落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

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2015年04月23日 | movie
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

90年代にコミック原作のヒーロー映画シリーズでスターになったリーガン(マイケル・キートン)。壮年を過ぎて、“スター”ではなく俳優になりたいと再起を懸けて憧れのレイモンド・カーヴァーの短編を自らの主演で舞台化し、ブロードウェイで上演しようとするのだが・・・。
『バベル』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥがバットマンシリーズのキートンを主演にタフでリアルなショービジネス界の裏側を描くブラックコメディ。アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞・撮影賞、ゴールデングローブ賞男優賞他、2014年度の賞レースを総なめにした話題作。

アカデミー賞はおいといてイニャリトゥだしカーヴァーだし、とりあえず観るでしょ、ってことでまったく前情報なしで観に行ったんだけど、うん、超おもしろかった。素晴らしい。たまにいい映画とか芝居とか観ると、すごく疲れてたのが嘘みたいに元気になっちゃうことがあるけど、最近だと『ゴーン・ガール』以来かな。
とにかくもう全部のシーン、全部の台詞がムチャクチャ身につまされる。聡明な妻(エイミー・ライアン)に去られ、多感な娘(エマ・ストーン)はリハビリ帰り、借金と訴訟に追われ、才能は満ちみちているが人格的に問題のある共演者(エドワード・ノートン)には振り回されっぱなし、せっかくヒット作には恵まれたもののヒーロー映画に出ただけのただの有名人という評価には満足できず、自信もない。髪は薄くなってくるし腹は出てくるのに、恋人(アンドレア・ライズブロー)の妊娠におびえ、評論家(リンゼイ・ダンカン)から突きつけられるプレッシャーには堪えられない。
わかるよねえ。全部ものごつ聞いたことある話ばっかりです。心の中で首がもげるくらい頷きまくり。

主人公に共感するのに、観客はなにひとつ彼と共通点を持つ必要がない。べつに俳優じゃなくても、愛されたい、尊敬されたい、心をゆるしあいたい、存在を認められたいという欲求は誰にでもあるものだからだ。そしてその欲求は決して満たされることがない、それほど人は愚かで不器用で不完全な存在だからだ。それゆえに人は未来を夢見て前進してこれたのだ。
けどそのしょっぱい中2なセレブ根性をストレートに映画にしたところでただしんどいだけである。そこをイニャリトゥは全編ワンシーンワンカット(にみえるけど違う)という特殊な緊張感を持たせた映像技術と、映画にしか許されない特異なファンタジーを使って、うまく観客を笑わせることに成功している。ホントに文字通り飛び道具なんだけどね。ギリシャ悲劇でいうところの“デウス・エクス・マキナ”みたいなやつです。物語の本筋とは全然関係がないから。ただし『バードマン』の飛び道具=“機械”は主人公を助けるだけではないところがミソである。
飛び道具はあっても自信が持てずに戸惑ってばかりのリーガン。でもいずれにせよ、才能ってバカみたいに自分を信じてすべてをさらけだす勇気のことをいうんじゃないかなあ。そういう心のエネルギーが、相手の心を動かして感動を呼び起こすんじゃないかと思うんだけど。

シナリオやカメラワークもスゴイと思うけど、キャスティングも完璧です。
主演のマイケル・キートンはリアル“スーパーヒーロー”俳優だし、エドワード・ノートンもホントに無駄にフェロモンだだ漏らし気味のめんどくさい怪優キャラ(設定がインポってとこがおもしろすぎ)だし、彼の相手役で売れない女優を演じているのはあのナオミ・ワッツである。この人はなんでこんなにひたすら売れない女優役ばっかりやってるんだろね。もはや売れない女優役は彼女の専売特許かと思うくらいです。彼女がブロードウェイに出たかった、幼い頃からの夢がやっと叶うなんて真剣にいうだけでめちゃめちゃ笑える。持ちネタ化してる。

観ていて、監督もいろいろ今の世の中にムカつくことがいっぱいあるんだろーなーとしみじみ思い。
ハリウッドでヒット作といえば昨今は子ども騙しの特撮スペクタクルやパニック映画、テレビではどうしようもないリアリティショーばかりがもてはやされ、インターネットではSNSで誰もが好き勝手に発信しては、どうでもいいくだらないことばかりが分刻みで拡散され消費されていく。
どんなにその現実が受け入れがたくても、もう抵抗することなど誰にもゆるされない。成熟という段階を遥かに過ぎたアメリカのショービジネス界の行方をどうコントロールするべきなのか、答えはまだない。
ただ自分を信じてすべてをさらけだせたらどんなにいいだろう。そんな気持ちを思いきりぶつけられたような映画でした。観ててスカッとしました。



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