落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

If you’re going to cut - cut it straight. Triangles.

2015年04月11日 | movie
『パレードへようこそ』

1984年、不況にあえぐイギリス。炭坑夫のストへの苛烈な弾圧を目にしたマーク(ベン・シュネッツァー)は、ゲイ仲間に呼びかけて坑夫たちを支援するグループ・LGSMを結成。紆余曲折の末、ウェールズの炭坑町ディライスが支援を受け入れることになるが、セクシュアル・マイノリティに免疫のない保守的な田舎町で、LGSMは予想通りの軋轢を生み出す。
84~85年の全国炭坑労働者組合のストライキ時に実際に起こった出来事を描く。ゴールデン・グローブ賞作品賞受賞作。

一昨年、サッチャー元イギリス首相が亡くなったとき、彼女の厳しい経済政策に苦しめられたイギリス人たちがパーティーを開いたという報道が記憶に新しいですが。この物語はそのサッチャー政権時代、エイズが流行し始めたイギリスのゲイコミュニティと、その対極にあるような地方の労働者コミュニティの交流がモチーフになっている。
マークたちから寄付を受取った坑夫代表のダイ(パディ・コンシダイン)が、ロンドンのゲイバーでお礼のスピーチをするシーンがある。

When you're in a battle against an enemy so much bigger than you, to find out you had a friend you never knew existed, well, that's the best feeling in the world.
巨大な敵と闘っているとき、どこかで見知らぬ友が応援してくれていると思うと、最高の気分です。

ゲイに出会ったこともなかったダイはこんな風に喜んでくれたが、もちろん村全体が初めからそうだったわけではない。知らない、わからないというだけで敬遠する人もいれば、世間体をとにかく気にする人もいるし、あからさまな嫌悪感を示す人もいる。委員長のヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)やシャン(ジェシカ・ガニング)のように初めから何の偏見もなく彼らを歓迎する人もいるのだが、おもしろいなと思ったのは、彼ら全員を含めてキャラクターのバックグラウンドがほとんどストーリーに直接出てこないというところ。つまり、画面上ではどの差別にも偏見にも、何の理由も根拠も示されないということだ。
それだけではない。過酷なストの背景にすら説明はない。映画は全部、徹頭徹尾、ふたつの市民グループが交わって引き起こす化学変化だけを表現している。
だから、歴史的な政治対立を描いているにもかかわらず、作品の雰囲気が全然政治的じゃない。単純に人と人とがつながりあうことのあたたかさ、美しさ、そして困難を、とにかく丁寧に、きっちりと再現してみせようとしている。
なので登場人物が多かったりストーリーが何度も何度も二転三転するのに、非常にすっきりとして観やすい映画でした。コメディなんだけど感動できて、ほろっとする部分もある。
世代的にいえば全編にふんだんに使用された80年代のディスコミュージックが懐かしかったです。ひさびさクラブに行きたくなった。

ほとんどの登場人物の細かい設定が描かれないのに対して、ひとりだけやけに詳しく背景ばかり強調されている子がいた。20歳のクローゼット・ゲイ、ジョー(ジョージ・マッケイ)だ。
家族にも自分の性的指向を打ち明けることができないため、活動に参加していることも秘密にし、嘘ばかりついているジョー。1年後に彼も大きな変化を見せるのだが、このひとりの若いゲイの葛藤を小出しに差し挟むことで、彼らが連帯を必要とする意味をさりげなく表現しているところに、作品の成熟度を強く感じた。
セクシュアル・マイノリティの人権活動家たちが主人公といえば、もっとハードな内容を期待する観客がいてもおかしくない。ゲイコミュニティの物語なんだからもっと華やかな世界観をもとめる観客もいるだろう。だがあえてそんな観客の期待を外しておいて、そのうえでジョーという非力な狂言回しを用いて、ゲイが抱える悩みと、ゲイとして生きる喜び、ゲイ同士の友情をストレートに描いている。ちょっと地味なようでとてもバランスがとれた映画だと思いました。

個人的には主人公たちがとりくんでいることと、自分がふだんやってることにいろいろと重なる部分もあり、無駄に共感し過ぎて上映中何度も涙が出てしまった。
人と人とが信じあったりつながりったりするのって、やっぱり心あたたまるものです。言葉でいうほど簡単じゃないけど、結局はそれが生きていくうえで何よりも大事なことだと思う。そういう当たり前のことを素直に思いだしました。
映画に出てきた人たちが、いまも元気に仲良く幸せに暮らしていることを、心から願います。