太平洋のまんなかで

南の島ハワイの、のほほんな日々

キネシオロジー

2020-04-28 09:40:37 | 不思議なはなし
自分ではわからないけれど、
大地の奥でマグマが動き始めるように、人生の奥で何かが始まっていることがある。

そのとき私は39歳で、職場の健康診断で背骨が湾曲しているといわれた。
15年以上もデスクワークしてたら、背骨も歪みもするだろうが、
まあ整体にでも行ってみるかと思い、
ネットでみつけた、職場の比較的近いところにある整体院の門を叩いた。

整体は初めてで、いったいどんなことになるのかと思いつつ、待合室に座っていた。
パーテーションを隔てただけの向こう側から、ぼそぼそと話声が聞こえてくる。

「その後、どうですか」
「はい、おかげさまで姑と穏やかに話せるようになりまして」
「それはよかった」
「先生が言ってた、しこりはやっぱり私の心にあったんですね」

私の頭には「?」がいっぱい。
ここは整体院のはず。
間違ったところに来てしまったのでは・・・・・・・

私の番になり、おそるおそる台に乗ると、
にこにことした小太りの先生が、私の背中を押してくれた。
「これはすごい。人間というより机を押しているみたいですね」
そのあと、何かの液体が入った瓶を私の右手に握らせ、先生が押さえている左手を曲げてみよ、と言う。
右手に握るものを次々と変えながら、左手を曲げてみる。
曲がるときもあれば、曲がらないときもあった。
私の頭はますます「?」でいっぱいになる。
最初の治療はそれでおしまい。
「あのぅ、私の背骨は・・・・」
「ああ、背骨ね。大人になったら、もう背骨は元には戻らないんだヨ」
「はぁ、そうですか」

私は背骨を治しに来たのに、その背骨は戻らないと言われているのに、
なぜか私は回数券を買った。どうしてかはわからない。

行くたびに、背中を押す。
全身を温風に包んでくれる機械に入る(気持ちがよくて寝てしまう)。
何かを右手に握らせて、左手を曲げる。
無口な先生はただにこにことしており、私は何をしているのかさっぱりわからないまま、通っていた。


何回目だったろう。
右手に液体の瓶を握り、左手の肘を曲げる、ということをしていたときに、先生が言った。
「頭の中で、あなたが嫌いな人をひとりずつ思い浮かべてみて」
私は職場の、苦手な事務員をまっさきに思い浮かべ、めんどくさい社員を思い浮かべた。
そのほかには思い浮かばなかった。
すると、穏やかに先生が言った。

「だんなさんは苦手ですか」

先生は何を言っているのかわからなかった。
家庭の話を先生にしたことはなかったし、私は当時の夫を思い浮かべてはいなかった。
相手のことを苦手だとか思ったことは・・・・・なかった。
と、思う・・・・・・??


その質問は、私の平らにならした心の表面に、決定的な杭を打った。
私は幸せにやっている、はず。
相手に対する不満も、人並ぐらいにあるだけ、のはず。
杭のその下から、11年かけて埋めて埋めて埋め続けた本音が、じわじわとあふれてきた。
結婚した日から、日に日に私は相手を恐ろしく思うようになり、その時には大っ嫌いだった。
恵まれていて幸せだと思うべきだと思っていて、1度だって幸せではなかった。
でもそのことを直視するのが怖くて、埋め続けていた。

本音は止めようもなく心に満ちて、私は目をそらすこともできなくなり、
数か月後に、私はとうとう噴火をして家を出た。
その次に整体院に行ったとき、
「先生、私、夫と別居したんですよ」と言うと
「おやおや、まあまあ」
先生は小さな目をしばしばとさせながら言った。


そのとき、右手に液体を持って、左手の肘を曲げる、というのが
キネシオロジーというものだと知ったのは、つい最近だ(遅すぎ)
液体は、トマトであるとかコーヒーであるとかのエネルギーが入っていたのだろう。
嫌いな人を思い浮かべたときに、
思い浮かべてもいない当時の夫のことを、どうして先生が指摘したのかはわからない。
けれども、なにかが私を強い力で導き、あの整体院に行かせ、
その同じ力が、私をここまで連れてきたと信じているのである。