「モノノ怪」 というアニメを見る機会がありました。
だいぶ前に深夜枠で放送されたものらしく、5つの物語がオムニバス形式で 12話にわたって描かれています。
いちおうホラーアニメらしいんだけど、怖いとかおぞましいとかいう感じはあまりなくて、むしろ美術面などで高い評価も得ているようです。
で、5つのうちの2番目 「海坊主」 というのが、今回取り上げるお話。
江戸へ向かう商船 「そらりす丸」 。
乗っているのは、船主と船頭のほか 個性豊かな6名の客。
順調な航海のはずが、何者かにより羅針盤を狂わされ、アヤカシが集う魔の海域へと誘い込まれてしまいます。
乗客のひとりで主人公 (狂言回し的役割でもある、全12話にわたって登場する唯一の人物) の薬売りの男が、まとわりつくアヤカシやモノノ怪から船を守るべく、怪異の大元を解き明かそうとするのですが。。。。。
ここからはネタバレになりますので、お読みになりたくない方はごめんなさい、ここまでになさってください m(__)m
* * * *
羅針盤に細工し、航路を曲げて 他の乗客もろとも 船を魔海に連れ込んだのは、高名な僧侶・源慧。
源慧が言うには、そこが魔の海域となったのは、50年前 源慧の身代わりとなって、荒れた海を鎮める人柱として 虚ろ船に乗り込んだ妹・お庸の怨念によるもの。
彼が最初に語ったところでは、自分は実の妹であるお庸に恋心を抱いており、それが人として・僧侶としての道を踏み外させ いつ何を引き起こすかわからないと恐れてもいた。
そんな恐れに脅かされながら生き続けるよりも 二親のいない自分たちを育ててくれた村人のために 人柱となろうといったんは決意したが、いざ虚ろ船を前にして 怖氣づいてしまう。
そこへ自分の身代わりを申し出たお庸は、驚いたことに 兄である自分を 同じくひとりの女性として慕っていた。
そんなお庸の氣持ちを知りながら、恐ろしさのあまり 一緒に虚ろ船に乗り込もうともせず逃げ出してしまった自分のせいで、妹は50年ものあいだ 恨みを抱いたままこの海をさまようことになったのだ、と。
しかし、モノノ怪の真(まこと)と理(ことわり)を見分ける 「退魔の剣」 を携える薬売りは、ほんとうの大元は お庸ではなく源慧であることを突き止めます。
源慧の最初の話は、真実を直視できないがために作られた、偽りの物語。
実際のところ、彼は妹を愛してもいなければ、僧侶の厳しい修行に耐えたのも 出世して金や名声を得たいがため。
身代わりを申し出るお庸を前に 内心 「助かった~、馬鹿じゃねーのか、こいつは?」 とうそぶく源慧、相当なろくでなしに描かれています (中の人・ 中尾隆聖さんの演技がすごいです) 。
が。。。
偽りの物語の中で、お庸が兄を慕っており 進んで身代わりを引き受けたという部分だけは ほんとうのことでした。
それほど深く愛される喜びと同時に 己の醜さをも知ってしまった源慧は、そんな醜い自分を認めることができず、 それゆえにかえって肥大してしまったその部分は ついには彼から分離して アヤカシと一体化し、魔の海域を作り上げたのです。
それが、モノノ怪・海坊主の正体。
長々とあらすじを書いてしまいましたが、この物語の、自分のネガを正視できないあまり、ついにはそれが独立した魔となって 災いをなすまでに至る、というところ、ものすごく響くものがあったんですね。
たぶん、このタイミングだったから 特に。
もちろんこれはアニメのお話、フィクションだけれど、その本質は そっくりそのまま現実の私たちに当てはまる。
心の奥底では ネガも自分だとわかっている、でも認めまいと抗う氣持ちもまた 半端なく強力。
そのせめぎ合いが どれほどの負を生み出すものか。
自分やまわりの人に どれほどつらい思いをさせるものか。
源慧さんは、自分がモノノ怪だとの真を突きつけられて それはもうえらいことになってました (具体的な描写はアニメをごらんください) が、現実でも 心が分離した人間には、それぐらい強大な負のパワーが 潜在的に宿っているんじゃないかな。
そして、ふだん押し殺されているそれは、ふとしたきっかけで、ささいな言い争いから 果ては命にかかわる事件や戦争にまで発展する可能性を秘めている。
だから、そういう氣持ちを持たないようにしましょう、というのが ここで言いたいことではないのです。
忌み嫌い恐れて厄介者にしてしまう その負とは、ほんとうにそこまで認めがたく醜いものなのか?
続きは次に。
※モノノ怪・東映アニメーション公式サイトは こちら。