落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

はないちもんめ

2008年12月15日 | book
『人身売買をなくすために―受入大国日本の課題』 JNATIP編 監修:吉田容子
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日本国内の人身売買の被害者は推計80万人(ぐり調べ)。
なんていっても普通、どこにそんなにかわいそうな人たちがいるのかぴんとこない、という人がほとんどじゃないだろうか。
でも実際、被害者は日本中どこにでもいる。
たとえばあなたの家の近所のアパートには、一部屋に何人もひしめくように同居している外国人たちがいて、夕方になると迎えのクルマがやって来て彼女たちをどこかへ連れていく、なんて光景はみられないだろうか。
たとえばあなたの住んでいる街のスーパーには、ときどき食材をまとめ買いに連れて来られる外国人女性グループがいないだろうか。
たとえばあなたが同僚や友人と遊びに行くスナックには、異常に肌の綺麗なベビーフェイスのホステスがいたりしないだろうか。
彼女たちはもしかすると、違法な借金を背負わされ、虐待され、行動の自由を奪われて強制的に働かされ、搾取されている被害者かもしれない。それが人身売買かもしれない。

2004年にアメリカ国務省が発表した人身売買報告書で人身売買大国と非難された日本。
日本に行けば家族に仕送りができると騙されて連れて来られる外国人、幸せな結婚ができると信じて異国からやって来て売り飛ばされる花嫁、ハンサムで優しいホストに貢がされて地方の風俗店を転売される家出少女、80年代に表面化した日本の人身売買市場は今に至るまでまったく何の歯止めもなくとめどもなく拡大し続けて来た。なぜなら、日本には2005年まで、人身売買そのものを取り締まる法律が存在しなかったからだ。まったくあっと驚くためごろうとはこのことだ。書いてて自分でサムいけど、シャレでもいわないとやってられない惨状ですから。
2005年にやっと刑法が改正されて人身売買罪が新設されたものの、まだこの法律の存在が入管・警察を含む関係各省庁・自治体に周知されておらず、そもそも直接人身売買を取り締まり、被害者を救済すべき関係各部署にすら人身売買に関する最低限の知識が行き届かないのが現実だったりする。道は遠い。遠過ぎる。気絶しそうなくらい遠い。

この本はそうした日本での人身売買の現状と、現場で求められている救済、人身売買に関わる国際法と海外各国の取り組み、日本で今後整備されるべき法制度についてコンパクトに整理してまとめてある、いわば日本の人身売買の教科書のようなもの。誰にでも読みやすく簡潔に、かつ丁寧に書かれているいい資料である。日本で人身売買?なんのこと?って人でも読めば一発でわかる。
だからぐり的にはとくに目新しい情報とかはなくて、今までに参加したいろんなワークショップやら何やらで聞いた話のおさらいみたいなものでした。2004年刊行なので情報も微妙に古い。けど日本の人身売買について知りたい、という人には断然オススメの資料でございます。

人身売買被害者のホットラインを開設しているポラリス代表の藤原氏は「人身売買問題の周知徹底」をまず第一目標に掲げているが、日本でもどこでも、性産業に従事している女性に対して誰もが勝手に「お金目当てに好きこのんで見知らぬ人間と寝る愚かな女」という偏見を持っている。事実はどうあれ、個人の事情を知りもしないで一方的にそう思いこむのはいずれにせよ偏見でしかない。それがこの問題の解決を阻む最も厚い壁になっている。
その偏見は、人身売買なんて他人事だという、これもまた根拠のない思いこみからくる無関心である。でも実際に日本国内で売買される被害者たちの現実を無視してまで、「そんなものは他人事だ」といいきってしまうのは既に立派な人権侵害だし、そうした行為はそのまま加害者である暴力団など地下組織の違法行為に加担しているのと同じことだとぐりは思う。
もしかしたら言い過ぎかもしれないけど、あえてそういいたい。いうくらいはいわせてほしいです。


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