Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン

2007-05-27 | 日本映画(た行)
★★★★☆ 2007年/日本 監督/松岡錠司

「もっとオカンを見たかった」


ようやく見ることができました、東京タワー。公開からかなり日にちが経っているにも関わらず、館内はほぼ満員で、かつ、実に年齢層が高いことにビックリ。中高年マーケットの間でクチコミで広まっているのかしら。

原作も読んだし、2時間ドラマも見たし、ストーリーも、泣きのポイントも重々分かっているため、やはり物語への感情移入は難しかった。それでも、この映画を見に行ったのはオダギリジョーが見たかったから。いつもクセのある役が多いオダジョーがボクをどう演じるのか見たかった。結果としては、彼ならではの個性が生きているからこそ、世間一般の泣ける映画に成り下がることはなかったと思う。この物語は「ボクが好青年ではない」というところがポイントであり、業界人っぽいファッションやロンゲ、斜に構えた感じがボクのイメージにぴったりだった。

しかし、演技では樹木希林の存在感の方が遙かに上回った。私はこの物語をオカンの物語として捉えた読者だったので樹木希林のすばらしいオカンぶりが一番印象に残った。最も好きなシーンはボクが大学を留年しそうになって電話をかけるシーン。「なんで、がんばれんかったんやろうねえ」と何度もつぶやくオカン。このセリフはいいなあ。なんで留年したの?じゃないんですよ。なぜ、がんばれなかったのか…。オカンの愛と人柄を感じるなあ。普通は「バカタレ!」となるでしょ。しかも母子家庭で東京に仕送りまでしてるんですよ、それなのにボクときたら…。あと、卒業証書ね。このあたりはめちゃめちゃじわ~んと来ました。

さて、原作の映画化においては、監督が「何を残して、何を捨てるか」というのも大きなポイントです。私はオカンが上京後、オカンの食事に誘われて友人が集まってくる様子をもっと濃密に描いて欲しかった。オカンの料理をもっと見せて欲しかった。「食べ物につられてやってくる」というエピソードは私は重要だと思ってます。ただ、これを残してこれを削れば良かった、という感想を原作ありきの作品で論じることに意味がないとは、重々分かっているのですけれど。

で、この映画は142分もあります。これは正直長いと思う。少年時代に少し時間を使いすぎた。それから、オカンの死後ね。通常「死」は、物語のクライマックスに来るもの。しかし、オカンが死んでも物語はまだ続く。これをどこでどう収集をつけるか、という点は今作品で一番頭を悩ませるところじゃないかな。私は、やや引っ張りすぎたと思う。そして、ボクの語り、これがくどい。長さも見せ方も、まだまだ削ぎ落とすことができた、と思います。

最後に脚本に関して。闘病中の現在を軸に、時間が前後するやり方は、特に後半効果的には見えなかった。少年時代が終わってからは、むしろ時間通りに進めた方がオカンの死に向けてより感情移入できたと思う。そして、樹木希林のオカンぶりをもっと堪能できる脚本にして欲しかった。これだけ尺の長い作品にも関わらず、もっとオカンの笑顔やオカンらしい言動が見たかった、という物足りなさが残る。その気持ちは、それだけ樹木希林の演技が冴えていたということの表れなのかも知れないが。リリーさんご指名の松尾スズキ氏なので、リリーさんは納得なんだろうね。