国人は数千万人の餓死者を出す激しい飢饉を経験している。だからこそ、この重要指示はとても不気味なのだと。
飢えの時代は動乱の時代の始まり。中国で起きている、奇妙なレストランの注文制限などを笑っている場合ではないかもしれないと福島さん。
米中の新冷戦時代。中国国内の食料不足への影響が出始めている。それが、新型コロナウイルスの武漢肺炎感染拡大や、水害、蝗害も重なり、国民の食生活に及ばざるをえないレベルになってきていて、習近平が「食べ残し禁止令」を出さねばならない事態に至っている。
世界経済は、リーマンショック以上の打撃を受け、しかも長期化すると言われていますが、リーマン時には中国経済が回復をリードしました。
今回も、早くも中国経済の回復が見られるとの報道が散見されますが、どうなのでしょう。
中国経済、コロナ禍からの回復で世界リード-個人消費が今後の鍵 - Bloomberg
# 冒頭の画像は、今年2月にアフリカ東部を襲ったサバクトビバッタの大群
中国「食べ残し禁止令」は今秋の食料危機への注意報 洪水、バッタ、アフリカ豚コレラで食料生産が大打撃(1/3) | JBpress(Japan Business Press)
この花の名前は、ホオベニエニシダ
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習近平の“倹約令”は今に始まった話ではないが、なぜ今さら「食べ残し禁止」の重要指示なのか。
地方政府や業界、市場ではかなり異常で過剰な反応を引き起こしているのだそうです。
飲食業界は騒然、中国「食べ残し禁止令」の不気味 新型コロナ、洪水、バッタ大量発生で忍び寄る食糧危機(1/4) | JBpress(Japan Business Press) 2020.8.20(木) 福島 香織
中国の習近平国家主席が8月11日、食べ残しなど飲食の浪費行為を徹底的に制止し、節約習慣を教育する重要指示を行った。この指示が、かなり異常で過剰な地方政府や業界の反応を引き起こしている。習近平の“倹約令”は今に始まった話ではないが、なぜ今さら「食べ残し禁止」の重要指示なのか。
国営通信社の新華社によれば、中国共産党中央総書記であり国家主席であり中央軍事委主席である習近平の指示は、次のようなものだった。
まず習近平は「飲食の浪費現象は目に余る驚きであり、心が痛む。皿の中の食事にどれだけの人々の苦労が詰まっていることか。我が国の食糧生産は豊作年が続くが、食糧安全に対しては終始危機意識が必要だ。今年は新型コロナ肺炎のパンデミックの影響があり、さらに我々は警鐘を鳴らさねばならない」と強調した。
そして、立法を強化し、監督管理を強化し、効果的な措置をとるための長期的に有効なメカニズムを打ち立て、飲食浪費行為を断固制止せよ、と指示を出した。このために宣伝教育を強化し、切実に節約習慣を教育し、社会全体で浪費を恥とし節約を栄誉とするムードを作るように求めた。
習近平はこれまでも食糧安全と節約励行・浪費反対を提唱する社会のムードを重視し、何度となく飲食浪費行為の制止を強調してきた。2013年1月に倹約を求める重要指示を出して以来、何度も同様の指示を出し、厳格な制度の執行、効果的な監督検査、厳粛な懲戒メカニズムなどを求め、公金消費における各種の違法行為や規律違反を抑制してきた。
第18回党大会以来、各地域の各部門は、習近平の重要指示の精神を徹底して実施し、「光盤行動」(皿を空にする行動)などのキャンペーンを展開して浪費ムードをけん制し、“舌の上の浪費”現象を改善させてきた。これにより、特に大衆からの反発が強かった公金による飲食浪費行動を抑制することができた。だが、一部地方では飲食浪費が依然存在しているので、関連部門は習近平の重要指示精神を徹底的に実施し、さらに効果的な措置を制定し、社会全体で飲食浪費抑制を推進しているところである──。以上が新華社が伝える今回の指示の概要だ。
飲食業協会やレストランの過剰な対応
この“重要指示”が出ると、全国各地の政府や関連業界は急遽対応に着手した。しかし、地方紙や地方テレビで報じられた例をみると、それらの対応は奇妙なほど過剰で、滑稽ですらある。
たとえば、武漢の飲食業協会では先日「N-1」注文モデルの導入を提案した。「N人のテーブルで注文する料理の数は、人数分よりマイナス1であるべき」という意味だ。つまり、4人で食事にいったとき注文料理数は3品まで、5人で食事に行けば注文する料理は4品まで、ということになる。
遼寧省の飲食料理産業協会、遼寧省レストラン飲食協会はさらにさらに厳しく「N-2」注文モデルを提案。食事をする人数より2皿少なく注文する、という意味である。だがN-2モデルだと、2人以下で食事に行くと一品も注文できないことになるではないか。
北京市の飲食協会は「食糧節約」の看板を掲げるよう加盟店に要求し、小皿料理など少量の食事を適切な価格でサービスするよう指導した。北京料理人協会はテイクアウトメニューにも節約精神を導入するよう指示している。顧客の側も食事方法の改善が求められる。北京市が6月1日から実施している「北京市文明行為促進条例」では、レストランで適量を注文し、残さずに食べることが食糧節約に有効である、と規定している。
広東省珠海市では、すでに2013年から飲食浪費処罰暫定弁法規定を発布しており、顧客に多すぎる料理を注文させたレストランに対して地元政府が警告を行い、もし経営者が改善を拒否したり指定期間内に改善できなかった場合は、2000元以上1万元以下の罰金を科すことになっているという。
また湖南省長沙のあるレストランは8月14日から“体重計注文”を導入。レストラン内に電子体重計を置き、まず顧客に体重を計ってもらい、その体重に見合ったカロリー計算表をもとにした理想のメニューを提示する、という。この方法だと、体重40キロの女性客は、牛肉の煮込みの小皿と魚の頭の山椒焼きの2品しか注文できない。体重80キロの男性だと、紅焼肉なども加えて3品まで注目できるそうである。顧客に適切なカロリーの料理を提供すると同時に、食べ残しも防げる、というアイデアらしい。
しかし、レストランに食事に行って体重を計らなければならないことへの抵抗感は大きい。「こちらが金を払って食べるのに、なぜ体重やカロリーのことを店からごちゃごちゃ言われなければならないのか」といった不満の声も上がっている。
さらにひどいのが、陝西省西安市のとあるレストラン。客が食べ残したら、そのテーブルを担当した服務員(ウエイトレス、ウエイター)が罰を受ける、という制度を導入した。
陝西テレビの報道によれば、西安真愛年華中国餐館というレストランは、服務員が適切な料理の注文を取ったかどうかを月給に反映させるシステムを導入。客人が食事を終えたときに、食べ残しが発生していたら、その食べ残し量に応じて、勤務評価にマイナス点をつけるという。そのマイナス点に応じて、ウエイトレス、ウエイターの給料が変わるというわけだ。
しかし、客が料理を残すのはウエイターやウエイトレスの責任なのか。料理がまずいから残されたとすれば、料理人の問題ではないか。立場の弱い者に責任を押し付けている、という批判が出ている。
また、「淘宝喫貨」と呼ばれるネット上の食レポ動画には、貴州省貴陽市のあるシシカバブ屋の浪費抑制策が紹介されていた。それは、客が食べ切れなかったシシカバブを回収して、もう一度焼き直して“高温殺菌”して、別の客に出すというやり方だ。しかし、さすがにそれは「受け入れられない」「不衛生」とネットユーザーの間で炎上し、投稿された動画は間もなく削除された。貴州省市場管理監督管理局はネットメディア澎湃新聞の取材に答え、すでにその店は指導を受けて、食べ残し肉の再利用はおこなっていない、としている。
また、ネット上の動画サイトは、習近平の重要指示後、一斉に「大胃王動画」(大食い動画)を削除し始めた。CCTVが8月11日に、大食い動画の問題点を「深刻な浪費」として批判的に報じたことで、「大胃王」という言葉そのものが、政府に目をつけられる要注意のワードになりつつある。
背景にある食糧危機の恐れ
習近平の倹約令(八項目規定)は2013年に打ち出されて以降、何度も繰り返し指示が出されてきた。だが、今回の重要指示は、ちょっとレベルが違う印象だ。これまでの倹約令では、ターゲットは公務員であり、公務員が公金を使って高級レストランで食べ切れないようなフカヒレ、アワビ、北京ダックを皿に並べ、飲み切れないほどの茅台酒の栓を何本もあけるような贅沢な宴会を禁止するのが目的だった。だが、今回は明らかに庶民の食生活を念頭に置いている。
この背景には食糧危機の問題がある、と多くの人たちが感じている。中国当局としては繰り返し、ここ数年連続で中国は豊作である、ということを強調しているが、その公式アナウンスを信じられない気持ちが、「食べ残し禁止令」に対するいびつな反応に現れているのではないだろうか。
今年(2020年)5月ごろから、中国では食品価格の高騰が目立ち、食糧の買いだめ行為がニュースになっていた。7月に習近平が、中国の穀倉地帯でもある吉林省の松遼平原を訪れ、食糧安全に重要な関心を示したことも、今年の中国は食糧供給に不安があるのではないか、というシグナルになっていた。
中国国家糧食物資備蓄局が8月12日に発表した8月5日までの小麦累計購入総数は4285万トンで、前年同期比938万トン減。つまり備蓄用穀物購入が2割減少した。一方、2020年7月の関税当局のデータによれば、今年上半期の小麦輸入量は335万トンで前年と比較すると倍に増えている。同局は今年6月の共産党中央理論誌「求是」上に掲載された原稿の中で、新型コロナウイルス感染症が中国の食糧加工、物流、配送などに影響を与えていることを認め、同時に一部の国が食糧輸出制限措置をとったことで、中国国内に食糧安全に対する関心と懸念が高まっていると指摘。中国の食糧安全はここ数年なかったほどの圧力と試練がもたらされている、としている。
新型コロナの影響だけではない。80年ぶりと言われる豪雨洪水災害の爪痕も大きい。
8月13日に中国国家洪水旱魃予防総指揮部の発表したところによれば、今年の洪水被害で600万ヘクタールの農地が被害を受け、うち114.4万ヘクタールの収穫がゼロだという。これがどのくらいの規模かというと、中国全土の今年の早稲の植え付け面積が475.1万ヘクタールとされている。
同総指揮部の周学文秘書長は会見で「今年の洪水災害が中国の糧食安全に影響を与えることはない」と語っているが、説得力に欠ける。現に7月の食品インフレ率は前年同期比13.2%、うち豚肉価格は前年同期比86%となっている。
さらに言えば、蝗害(こうがい:バッタなどの大量発生による災害)がすでに中国国内で始まっている。雲南省、湖南省、吉林省、黒竜江省で被害が広がっており、しかも、東北地域や湖南省のイナゴは、中国が当初警戒していたアフリカ、中央アジアからのサバクトビバッタとは違う、中国国内で発生した種類だと言われている。この被害を食い止められるのかどうか。
とどめを刺すのが米中関係の先鋭化だ。米国産大豆や小麦を輸入できないだけでなく、もしも南シナ海や台湾海峡で米中間の軍事的衝突が起きかねないほどの緊迫した状況になると、「戦時食糧備蓄」の観点から民間の食糧安全はさらに厳しい局面を迎えかねない。
中国は今でこそ飽食の時代を謳歌し、2013年から2015年までの間、都市部の食物廃棄量は毎年1700万~1800万トンにのぼっていた。これは3000万~5000万人の1年間の食事量に匹敵する。だが、ほんの60年前、中国人は数千万人の餓死者を出す激しい飢饉を経験している。飢餓の恐ろしさは日本人よりも骨身にしみているのだ。だからこそ、この重要指示はとても不気味なのである。
飢えの時代は動乱の時代の始まりだ。そうなれば日本にも影響は及ぶ。中国で起きている、奇妙なレストランの注文制限などを笑っている場合ではないかもしれないのだ。
中国の習近平国家主席が8月11日、食べ残しなど飲食の浪費行為を徹底的に制止し、節約習慣を教育する重要指示を行った。この指示が、かなり異常で過剰な地方政府や業界の反応を引き起こしている。習近平の“倹約令”は今に始まった話ではないが、なぜ今さら「食べ残し禁止」の重要指示なのか。
国営通信社の新華社によれば、中国共産党中央総書記であり国家主席であり中央軍事委主席である習近平の指示は、次のようなものだった。
まず習近平は「飲食の浪費現象は目に余る驚きであり、心が痛む。皿の中の食事にどれだけの人々の苦労が詰まっていることか。我が国の食糧生産は豊作年が続くが、食糧安全に対しては終始危機意識が必要だ。今年は新型コロナ肺炎のパンデミックの影響があり、さらに我々は警鐘を鳴らさねばならない」と強調した。
そして、立法を強化し、監督管理を強化し、効果的な措置をとるための長期的に有効なメカニズムを打ち立て、飲食浪費行為を断固制止せよ、と指示を出した。このために宣伝教育を強化し、切実に節約習慣を教育し、社会全体で浪費を恥とし節約を栄誉とするムードを作るように求めた。
習近平はこれまでも食糧安全と節約励行・浪費反対を提唱する社会のムードを重視し、何度となく飲食浪費行為の制止を強調してきた。2013年1月に倹約を求める重要指示を出して以来、何度も同様の指示を出し、厳格な制度の執行、効果的な監督検査、厳粛な懲戒メカニズムなどを求め、公金消費における各種の違法行為や規律違反を抑制してきた。
第18回党大会以来、各地域の各部門は、習近平の重要指示の精神を徹底して実施し、「光盤行動」(皿を空にする行動)などのキャンペーンを展開して浪費ムードをけん制し、“舌の上の浪費”現象を改善させてきた。これにより、特に大衆からの反発が強かった公金による飲食浪費行動を抑制することができた。だが、一部地方では飲食浪費が依然存在しているので、関連部門は習近平の重要指示精神を徹底的に実施し、さらに効果的な措置を制定し、社会全体で飲食浪費抑制を推進しているところである──。以上が新華社が伝える今回の指示の概要だ。
飲食業協会やレストランの過剰な対応
この“重要指示”が出ると、全国各地の政府や関連業界は急遽対応に着手した。しかし、地方紙や地方テレビで報じられた例をみると、それらの対応は奇妙なほど過剰で、滑稽ですらある。
たとえば、武漢の飲食業協会では先日「N-1」注文モデルの導入を提案した。「N人のテーブルで注文する料理の数は、人数分よりマイナス1であるべき」という意味だ。つまり、4人で食事にいったとき注文料理数は3品まで、5人で食事に行けば注文する料理は4品まで、ということになる。
遼寧省の飲食料理産業協会、遼寧省レストラン飲食協会はさらにさらに厳しく「N-2」注文モデルを提案。食事をする人数より2皿少なく注文する、という意味である。だがN-2モデルだと、2人以下で食事に行くと一品も注文できないことになるではないか。
北京市の飲食協会は「食糧節約」の看板を掲げるよう加盟店に要求し、小皿料理など少量の食事を適切な価格でサービスするよう指導した。北京料理人協会はテイクアウトメニューにも節約精神を導入するよう指示している。顧客の側も食事方法の改善が求められる。北京市が6月1日から実施している「北京市文明行為促進条例」では、レストランで適量を注文し、残さずに食べることが食糧節約に有効である、と規定している。
広東省珠海市では、すでに2013年から飲食浪費処罰暫定弁法規定を発布しており、顧客に多すぎる料理を注文させたレストランに対して地元政府が警告を行い、もし経営者が改善を拒否したり指定期間内に改善できなかった場合は、2000元以上1万元以下の罰金を科すことになっているという。
また湖南省長沙のあるレストランは8月14日から“体重計注文”を導入。レストラン内に電子体重計を置き、まず顧客に体重を計ってもらい、その体重に見合ったカロリー計算表をもとにした理想のメニューを提示する、という。この方法だと、体重40キロの女性客は、牛肉の煮込みの小皿と魚の頭の山椒焼きの2品しか注文できない。体重80キロの男性だと、紅焼肉なども加えて3品まで注目できるそうである。顧客に適切なカロリーの料理を提供すると同時に、食べ残しも防げる、というアイデアらしい。
しかし、レストランに食事に行って体重を計らなければならないことへの抵抗感は大きい。「こちらが金を払って食べるのに、なぜ体重やカロリーのことを店からごちゃごちゃ言われなければならないのか」といった不満の声も上がっている。
さらにひどいのが、陝西省西安市のとあるレストラン。客が食べ残したら、そのテーブルを担当した服務員(ウエイトレス、ウエイター)が罰を受ける、という制度を導入した。
陝西テレビの報道によれば、西安真愛年華中国餐館というレストランは、服務員が適切な料理の注文を取ったかどうかを月給に反映させるシステムを導入。客人が食事を終えたときに、食べ残しが発生していたら、その食べ残し量に応じて、勤務評価にマイナス点をつけるという。そのマイナス点に応じて、ウエイトレス、ウエイターの給料が変わるというわけだ。
しかし、客が料理を残すのはウエイターやウエイトレスの責任なのか。料理がまずいから残されたとすれば、料理人の問題ではないか。立場の弱い者に責任を押し付けている、という批判が出ている。
また、「淘宝喫貨」と呼ばれるネット上の食レポ動画には、貴州省貴陽市のあるシシカバブ屋の浪費抑制策が紹介されていた。それは、客が食べ切れなかったシシカバブを回収して、もう一度焼き直して“高温殺菌”して、別の客に出すというやり方だ。しかし、さすがにそれは「受け入れられない」「不衛生」とネットユーザーの間で炎上し、投稿された動画は間もなく削除された。貴州省市場管理監督管理局はネットメディア澎湃新聞の取材に答え、すでにその店は指導を受けて、食べ残し肉の再利用はおこなっていない、としている。
また、ネット上の動画サイトは、習近平の重要指示後、一斉に「大胃王動画」(大食い動画)を削除し始めた。CCTVが8月11日に、大食い動画の問題点を「深刻な浪費」として批判的に報じたことで、「大胃王」という言葉そのものが、政府に目をつけられる要注意のワードになりつつある。
背景にある食糧危機の恐れ
習近平の倹約令(八項目規定)は2013年に打ち出されて以降、何度も繰り返し指示が出されてきた。だが、今回の重要指示は、ちょっとレベルが違う印象だ。これまでの倹約令では、ターゲットは公務員であり、公務員が公金を使って高級レストランで食べ切れないようなフカヒレ、アワビ、北京ダックを皿に並べ、飲み切れないほどの茅台酒の栓を何本もあけるような贅沢な宴会を禁止するのが目的だった。だが、今回は明らかに庶民の食生活を念頭に置いている。
この背景には食糧危機の問題がある、と多くの人たちが感じている。中国当局としては繰り返し、ここ数年連続で中国は豊作である、ということを強調しているが、その公式アナウンスを信じられない気持ちが、「食べ残し禁止令」に対するいびつな反応に現れているのではないだろうか。
今年(2020年)5月ごろから、中国では食品価格の高騰が目立ち、食糧の買いだめ行為がニュースになっていた。7月に習近平が、中国の穀倉地帯でもある吉林省の松遼平原を訪れ、食糧安全に重要な関心を示したことも、今年の中国は食糧供給に不安があるのではないか、というシグナルになっていた。
中国国家糧食物資備蓄局が8月12日に発表した8月5日までの小麦累計購入総数は4285万トンで、前年同期比938万トン減。つまり備蓄用穀物購入が2割減少した。一方、2020年7月の関税当局のデータによれば、今年上半期の小麦輸入量は335万トンで前年と比較すると倍に増えている。同局は今年6月の共産党中央理論誌「求是」上に掲載された原稿の中で、新型コロナウイルス感染症が中国の食糧加工、物流、配送などに影響を与えていることを認め、同時に一部の国が食糧輸出制限措置をとったことで、中国国内に食糧安全に対する関心と懸念が高まっていると指摘。中国の食糧安全はここ数年なかったほどの圧力と試練がもたらされている、としている。
新型コロナの影響だけではない。80年ぶりと言われる豪雨洪水災害の爪痕も大きい。
8月13日に中国国家洪水旱魃予防総指揮部の発表したところによれば、今年の洪水被害で600万ヘクタールの農地が被害を受け、うち114.4万ヘクタールの収穫がゼロだという。これがどのくらいの規模かというと、中国全土の今年の早稲の植え付け面積が475.1万ヘクタールとされている。
同総指揮部の周学文秘書長は会見で「今年の洪水災害が中国の糧食安全に影響を与えることはない」と語っているが、説得力に欠ける。現に7月の食品インフレ率は前年同期比13.2%、うち豚肉価格は前年同期比86%となっている。
さらに言えば、蝗害(こうがい:バッタなどの大量発生による災害)がすでに中国国内で始まっている。雲南省、湖南省、吉林省、黒竜江省で被害が広がっており、しかも、東北地域や湖南省のイナゴは、中国が当初警戒していたアフリカ、中央アジアからのサバクトビバッタとは違う、中国国内で発生した種類だと言われている。この被害を食い止められるのかどうか。
とどめを刺すのが米中関係の先鋭化だ。米国産大豆や小麦を輸入できないだけでなく、もしも南シナ海や台湾海峡で米中間の軍事的衝突が起きかねないほどの緊迫した状況になると、「戦時食糧備蓄」の観点から民間の食糧安全はさらに厳しい局面を迎えかねない。
中国は今でこそ飽食の時代を謳歌し、2013年から2015年までの間、都市部の食物廃棄量は毎年1700万~1800万トンにのぼっていた。これは3000万~5000万人の1年間の食事量に匹敵する。だが、ほんの60年前、中国人は数千万人の餓死者を出す激しい飢饉を経験している。飢餓の恐ろしさは日本人よりも骨身にしみているのだ。だからこそ、この重要指示はとても不気味なのである。
飢えの時代は動乱の時代の始まりだ。そうなれば日本にも影響は及ぶ。中国で起きている、奇妙なレストランの注文制限などを笑っている場合ではないかもしれないのだ。
習近平の指示は、次のようなもの。
「飲食の浪費現象は目に余る驚きであり、心が痛む。皿の中の食事にどれだけの人々の苦労が詰まっていることか。我が国の食糧生産は豊作年が続くが、食糧安全に対しては終始危機意識が必要だ。今年は新型コロナ肺炎のパンデミックの影響があり、さらに我々は警鐘を鳴らさねばならない」
立法を強化し、監督管理を強化し、効果的な措置をとるための長期的に有効なメカニズムを打ち立て、飲食浪費行為を断固制止せよ、と指示。
“重要指示”が出ると、全国各地の政府や関連業界は急遽対応に着手。
それらの対応は奇妙なほど過剰で、滑稽ですらあると福島さん。
習近平の倹約令(八項目規定)は2013年に打ち出されて以降、何度も繰り返し指示が出されてきた。だが、今回の重要指示は、ちょっとレベルが違う印象だと。
これまでの倹約令では、ターゲットは公務員で、贅沢な宴会を禁止するのが目的だった。だが、今回は明らかに庶民の食生活を念頭に置いていると。
背景には食糧危機の問題がある、と多くの人たちが感じているのだそうです。
5月ごろから、中国では食品価格の高騰が目立ち、食糧の買いだめ行為がニュースになっていた。そこへ、7月に習近平が、中国の穀倉地帯でもある吉林省の松遼平原を訪れ、食糧安全に重要な関心を示した。
そのことも、今年の中国は食糧供給に不安があるのではないか、というシグナルになっていたと福島さん。
中国国家糧食物資備蓄局の発表(8月12日)では、備蓄用穀物購入が2割減少。7月の関税当局のデータによれば、今年上半期の小麦輸入量は335万トンで前年と比較すると倍に増えているのだそうです。
共産党中央理論誌「求是」上に掲載された原稿の中で、新型コロナウイルス感染症が中国の食糧加工、物流、配送などに影響を与えていることを認め、同時に一部の国が食糧輸出制限措置をとったことで、中国国内に食糧安全に対する関心と懸念が高まっていると指摘。
中国の食糧安全はここ数年なかったほどの圧力と試練がもたらされていると。
新型コロナの影響だけではない。80年ぶりと言われる豪雨洪水災害の爪痕も大きいと福島さん。
さらに、蝗害(こうがい:バッタなどの大量発生による災害)がすでに中国国内で始まっている。
そして、とどめを刺すのが米中関係の先鋭化。米国産大豆や小麦を輸入できないだけでなく、南シナ海や台湾海峡で米中間の軍事的衝突が起きかねないほどの緊迫した状況になると、「戦時食糧備蓄」の観点から民間の食糧安全はさらに厳しい局面を迎えかねないと。
ほんの60年前、中国人は数千万人の餓死者を出す激しい飢饉を経験している。だからこそ、この重要指示はとても不気味なのだと。
飢えの時代は動乱の時代の始まり。中国で起きている、奇妙なレストランの注文制限などを笑っている場合ではないかもしれないと福島さん。
米中の新冷戦時代。中国国内の食料不足への影響が出始めている。それが、新型コロナウイルスの武漢肺炎感染拡大や、水害、蝗害も重なり、国民の食生活に及ばざるをえないレベルになってきていて、習近平が「食べ残し禁止令」を出さねばならない事態に至っている。
世界経済は、リーマンショック以上の打撃を受け、しかも長期化すると言われていますが、リーマン時には中国経済が回復をリードしました。
今回も、早くも中国経済の回復が見られるとの報道が散見されますが、どうなのでしょう。
中国経済、コロナ禍からの回復で世界リード-個人消費が今後の鍵 - Bloomberg
# 冒頭の画像は、今年2月にアフリカ東部を襲ったサバクトビバッタの大群
中国「食べ残し禁止令」は今秋の食料危機への注意報 洪水、バッタ、アフリカ豚コレラで食料生産が大打撃(1/3) | JBpress(Japan Business Press)
この花の名前は、ホオベニエニシダ
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