Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

きらきらひかる

2007-05-02 | 日本映画(か行)
★★★★ 1992年/日本 監督/松岡錠司

「薬師丸ひろ子は、昔からずっといい女優だった」

情緒不安定でアルコール依存症の笑子(薬師丸ひろ子)と、同性愛者の医師・睦月(豊川悦司)が親の勧めで見合いをし、お互いのことをわかったうえで結婚。やがて夫の「恋人」の青年・紺(筒井道隆)も交えた友情とも愛情ともつかない不思議な三角関係が始まる…


松岡錠司監督の映画の魅力って何だろうと思って改めて見直したんだけど、映像的なところでは全然わかんないのです。このアングルが、とか、この画面の切り方が、とかそういう批評がとんとできなくて。ただね、確実に一つ言えるのは、登場人物全員が「とてつもなくいい奴」に見える、ということ。もちろん、事実、設定として「いい人」なんですよ。だけど、それ以上にカメラを通してその人物の愛らしさが伝わってくる、というのかな。ホント、みんな憎めない。たぶん、それは監督がすごく愛情を持って、人物を描こうとしているからだろうと思う。「バタアシ金魚」も「私たちが好きだったこと」も同じように感じたし。

そういう風に改めて思うと、これから見る予定の「東京タワー」がすごく楽しみ。だって、ボクもオカンもオトンも、みんな憎めないヤツだもんね。

さて、この作品では、とにかく薬師丸ひろ子の愛らしさというのが際だっている。彼女、こんなにキュートなんだ!って、しみじみ感じちゃった。アル中っていう設定で、昼間からグラスにウィスキーをどぼどぼ入れて飲むんだけど、その仕草のなんとまあ、かわいらしいこと。アンニュイに窓の外をぼんやり見つめたり、ウェイトレスに喧嘩売ったり、かなり情緒不安定だけど、どれもこれも嫌みがない。まさしく、睦月が「これ以上笑子を苦しめられない」と言わせてしまうキュートさにあふれています。

豊川悦司は「12人の優しい日本人」でデビューした直後だし、筒井道隆も「バタアシ金魚」で松岡監督がデビューさせて2年後の出演。非常にフレッシュでイケメンのふたりに、ちゃんとねっとりした(笑)キスシーンをさせているのもイイですね。やるときゃ、やるみたいな。そもそも、ふわふわしたキャラ設定だけに、ちゃんとしたラブシーンが非常に効いてくる。

基本的には、睦月を巡る三角関係なわけです。しかし、睦月は「どっちを取る」とかそういう次元では動いていない。ただ、心の赴くままに任せているというような感じ。その彼の優しさは、普通の三角関係においては究極の優柔不断で、やってはいけないこと。しかし、この3人の場合はちと違う。お互いがお互いに依存しているわけではないんだけど、誰が欠けても不完全というようなバランスが出来つつある。うん、バランスだな。3人でやっと平面に立てる、そんなバランス。それに、睦月の優柔不断ぶりが嫌みにならないのは、豊川悦司という男の存在感のなせるわざでもある。彼の持っている透明感が睦月という男をとても純粋な心の持ち主に見せている。

さて、ゲイのカップルをめぐる男女3人の物語というと、橋口監督の「ハッシュ」があります。共に女がゲイのカップルに割って入って、しかも人工授精まで考えるという点まで酷似しているが、「ハッシュ」がお互いの人生により積極的に関わろうとしているのに対して、「きらきらひかる」の3人は、川を流れる漂流物のように寄り添いあって漂っている感じ。このふんわりした時の流れが感じさせてくれる居心地の良さが松岡錠司監督の持ち味なんだろう。